懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第157話 二人からの贈り物

 改札を出て駅を抜けると、まだ夕焼けの帰路を歩く。
 9月も後半であるが、まだまだ暑さは夏だ。もう少し涼しくなれば過ごしやすくなりるのだが。

「おや。お帰り」
「こんばんは」

 アパートの前を掃き掃除している大家の赤羽さんと珍しく鉢合わせた。アロハシャツが派手なご老体。近くの塀の上には猫のジャックが座っている。

「今日は早いのだね」
「はい。赤羽さんはいつもこの時間に掃除を?」
「偶然だよ。君も偶然だろう?」
「ええ。偶然です」

 すると、屋根の上にカラスが留まった。相当大きな個体。こちらをじっと見ている様だ。

「ローレライか」
「あのカラス、名前があるんですね」
「この辺りの制空権はローの管理下だ。余程の事がなければ地上には干渉しない」
「そう言えばあまりごみ袋とか漁られたりしませんね」

 アパートのゴミ出し場はネットも無く、ボックスでもない。にも関わらず漁られた事も不法投棄も見たことがなかった。
 偶然かもしれないがローレライの、カラスにはあるまじき体格と威圧を見ればどことなく納得できる。

「彼が眼を光らせているのでね。しかし、こんな時間にここに来るのは少々妙だな」

 するとジャックが、じー、とローレライへ視線を送っている事に気がついた。獲物として狙ってるのかしら?

「ジャック止めなさい。お前じゃ彼に勝てないのは分かってるだろう?」

 赤羽さんの言葉を理解したのか、ジャックは塀から降りると、とことこと歩いて行った。

「ジャックの事、凄く理解してるんですね」
「付き合いは長いからね。無論彼とも」

 ローレライはその赤羽さんの言葉を応じる様に、カー、と鳴いた。

「ふふ。それでは」

 私は赤羽さんに一礼して、ローレライにも手を振ると階段を上がる。

「鮫島さん」

 と、一枚のコインが飛んで来たのでキャッチする。

「ハッピーバースデイ」

 それは私の誕生年の500円玉であった。





「お帰りなさい」

 セナは扉を開けるといつものようにリンカが出迎えてくれた。

「ただいま、いい匂いね~」
「お邪魔してます」
「あら、ケンゴ君」

 部屋の中にはケンゴも居る。リンカの料理を手伝っていた様子だ。すると、セナが何か思考を巡らせる前に、

「誕生日。おめでとう、お母さん」

 と、娘からの笑顔と心からの祝い言葉に思わず抱きついた。

「ありがとう、リンちゃん」
「お誕生日、おめでとうございます。今日は色々と期待してください」
「ふふ。そうしちゃおうかしら」

 色々と察してしまう事から、先にその言葉を言うことをケンゴとリンカは決めており、セナの様子からは良い感じで感動を与えられた様だ。

「お風呂入ってきて。出てくる時にはご飯出来るから」
「それじゃ~ケンゴ君は背中流してくれる?」
「……うぇ?」

 断れよ? とリンカは笑顔でケンゴの腕をつねる。

「浴室は狭いですし御一人でごゆっくりどうぞ!!」
「そう。残念~♪」

 早口で断られたセナは、おほほ、と口に手を当てて二人の反応を楽しんでいた。





 オレとリンカは夕飯の用意を済ませ、風呂上がりのセナさんを迎えた。
 ありがとー、と席に座るセナさんは次に何が飛び出すのかワクワクしてるご様子。

「セナさん。こいつをどうぞ」

 そんな彼女にオレは一つの缶酒を手渡す。するとセナさんはリンカを見た。

「それはノーカウント」

 と言う言葉に、ぱぁ! と笑顔になるセナさんは差し出す酒を受け取る。

「『神ノ島』。見たことない銘柄ね~」

 カシュ、グビ。数口飲んで、少し驚いた様子だ。

「それはウチの地元で造ってるお酒です。特注で甘さと苦味を絶妙に配合して、1日一缶で満足になりますよ。アルコール度数も低めなので、次の日に酔いも残らない一品です」
「凄くおしいわ」グビグビ。
「それが1ダース」

 オレは地元に頼んで送って貰った『神ノ島』を献上するようにセナさんの前に出す。ちなみに受注生産なので、世間には出回っていない。

「オレからのプレゼント――」

 と、言いきる前にもの凄い力でぐいっとセナさんに引き寄せられた。ミミックが獲物を捕らえた如く、豊満な胸に思いっきり抱き締められる。幸せだけど……息が……出来ねぇ……

「ありがとう、ケンゴ君。とても嬉しいわ」
「……喜んでもらえて……何よりです――」
「お母さん」

 と、リンカの声に拘束が揺るんだ隙をついて、オレはセナさんのホールドから脱する。幸せな柔らかさと共に天国へ送られる所だった……

「あたしはこれ」

 リンカは緊張するように一つの紙袋を手渡す。中身はオレも知らない。

「何かしら~♪」

 オレからの地酒と少し回った酔いでテンションが上がっているセナさんは、リンカからのプレゼントを取り出した。

「――これって」

 セナさんは紙袋に入っていた長方形の箱をテーブルに置く。そして、ラッピングを丁寧に取り、蓋を開けるとそこには一つのブレスレットが入っていた。
 市販の物ではない特別感のあるソレにはセナさんの生年月日とイニシャルが入っている。

「お母さんって、指輪持って無いでしょ? だから腕に何か着けられればって思って――わっぷ!?」

 すると、神殿の罠の様に今度はリンカがセナさんに引き寄せられた。そして、愛くるしく彼女を抱き締める。

「リンカ……お母さん。本当に……本当に嬉しいわ。本当に……」

 感極まってセナさんは、リンカを抱き締めたままホロリと涙を流す。あ、なんかオレも貰い涙出てきた。

「――えへへ。良かった」

 そんな母の様子にリンカも心から嬉しそうだった。
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