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94 違和感
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ざわりざわりと、体の中に得体の知れないなにかが這い回る感覚がある。
幸福に揺蕩うような夢心地に不意に現れたそれに気がついた春輝は、夢の中で目を覚ました。
辺りはどこまでも暗く、なにも見えない。
そんな中で、再び皮膚の下を直接撫でられたような不快感が、ゆっくりと体を包んだ。
ーー吐きそうなほどに気持ちが悪い。
一体これはなんなのだと、春輝は夢の中でもがき始める。体内で走り回るそれに気がつけば、違和感はさらに拡大していった。
どんなに覚醒しようともがいても、夢からは決して冷めることはなかった。
奈落の底に囚われたように、走っても走っても暗闇ばかりが続く。声を張り上げても、その声は広いのであろう暗い空間に解け消えるだけ。
いくら走れども抜け出せない夢は、まさに悪夢だ。徐々に体は重くなり、足を上げるのも苦しくなってくる。
息が詰まりそうな圧迫感が襲いくれば、春輝はとうとう足をもつれさせ転倒した。
漆黒の地面が倒れた春輝を飲み込もうと、軟化する。まるで底なし沼に嵌ってしまったように、ズブズブと沈む体は金縛りに遭ってしまったからのように、指先一つ動かせなかった。
ーー早く、早く、早くっ
一体何を待っているのかわからないが、春輝はただひたすらに何かを待っていた。
ぱちりと目を開ければ、体が鉛のように重い。寝巻きは汗でびしょりと濡れ、素肌に貼り付き気持ちが悪かった。
「起きられましたか」
衣擦れすら聞こえてないはずだが、すぐに春輝が目を覚ましたことに気がついたらしいトビアスが椅子から立ち上がって近づいてきた。
どこか不安気な表情を向けられ、春輝は僅かに眉を顰めトビアスを見やる。
「酷く魘されていましま」
「……起こしてくれ」
「それは私の仕事ではないので、難しいですね」
「……あぁ、知られたらきっとトビアスはどやされるな?」
「っ!! えぇその通りです」
先程の不安気な表情から一点、どこか安堵したようやな僅かに表情を緩ませたトビアスに春輝は頭に疑問も浮かべる。
どこに安堵するような要素があったのだろうか。そう考えてふと、自分の言った言葉を振り返る。
一体トビアスは誰にどやされるというのだろうか?
この部屋には春輝とトビアスの二人だけ。それにトビアスに対してそのような態度を取る人間は、この離宮にも城にもいない。
なにかが足りないような、そんな思いが頭の片隅で燻った。
春輝は無意識のうちにうさぎのぬいぐるみを抱き寄せ、その頭に顔を埋めた。
ふわりと顔に触れる生地が気持ちを少しばかり和らげる。手慰みにぬいぐるみの胴体を撫でていれば、カチャリと音が聞こえ、春輝は僅かに顔を上げた。
光に反射しキラリと光る赤いブローチは、寝る前に見た時より色が明るい。
その色に知らずに眉を寄せ、なぜあの深い色ではないのかと思ってしまう。
いちかと同じ色のはずであるのに、そのことが嬉しかったはずなのに。
何故かそれに違和感を感じて、言い知れぬ不快感を味わっていれば、一度側から離れたトビアスが不自由であるはずの足をそうは感じさせない足取りで戻ってきた。
「どうぞ、ハルキ殿」
「気が効くな」
目の前に差し出されたコップを受け取れば、その冷たさに自身の体が僅かに熱を帯びていることに気がつく。
気がつけば一気に体を冷やしたくなるもので、春輝は手にしたコップの中身を一気に飲み干した。
喉を潤す冷たい水が体に染み渡る。その中に更に染み渡るような何かがあるきがするが、ミントかなにかだろと春輝は考えていた。
「もう一杯飲みますか?」
「頼む」
コップを差し出せば、ピッチャーから新たな水がたっぷりと注がれた。
再びそれに口をつければその水には染み渡るような効能はなく、春輝は何気ない変化に内心首を捻るのだった。
幸福に揺蕩うような夢心地に不意に現れたそれに気がついた春輝は、夢の中で目を覚ました。
辺りはどこまでも暗く、なにも見えない。
そんな中で、再び皮膚の下を直接撫でられたような不快感が、ゆっくりと体を包んだ。
ーー吐きそうなほどに気持ちが悪い。
一体これはなんなのだと、春輝は夢の中でもがき始める。体内で走り回るそれに気がつけば、違和感はさらに拡大していった。
どんなに覚醒しようともがいても、夢からは決して冷めることはなかった。
奈落の底に囚われたように、走っても走っても暗闇ばかりが続く。声を張り上げても、その声は広いのであろう暗い空間に解け消えるだけ。
いくら走れども抜け出せない夢は、まさに悪夢だ。徐々に体は重くなり、足を上げるのも苦しくなってくる。
息が詰まりそうな圧迫感が襲いくれば、春輝はとうとう足をもつれさせ転倒した。
漆黒の地面が倒れた春輝を飲み込もうと、軟化する。まるで底なし沼に嵌ってしまったように、ズブズブと沈む体は金縛りに遭ってしまったからのように、指先一つ動かせなかった。
ーー早く、早く、早くっ
一体何を待っているのかわからないが、春輝はただひたすらに何かを待っていた。
ぱちりと目を開ければ、体が鉛のように重い。寝巻きは汗でびしょりと濡れ、素肌に貼り付き気持ちが悪かった。
「起きられましたか」
衣擦れすら聞こえてないはずだが、すぐに春輝が目を覚ましたことに気がついたらしいトビアスが椅子から立ち上がって近づいてきた。
どこか不安気な表情を向けられ、春輝は僅かに眉を顰めトビアスを見やる。
「酷く魘されていましま」
「……起こしてくれ」
「それは私の仕事ではないので、難しいですね」
「……あぁ、知られたらきっとトビアスはどやされるな?」
「っ!! えぇその通りです」
先程の不安気な表情から一点、どこか安堵したようやな僅かに表情を緩ませたトビアスに春輝は頭に疑問も浮かべる。
どこに安堵するような要素があったのだろうか。そう考えてふと、自分の言った言葉を振り返る。
一体トビアスは誰にどやされるというのだろうか?
この部屋には春輝とトビアスの二人だけ。それにトビアスに対してそのような態度を取る人間は、この離宮にも城にもいない。
なにかが足りないような、そんな思いが頭の片隅で燻った。
春輝は無意識のうちにうさぎのぬいぐるみを抱き寄せ、その頭に顔を埋めた。
ふわりと顔に触れる生地が気持ちを少しばかり和らげる。手慰みにぬいぐるみの胴体を撫でていれば、カチャリと音が聞こえ、春輝は僅かに顔を上げた。
光に反射しキラリと光る赤いブローチは、寝る前に見た時より色が明るい。
その色に知らずに眉を寄せ、なぜあの深い色ではないのかと思ってしまう。
いちかと同じ色のはずであるのに、そのことが嬉しかったはずなのに。
何故かそれに違和感を感じて、言い知れぬ不快感を味わっていれば、一度側から離れたトビアスが不自由であるはずの足をそうは感じさせない足取りで戻ってきた。
「どうぞ、ハルキ殿」
「気が効くな」
目の前に差し出されたコップを受け取れば、その冷たさに自身の体が僅かに熱を帯びていることに気がつく。
気がつけば一気に体を冷やしたくなるもので、春輝は手にしたコップの中身を一気に飲み干した。
喉を潤す冷たい水が体に染み渡る。その中に更に染み渡るような何かがあるきがするが、ミントかなにかだろと春輝は考えていた。
「もう一杯飲みますか?」
「頼む」
コップを差し出せば、ピッチャーから新たな水がたっぷりと注がれた。
再びそれに口をつければその水には染み渡るような効能はなく、春輝は何気ない変化に内心首を捻るのだった。
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