12 / 26
本編
08. day off
しおりを挟む「と、いうわけで。悠祈さん、買い物行こう」
「…え?」
ある休日の朝食後。
こころなしかいつもよりテキパキ食卓を片付けて、掃除洗濯まできっちり済ませたウィンと綾祇は、のんびりソファーで寛ぐ悠祈のもとに現れた途端にそう言った。
言われた方の悠祈はといえば、いつもと変わらずダサい組み合わせの私服を着て、ポカンとしている。
膝の上のオレンジ色の使い魔イヴも、主である悠祈と同じような顔をしている。
「えーっと…買い物?って僕も?」
「そう。ていうか、今日は悠祈さんの買い物だから」
「特に必要なものってないんだけど…」
言われたことがいまいち理解出来ず、視線を綾祇からウィンに向けても、いつもなら穏やかな笑顔を浮かべているはずの青年が、真剣な目で見つめ返してくる。
全く心当たりがない悠祈は、珍しく困惑した顔だ。
「綾祇クンと相談したのですが、悠祈サンをおしゃれにしようと思いまして。さすがにその格好はもったいないなあって」
「もったいないより、むしろ、ダサい。かっこいいくせに、ダサい。センス壊滅的」
「え…」
綾祇のあまりの言い様に驚き、自分の着ているものに視線を落とす悠祈。
黒のスウェットパンツに深緑のシャツ、そして、オレンジ色のロングカーディガン。
どれも気に入ったデザインの着心地のいいものだから、そんなに言われるほど酷いのだろうかと首を傾げてしまう。
そんな悠祈の様子をみて、盛大なため息をついて頭を抱える二人。
「悠祈さんの着てるものはいっこいっこはすごく良いのに、なんでその組み合わせなの?ってなるの。つまり、センスが悪い。だから、おれがファッションチェックするから!」
「綾祇クン、よろしくお願いしますね…!」
「…そこまでひどいかなあ…」
「ひどい。ひどすぎて、おれ、限界。ほら、出掛けるから着替えるよ。ついでに悠祈さんの持ってる服確認したいし!」
普段あまり積極的に話すタイプではないし、どちらかといえば素直じゃない綾祇の思いがけない剣幕に、悠祈はなされるがまま。
ぐいぐい引っ張られて、あれよあれよという間に自室のクローゼットを確認された。
綾祇が引っ張り出してきたのは、むかーし昔に店員おすすめと言って買った、グレーの細身のパンツに銀の糸で襟元に細やかな刺繍がされた黒のワイシャツ、白のロングカーディガン。
用意された服に着替え、いつ買ったんだっけ?と暢気に考えているうちに、髪型まで整えられてしまった。
「んー…まあこれならいいかな」
「わー。なんかすごいねえ」
「…悠祈さん…自分のことなのに…。まあ、とりあえず、これならなんとか出かけられる。買い物いこう!」
言うやいなや、悠祈の返事も待たずに、また綾祇に引っ張られる。
玄関ホールに出ると、身支度を整えたウィンとイヴが待ち構えていた。
「今あるもので整えてみたけど、どう?ウィンさん」
「すごくいいです!似合ってます!見違えました!」
「ピィ~!」
悠祈の変貌ぶりを喜ぶ2人と1匹をみてもあまりピンとこないが、ここまで喜ぶのだから多分悪いわけじゃないはず。
気を取り直して「買い物に行こうか」と声をかけると、みんなで仲良く出かけるのであった。
■■■
「なんというか…きみたち、すごい勢いでアレコレ買わせたね…」
夕暮れ時。
悠祈は両手にたくさんの服を入れた紙袋を持ち、ウィンと綾祇は腕いっぱいに食材を買い込んで、屋敷に戻ってきた。
悠祈が疲れたような声をあげるのも無理はない。
なにせ、2人と1匹がここぞとばかりにあれこれと服を着せ替え、どんどん購入していったのだから。
「こんなときでもないと、悠祈サン、服を買うこともないでしょうし」
「全部似合うやつだし、これからはおれがちゃんとコーディネートするから。任せてよ!じゃあ、悠祈さんの服、片付けてくる」
「綾祇クン、よろしくお願いしますね!あ。悠祈サンはもうソファーで休んでてくださいね!」
一日中街中を歩いて疲れはしたものの、普段は素直じゃない綾祇が嬉しそうににこにこしている姿を見せられては文句も言えない。
それに、ウィンまで味方につけてしまっているのだから、悠祈には全く勝ち目もない。
今日一緒に買い物をしてわかったのは、悠祈は服を組み合わせるセンスが壊滅的らしい、ということ。
ならば、これは大人しく綾祇におまかせするしかないな、と思わず苦笑いになってしまった。
そうしてウィンに言われた通り、夕陽の差し込む窓辺のソファーで横になった。
オレンジ色の使い魔のイヴは、こういう時の定位置である悠祈のお腹の上。
悠祈は、家事全般との相性がすこぶる悪い。
料理をすればこの世のものには見えない副産物が生まれ、洗濯をすれば逆に汚れやシワが増える。
片付けをしたそばから雪崩が起きてしまうという始末。
そんな悠祈が2人の手伝いなど出来るはずがない。
大人しくソファーで寛いでいると、屋敷の中を2人が動き回る気配がした。
ウィンが買い込んだ食材を片付け、夕飯の支度をする音。
綾祇が悠祈の買った服を綺麗にたたみ直して、運んでいく音。
開けた窓からゆるやかに流れてくる外の空気の匂い。
「…なんか、こういうの、いいなぁ…」
ぽつり、と。
こぼれた声に、なにより悠祈自身が驚いた。
そう言えば最近はやたらと死神が悪戯ばかり仕掛けてきていたし、綾祇が襲われかけたこともあって、なかなか心休まる日がなかった。
久しぶりの穏やかな一日を、思った以上に必要としていたのかもしれない。
不思議そうにお腹の上からこちらを見つめる使い魔を撫でながら、食事ができるまで…とゆるりと瞼を閉じる悠祈だった。
0
あなたにおすすめの小説
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる