猫被りの恋。

圭理 -keiri-

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優しい嘘、残酷な嘘 《高校2年生・夏秋》

第13話 可能性に懸けてみるのも悪くない

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〈SIDE: 蒼夜〉


あの日のあの言葉、俺は信じてもいいのだろうか。




















文化祭も無事終わり、ほんの少しだけ落ち着いた日々。
そうは言っても年明けの生徒会行事の準備があったりして、生徒会室に籠ることは多いけれど。
教室にいるよりは雑音が少ない生徒会室はいい逃げ場所になっている。

スイと“噂の彼女”はどうやらお付き合いを始めたらしい。
というのは、情報通の生徒会書記の話。
そんな話が出始めた文化祭あたりから、俺とスイはLINEのやりとりも減った。
それから、彼女のご要望をかなえるようで腹立たしいけれど、もう『スイ』と呼ばないようにした。
あからさまにゼロにはできないから、少しずつ。
きっと勘のいいスイは気付いているだろうけれど。

これは逃げだ。

ただ、あの日、彼女に呼び出されて詰られたことで、背中を押されたのも確かで。
あれから俺は限られた時間を、寝る間を惜しんで生徒会の雑務や勉強に費やした。
眠るのがイヤだと感じた。
もう二度と朝陽を見られない気がして。


減っていく睡眠時間。
酷くなる体の不調。
空廻る思考。



出来るだけ顔を見ないようにすると、どういうわけだか見かけることが多くなる。
それが俺の思考をさらに鈍らせ苦しめる。
ただでさえも身体的にきついのに、そういう精神的な追い討ちはきつい。
それが自分の選んだ結果だとしても。

見かける度にスイの隣には幸せそうに笑う彼女の姿。
学年で話題になるほどの仲睦まじいカップルの姿は、周りからも好意的に受け止められていて。
俺には手にすることのない『幸せ』な様子に、思わず目を細めた。



(春、だねぇ)




心の中でそっと呟いて何でもないようにすれ違おうとして、思わず足を止めた。
一瞬目に入ったスイの瞳。


笑っていない、冷めた瞳。


見てはいけないものを見てしまった気がして、俺は止めていた足を進めた。
見なければよかった。
気づかなければよかった。
心の中に湧き起こる罪悪感のようなもの。
思い出すのは、数日前のLINE。

距離をおいたとはいえ、これまでの習慣は抜けきらず、大したことのないやりとりを今でも時々している。
本当に何気ない話題だった。
『最近忙しいみたいじゃん』、そんな程度。
ライン越しであれば、俺がどんな状態であろうとバレる心配はないだろう。
そう思って、かつてのように冗談まじりでやりとりをした。
酷い頭痛もあって、返した内容は覚えてないけれど、スイから投げ込まれた爆弾の威力は凄まじかった。



『想い人って氷神のことだったりするんだけど…』



あまりに強烈なひとことは俺の頭痛をさらに酷くした。
だから、『彼女持ちの余裕か』ってごまかした。
そんなことあるはずがない。
スイの隣には彼女がいる。
スイだけを想い、スイの隣に居たいと願う彼女が。
そう思っていたから、あの強烈な言葉なんて封印してた。
でも、さっきの瞳がソレを引きずり出してきた。


あの言葉に、『俺もだよ』と答えられたらどれほど幸せか。
けれど、俺にそう答える権利はない。
だって俺には君を傷つける未来しかないから。
でも、僅かに生まれてしまった可能性。




(傍にいても良いのかな…)


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