1 / 7
プロローグ1 転生する勇者
しおりを挟む
レヴナントは元々は貧困が問題の小国として知られていた。
それが大国として成り上がった背景には王を補佐する多くの人材によって成し遂げられたと伝わっているが、最も大きな要因は国王――ハイロスの存在だった。
ハイロスは優秀な一人の文官より多くの指南を受け、それが貧困に喘いでいた祖国を救い、大国へと発展するキッカケとなった。
文官の名前はシエーナ・グローメル。
彼女は身内の間ではシーナと言う愛称で呼ばれ、ハイロスも彼女の事は家族の様に信頼していた。
シーナは難民奴隷の出自だが雇用による選定の時に誰よりも高い成績を収め、ハイロスの護衛兼、教育係として選ばれたのである。
政で父との接点が少なく兄妹も居ないハイロスは早くに母も亡くし、シーナを姉のように思っていた。彼女もハイロスの事を家族のように接し、二人の絆は王子と配下の枠を超えて行くのに時間はかからなかった。
ハイロスが20になる頃、前王が崩御し、王位を継承したハイロスは祖国の民を貧困から救うために、他国の領地を取り込むことを決意する。
だが、それは武力によるものではなく、互いに手を取り合って協力関係を築こうという意思からだった。
生まれながらに持つカリスマと英才教育によって培ったの王としての風格は、同じ様に貧困に喘いでいた国々を繋ぐ大きな要素として機能していく。
小国は同盟国として盟約を誓い、その先頭に立つハイロスは小国から搾取していた帝国を打ち倒さねば後ろの者たちを救うことが出来ないと思うようになっていた。
歩けば歩くほど、ハイロスの護るモノは大きくなり、それに押しつぶされず乗り越えられたのは妻の存在と、幼少の頃より傍に仕えたシーナが支えてくれたからだった。
同盟国に賛同する国は日に日に増え、その規模が帝国も無視できないほどに大きくなった時、同盟国の代表であるハイロスは帝国の王と対話する機会を得た。
しかし、話し合いは決別。帝国はハイロスを殺すために刺客を放ったが、話し合いの場に同席していた仲間たちの命を賭した活躍によって阻止された。
ハイロスはただ一人帰還したが、多くの友を失った怒りは収まることは無く、同盟国は卑劣な帝国の行動に対して怒りに燃えた。
当時、シーナはハイロスに命じられて、彼の妻と子供を護る為に傍を離れていたのだった。
「陛下。少しお話をよろしいでしょうか?」
「何用だ? シーナ。これからの動きは先ほどの会議で全て話した」
「存じています。帝国と戦になるのですね……」
「俺が馬鹿だった。帝王は最初からそのつもりで話に応じたのだ。多くの友が俺を生かすために殺された」
「……陛下。帝国と同盟軍の力はほぼ拮抗しています。今の状態で戦になれば民に負担を強いる事になります」
「それでも討たねばならん! そうでなければ、ここまで集った者たちは何のためにこの場に居るのだ!?」
「義は我々にあります。帝国も一枚岩ではなく、こちらに傾こうとする勢力もあるようです。後数年で帝国の力は今の三分の二に落ちるでしょう」
「此度の決裂を忘れ、その数年を内政に向けろとお前は言うのか!?」
「ここまで同盟国が大きくなったのは、陛下の采配で多くの犠牲を抑えてきたからです。賢王ハイロスは、貧民を傷つけず、見捨てず、手を差し伸べる。その意思があるからこそ、皆が陛下の元に集うのです」
「それでは遅いのだ! 此度の奸計によって話し合いの段階はとうに超えた! お前でも解るだろう!」
「冷静になってください。陛下は後ろから続く者たちの希望にならなければならないのです」
「……この話はここまでだ。俺はお前の話してくれた【勇者】の様にはなれん」
「それではダメなのです! 陛下!」
去って行くハイロスの背はシーナの声が届かないほどに遠くへ行っていたのだった。
「……やっぱり、ダメなの? 何で……何で……人はこうも間違ってしまうの?」
レヴナントの中央広場。人気のない深夜にシーナは星空を見上げて呟いていた。
彼女の手には鞘に収まった一つの剣。世界の果てにいても、【勇者】が望めばその手に戻る『聖剣』の持ち主は、今まで一度も変わったことは無かった。
「それでもロス様。貴方は……貴方こそは、この世界を救ってくれると信じています」
シーナは『聖剣』を逆手に持つと広場の中央に突き立てた。
帝国との戦が終わってレヴナントに戻った時、小さい頃に話してくれた夢をもう一度思い出してくれることを願って――
その数日後、帝国の暗殺者からハイロスの妻子を護る為にシーナは命を落とす。
それは彼女が50歳になった年だった。
それが大国として成り上がった背景には王を補佐する多くの人材によって成し遂げられたと伝わっているが、最も大きな要因は国王――ハイロスの存在だった。
ハイロスは優秀な一人の文官より多くの指南を受け、それが貧困に喘いでいた祖国を救い、大国へと発展するキッカケとなった。
文官の名前はシエーナ・グローメル。
彼女は身内の間ではシーナと言う愛称で呼ばれ、ハイロスも彼女の事は家族の様に信頼していた。
シーナは難民奴隷の出自だが雇用による選定の時に誰よりも高い成績を収め、ハイロスの護衛兼、教育係として選ばれたのである。
政で父との接点が少なく兄妹も居ないハイロスは早くに母も亡くし、シーナを姉のように思っていた。彼女もハイロスの事を家族のように接し、二人の絆は王子と配下の枠を超えて行くのに時間はかからなかった。
ハイロスが20になる頃、前王が崩御し、王位を継承したハイロスは祖国の民を貧困から救うために、他国の領地を取り込むことを決意する。
だが、それは武力によるものではなく、互いに手を取り合って協力関係を築こうという意思からだった。
生まれながらに持つカリスマと英才教育によって培ったの王としての風格は、同じ様に貧困に喘いでいた国々を繋ぐ大きな要素として機能していく。
小国は同盟国として盟約を誓い、その先頭に立つハイロスは小国から搾取していた帝国を打ち倒さねば後ろの者たちを救うことが出来ないと思うようになっていた。
歩けば歩くほど、ハイロスの護るモノは大きくなり、それに押しつぶされず乗り越えられたのは妻の存在と、幼少の頃より傍に仕えたシーナが支えてくれたからだった。
同盟国に賛同する国は日に日に増え、その規模が帝国も無視できないほどに大きくなった時、同盟国の代表であるハイロスは帝国の王と対話する機会を得た。
しかし、話し合いは決別。帝国はハイロスを殺すために刺客を放ったが、話し合いの場に同席していた仲間たちの命を賭した活躍によって阻止された。
ハイロスはただ一人帰還したが、多くの友を失った怒りは収まることは無く、同盟国は卑劣な帝国の行動に対して怒りに燃えた。
当時、シーナはハイロスに命じられて、彼の妻と子供を護る為に傍を離れていたのだった。
「陛下。少しお話をよろしいでしょうか?」
「何用だ? シーナ。これからの動きは先ほどの会議で全て話した」
「存じています。帝国と戦になるのですね……」
「俺が馬鹿だった。帝王は最初からそのつもりで話に応じたのだ。多くの友が俺を生かすために殺された」
「……陛下。帝国と同盟軍の力はほぼ拮抗しています。今の状態で戦になれば民に負担を強いる事になります」
「それでも討たねばならん! そうでなければ、ここまで集った者たちは何のためにこの場に居るのだ!?」
「義は我々にあります。帝国も一枚岩ではなく、こちらに傾こうとする勢力もあるようです。後数年で帝国の力は今の三分の二に落ちるでしょう」
「此度の決裂を忘れ、その数年を内政に向けろとお前は言うのか!?」
「ここまで同盟国が大きくなったのは、陛下の采配で多くの犠牲を抑えてきたからです。賢王ハイロスは、貧民を傷つけず、見捨てず、手を差し伸べる。その意思があるからこそ、皆が陛下の元に集うのです」
「それでは遅いのだ! 此度の奸計によって話し合いの段階はとうに超えた! お前でも解るだろう!」
「冷静になってください。陛下は後ろから続く者たちの希望にならなければならないのです」
「……この話はここまでだ。俺はお前の話してくれた【勇者】の様にはなれん」
「それではダメなのです! 陛下!」
去って行くハイロスの背はシーナの声が届かないほどに遠くへ行っていたのだった。
「……やっぱり、ダメなの? 何で……何で……人はこうも間違ってしまうの?」
レヴナントの中央広場。人気のない深夜にシーナは星空を見上げて呟いていた。
彼女の手には鞘に収まった一つの剣。世界の果てにいても、【勇者】が望めばその手に戻る『聖剣』の持ち主は、今まで一度も変わったことは無かった。
「それでもロス様。貴方は……貴方こそは、この世界を救ってくれると信じています」
シーナは『聖剣』を逆手に持つと広場の中央に突き立てた。
帝国との戦が終わってレヴナントに戻った時、小さい頃に話してくれた夢をもう一度思い出してくれることを願って――
その数日後、帝国の暗殺者からハイロスの妻子を護る為にシーナは命を落とす。
それは彼女が50歳になった年だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる