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4話 転生する勇者
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「また、ダメだったよ」
今回は少し早かったね。
「家族を庇ったんだ。34歳で死んだよ」
皆、貴方の死に悲しんでる。
「……それでも終われない。今、“世界の意思”と話をした。本当に世界が救われないと僕の旅は終わらないみたいだ」
シグ。貴方はその運命を受け入れたけれど、その先には何もない……
「……何も悪い事をしていないヒトが悲しみ、悪事に手を染めるヒトが笑ってる。きっと間違った神様が創った世界なんだ。だからね、ゴゥ……僕は【勇者】としての責務を果たそうと思ってる」
悪意を全て失くしたとしても世界は救われない。それによって新たに悲しむ人が出るだけ。
「僕はヒトに希望がある事を知ってるよ。【魔王】と戦うと決めた時からね」
シグ……
「そろそろ行くよ」
まだ、ヒトを信じていた頃の僕はそれで世界を救えると信じていたんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで、君は僕に何をして欲しいのかな?」
シグは『聖剣広場』から少し離れたベンチに座っていた。傍らには剣を立てかけ、正面に腕を組んで立つセラと改めて話を進めていた。
「先ほども言いました。私たちに協力してください。【勇者】シグルム・ウェドナー」
「そうだね。その話は丁重に断らさせてもらおうかな」
笑みを浮かべたまま、シグは当然のような流れで協力はしないと返答する。
「……状況は分かってますか? 【魔王】が復活するのですよ?」
「うん、よくわかってるよ。でも【魔王】は復活できないし、イオンに借りは無いからね」
「…………【魔王】は復活できないとは?」
「600年前、“天空の庭園”で【魔王】は『太古の結晶』を使った。その余波になったエネルギーで“天空の底”に閉じ込めたんだ。封印を解くには『太古の結晶』を集めるしかない」
「では、その『太古の結晶』を集められたらどうするんですか?」
「加工しない限りは魔力も発しないし、見た目は粗悪品の宝石と変わらない。砂漠の中から一粒の砂を見つけるようなものだよ」
それでも、シグはかつての転生先で『太古の結晶』の一つを偶然見つけた。最終的には誰の手も届かないところに隠したのである。
「手に入れることが出来ても一つだけ。【魔王】の封印は解けない」
「ですが、絶対とは言い切れないのでは?」
セラは、師がわざわざ【勇者】に接触するように指示した背景には【魔王】の封印が解かれる何かしらの要因があるからだと察していた。
「……まぁ、イオンの言う事もわかるよ。600年前には表に出てこなかった【魔王】の配下が表に出てきたからね。『霊峰』を襲った奴、ナルガだっけ?」
「ソルガです」
「きっと【魔王】が抱える戦力の一つだと推測して、まだ他にも居る。少なくとも一人は【剣王】だよ」
世界でも最強の一角とされる【剣王】ビジルも【魔王】の配下の一人だろう。正直なところ彼女が敵である時点で、色々と詰んでいる所が大きい。
「【剣王】ですか。確かに強いとは思いますが、竜族が戦って勝てない相手とは思えません」
「【剣王】の異名は伊達じゃないよ。まぁ、下手に藪を突っつく必要はない。君たちとは違って僕は人間なんだ」
『霊峰』を襲撃するほどの力は確かに軽視はできないが狙いが『太古の結晶』であるのなら、下手に関わるべきではない。
それに、いくら『聖剣』があるとはいえ身体は生身なのだ。今回の転生した身体は純粋な人間であるため、種族的な優位点は何もない。
「僕が動いても【剣王】に首を斬られるのがオチさ」
彼女は殺すつもりはないと言っていたが、状況によっては手を出してくる可能性は十分にあるだろう。
「イオンに伝えてください。僕は忙しいから君たちで戦うといい、と」
こちらはこちらで手一杯なのだ。復活の兆しもない【魔王】相手に意識と時間を割く余裕はない。
「貴方には【勇者】としての責務は無いのですか?」
問われた言葉にシグは俯くと、苛立つ様に頭を掻く。そして――
「……君は体験したことはあるかい?」
俯いたままで表情は見えないが、口調からは押し込めたような憤怒が感じ取れる。
「僕の生涯は50年で固定されている。どんなに健康で病気とは無縁でも50年で必ず死を迎え、転生するんだ」
「…………」
「僕は600年の間、あらゆる種族に転生して何度も何度もヒトを導いてきた。【勇者】として世界を救うために」
「…………」
「考えた事はあるかい? 何度失敗を修正しても、何度上手くヒトを導いても、この世界は救われなかった」
何が悪い? 何を間違えた? 自分自身では世界を救うには時間が足りない。だからヒトを導くことにしたのだ。
しかし、導いたヒトは世界を救えなかった。転生したのがその証拠だ。世界はまだ救われていない。なら、何が悪かったのか、それさえも――
「もう、分からなくなってる。僕はね、【勇者】としての責務をずっと背負い続けているつもりだよ。だけど君たちからすれば他人事だ。だけどね僕がどれだけ、この世界を救うために身を削ってると思ってる?」
転生する度に家族が居て友が居る。多くの者たちに愛される。その中で出来る限り良い結末に向かおうと持てる限りの知識を持って対応してきた。しかし、それでも転生は止まらない。
“君の旅を終わりに出来る”
ふと、ビジルの言葉を思い出し、シグは疲れたように笑う。彼女が言った言葉が何よりも救いであるような気がした。
「……セラさん。どうすれば世界は救われると思う?」
何気ない言葉は、シグからすれば答えを期待しない質問だった。
「世界は救われません。だって、貴方が救われていないのですから」
セラの返答にシグは目を見開く。何か大事なことを見落としていたと気づいた様に、彼女の言葉は確信を突いていたからだ。
「世界とは貴方も含んでいるのでしょう? なら貴方も含めて救われなければならないのではないでしょうか」
「…………」
「私の要件は済みましたので明日には『霊峰』に帰ります。もし、私たちを助けてくれるのなら宿屋に来てください」
もう、家族の顔も思い出せない。それだけの時間を生きてきたんだ。いつだったっけ……僕が最後に故郷に帰ったのは――
ずっと、ずっと昔だったかな。あの時は【魔王】を倒して世界を救おうって『聖剣』を持って戦った。
【魔王】を封印して戦いは終わっても僕の旅は――終わらなかった。
世界は救われていない。どうやって救う? 僕個人では世界を救えない。50年の生涯では限界がある。
だからヒトを導いた。何度も世界を救うために。誰も悲しまない世界のために。だけど、ヒトは何度も繰り返した。何度も過ちを犯した。
悲しみは減らず、世界は救われなかった。それが結末なのだろうと、僕は結論を出した。
世界は救われない。
僕は……このまま世界の終りまで死と生を繰り返しながら、絶望を抱いて生きていくのだと……
“君の旅を終わりに出来る”
“なら貴方も含めて救われなければならないのではないでしょうか”
二つの意思が僕に問いかけた。
今回は少し早かったね。
「家族を庇ったんだ。34歳で死んだよ」
皆、貴方の死に悲しんでる。
「……それでも終われない。今、“世界の意思”と話をした。本当に世界が救われないと僕の旅は終わらないみたいだ」
シグ。貴方はその運命を受け入れたけれど、その先には何もない……
「……何も悪い事をしていないヒトが悲しみ、悪事に手を染めるヒトが笑ってる。きっと間違った神様が創った世界なんだ。だからね、ゴゥ……僕は【勇者】としての責務を果たそうと思ってる」
悪意を全て失くしたとしても世界は救われない。それによって新たに悲しむ人が出るだけ。
「僕はヒトに希望がある事を知ってるよ。【魔王】と戦うと決めた時からね」
シグ……
「そろそろ行くよ」
まだ、ヒトを信じていた頃の僕はそれで世界を救えると信じていたんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで、君は僕に何をして欲しいのかな?」
シグは『聖剣広場』から少し離れたベンチに座っていた。傍らには剣を立てかけ、正面に腕を組んで立つセラと改めて話を進めていた。
「先ほども言いました。私たちに協力してください。【勇者】シグルム・ウェドナー」
「そうだね。その話は丁重に断らさせてもらおうかな」
笑みを浮かべたまま、シグは当然のような流れで協力はしないと返答する。
「……状況は分かってますか? 【魔王】が復活するのですよ?」
「うん、よくわかってるよ。でも【魔王】は復活できないし、イオンに借りは無いからね」
「…………【魔王】は復活できないとは?」
「600年前、“天空の庭園”で【魔王】は『太古の結晶』を使った。その余波になったエネルギーで“天空の底”に閉じ込めたんだ。封印を解くには『太古の結晶』を集めるしかない」
「では、その『太古の結晶』を集められたらどうするんですか?」
「加工しない限りは魔力も発しないし、見た目は粗悪品の宝石と変わらない。砂漠の中から一粒の砂を見つけるようなものだよ」
それでも、シグはかつての転生先で『太古の結晶』の一つを偶然見つけた。最終的には誰の手も届かないところに隠したのである。
「手に入れることが出来ても一つだけ。【魔王】の封印は解けない」
「ですが、絶対とは言い切れないのでは?」
セラは、師がわざわざ【勇者】に接触するように指示した背景には【魔王】の封印が解かれる何かしらの要因があるからだと察していた。
「……まぁ、イオンの言う事もわかるよ。600年前には表に出てこなかった【魔王】の配下が表に出てきたからね。『霊峰』を襲った奴、ナルガだっけ?」
「ソルガです」
「きっと【魔王】が抱える戦力の一つだと推測して、まだ他にも居る。少なくとも一人は【剣王】だよ」
世界でも最強の一角とされる【剣王】ビジルも【魔王】の配下の一人だろう。正直なところ彼女が敵である時点で、色々と詰んでいる所が大きい。
「【剣王】ですか。確かに強いとは思いますが、竜族が戦って勝てない相手とは思えません」
「【剣王】の異名は伊達じゃないよ。まぁ、下手に藪を突っつく必要はない。君たちとは違って僕は人間なんだ」
『霊峰』を襲撃するほどの力は確かに軽視はできないが狙いが『太古の結晶』であるのなら、下手に関わるべきではない。
それに、いくら『聖剣』があるとはいえ身体は生身なのだ。今回の転生した身体は純粋な人間であるため、種族的な優位点は何もない。
「僕が動いても【剣王】に首を斬られるのがオチさ」
彼女は殺すつもりはないと言っていたが、状況によっては手を出してくる可能性は十分にあるだろう。
「イオンに伝えてください。僕は忙しいから君たちで戦うといい、と」
こちらはこちらで手一杯なのだ。復活の兆しもない【魔王】相手に意識と時間を割く余裕はない。
「貴方には【勇者】としての責務は無いのですか?」
問われた言葉にシグは俯くと、苛立つ様に頭を掻く。そして――
「……君は体験したことはあるかい?」
俯いたままで表情は見えないが、口調からは押し込めたような憤怒が感じ取れる。
「僕の生涯は50年で固定されている。どんなに健康で病気とは無縁でも50年で必ず死を迎え、転生するんだ」
「…………」
「僕は600年の間、あらゆる種族に転生して何度も何度もヒトを導いてきた。【勇者】として世界を救うために」
「…………」
「考えた事はあるかい? 何度失敗を修正しても、何度上手くヒトを導いても、この世界は救われなかった」
何が悪い? 何を間違えた? 自分自身では世界を救うには時間が足りない。だからヒトを導くことにしたのだ。
しかし、導いたヒトは世界を救えなかった。転生したのがその証拠だ。世界はまだ救われていない。なら、何が悪かったのか、それさえも――
「もう、分からなくなってる。僕はね、【勇者】としての責務をずっと背負い続けているつもりだよ。だけど君たちからすれば他人事だ。だけどね僕がどれだけ、この世界を救うために身を削ってると思ってる?」
転生する度に家族が居て友が居る。多くの者たちに愛される。その中で出来る限り良い結末に向かおうと持てる限りの知識を持って対応してきた。しかし、それでも転生は止まらない。
“君の旅を終わりに出来る”
ふと、ビジルの言葉を思い出し、シグは疲れたように笑う。彼女が言った言葉が何よりも救いであるような気がした。
「……セラさん。どうすれば世界は救われると思う?」
何気ない言葉は、シグからすれば答えを期待しない質問だった。
「世界は救われません。だって、貴方が救われていないのですから」
セラの返答にシグは目を見開く。何か大事なことを見落としていたと気づいた様に、彼女の言葉は確信を突いていたからだ。
「世界とは貴方も含んでいるのでしょう? なら貴方も含めて救われなければならないのではないでしょうか」
「…………」
「私の要件は済みましたので明日には『霊峰』に帰ります。もし、私たちを助けてくれるのなら宿屋に来てください」
もう、家族の顔も思い出せない。それだけの時間を生きてきたんだ。いつだったっけ……僕が最後に故郷に帰ったのは――
ずっと、ずっと昔だったかな。あの時は【魔王】を倒して世界を救おうって『聖剣』を持って戦った。
【魔王】を封印して戦いは終わっても僕の旅は――終わらなかった。
世界は救われていない。どうやって救う? 僕個人では世界を救えない。50年の生涯では限界がある。
だからヒトを導いた。何度も世界を救うために。誰も悲しまない世界のために。だけど、ヒトは何度も繰り返した。何度も過ちを犯した。
悲しみは減らず、世界は救われなかった。それが結末なのだろうと、僕は結論を出した。
世界は救われない。
僕は……このまま世界の終りまで死と生を繰り返しながら、絶望を抱いて生きていくのだと……
“君の旅を終わりに出来る”
“なら貴方も含めて救われなければならないのではないでしょうか”
二つの意思が僕に問いかけた。
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