幻獣を従える者

暇野無学

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020 御曹司

 そんな事の為に・・・戦力確認に来たのか、それなら力で押さえるのは無理だと教えておけば、後々話がしやすそうだ。

 「ファイヤーボールを見せろというのなら、そこに居ては危険ですよ。結界の陰にでも隠れていて下さい」

 クラウスがお坊ちゃまの顔を見て頷いている。

 《グレイ、今度は魔力を6、矢一本半くらいを使って射てるかな》

 《やってみる。五回だよね》

 《無理はしなくて良いからね》

 《あい》

 クラウスに促されて結界の陰に回り、淡く光るドームの向こうに焼け跡が見える位置に立った。

 少年を守る様にタイガーキャットが左右に立っていたが、何方も少年が見つめる先を見ている。

 次の瞬間 〈ドオォォォォーン〉 〈ドオォォォォーン〉 〈ドオォォォォーン〉と連続して五回爆発音が響き渡り、爆風に周辺の木々が激しく揺れ舞い上がった砂埃や草木の破片が降りかかってきた。

 「何てこったい!」

 「どうした?」

 「前回見せられたものよりも、遥かに威力が上がっています。あれで手加減をしていたのか」

 それを聞きタイガーキャットを見れば、大きい方はゆるく尻尾を振り、仔の方は軽く尻尾を立てているがそれだけで何も変わった様子がない。
 そして結界はあれだけの爆風を受けても微動だにしていないし、中に立つ少年も不安げな様子すら見せていない。

 確かに今のファイヤーボールを使えば、ハイムントの屋敷どころか街すらも破壊しかねない。
 彼と幻獣達を倒すには、奇襲攻撃か毒殺くらいしか有効な手段は無いだろう。
 その点だけは、彼を襲った者達が正しかった様だ。
 オリブィエ伯爵とマルセンス侯爵は、貴重な人材を放逐して敵に回したのか。
 『交渉が成立しなくても敵に回すな』か、父上の言葉を肝に銘じて交渉した方が良さそうだ。

 「怪我の回復を待っている様だが、今後どうするつもりなのかね?」

 「冒険者をしながらのんびりさせてもらいます。だから俺に付き纏うのも止めてくれませんか」

 「君の戦力と治癒魔法の能力は捨てがたいのだが、我々が手を引けばもっと酷い事になるぞ。マルチエで幻獣を登録した時から噂になっていたし、君を襲った連中は王都に送られて取り調べを受けたが、その時点で色々と情報が漏れているのだ。此処は父上ホールデンス公爵の領地なので、父に遠慮して表立っての動きはない。だが君が此の地を去れば、君を襲った連中の様に密かに動き出すだろう」

 力を見せすぎたかなと思ったが、結界は身の安全の為に隠せないし治癒魔法も隠していたら俺は死んでいただろう。
 知られてしまったものは仕方がないが、どうすべきかな。

 「そこで提案があるのだが、君は我がホールデンス家の客人にならないか」

 「有り難いお言葉ですがご遠慮申し上げます。もう少し身体を慣らしたら、ここを離れて森の奥へ向かいます。又此の地を訪れる事になるでしょが、冒険者なので依頼なら内容によっては受けますが、それも此奴の気分次第だと思って下さい」

 グレイの頭をポンポンとすると、微妙な顔になるが頷いている。

 「彼にホールデンス家の身分証を預けておくので、受け取ってくれたまえ。それを示せば領内なら他の干渉を受けないし、必要なら私にも会えるだろう」

 公爵家の身分証か、魅力的な餌だね。
 黙って頭を下げると、一つ頷いて帰って行った。

 * * * * * * *

 備蓄の食料補充の為に、此の地を離れる前に一番近いエリンザスの街に向かう事にした。
 結界を消滅させるとクラウス隊長がすっ飛んで来たので、食料を仕入れる為にエリンザスに向かうと告げたが、差し出された身分証は断る。

 「此がないと何かと不便だぞ」

 「そんな物で首輪を付けられるつもりはありません。それに難癖を付けてくる相手の対処法もあります。食料を仕入れたら暫く森で身体を慣らすつもりですが、その後で一度はエリンザスに来ます。御曹司にはそう伝えておいて下さい」

 クラウス隊長にはそう告げたが体力の低下は思ったより酷く、大汗をかいて街道に辿り着いたが座り込んでしまった。
 今日中に街に辿り着けるのか心配になってきたが、街道脇に座るアッシュを見た通行人や馬車が止まってしまった。
 これは不味いと思ったが、エリンザスまでの足が出来たのでアッシュを街道から草原に下がらせると、グレイを連れてエリンザスに向かう人達の所へ向かった。

 「止まれ!」

 あーあ、冒険者達が臨戦態勢で武器を構えている。

 「此奴もあの大きいのも俺の使役獣なので危険はありませんからお通り下さい」

 それだけ告げてからアッシュを呼び寄せる。
 俺の左右にアッシュとグレイが座ると、俺の言葉を信じたのか冒険者達や立ち止まっていた人々が恐々と近づいて来る。

 「おい、本当に大丈夫なんだろうな」

 「ギルドに登録済みですので大丈夫ですよ」

 そう言って登録済みを示すメダルを二つ見せ、薬草袋を半分に折りスカーフの様にして首に掛けるとメダルを取り付ける。
 グレイはウルフ程度の大きさなので何とか様になるが、アッシュは大きいのでメダルが目立たないがスカーフのお陰で毛に埋もれないので良しとする。
 皆が通り過ぎるのを待っていると、使役獣と判ってニヤニヤと笑いながら近づいて来る男達。

 〈おい! 獣で道を塞いでおいて詫びの一つも言わねぇのかよ〉
 〈稼ぎに出るのが遅くなっちまったじゃねえか〉
 〈ガキのくせに、いっちょまえにタイガーキャットだと〉
 〈まぁ、こんな糞ガキにテイムされるんじゃ、よぼよぼのタイガーキャット何だろうさ  〉

 足を止めて好き勝手を言ってくれるが〈パシン〉と小さな音がして、アッシュをよぼよぼとっ言った奴が鼻を押さえて涙を流している。
 アッシュは言葉を理解出来るので、目の前で悪口を言われて気分を悪くした様だ。

 《アッシュ、腕を上げたね》

 《ランディスが寝ている間は暇だったので、魔力を絞る練習をたっぷりしたのよ》
 《グレイも出来るよ!》

 《はいはい。でもママの様にバレない様にしなよ》

 《鼻を押さえている後ろの奴に一発射ち込んでやりなさい》

 《あーい》

 〈ポン〉と音がして〈うわっちちち〉と鼻を押さえて慌てている。

 《グレイ、ファイヤーボールは小さくてもバレちゃうから駄目だよ。雷撃の小さいのを鼻の穴を狙って射つんだよ》

 《判った》

 「てめえぇぇ、何をした!」

 「えっ、何の事ですか?」

 「そいつは幻獣だろうが! 魔法を使わせただろう」

 「えぇー、俺が何か命じましたか? 俺は黙って立っていただけだし、二頭も動いていませんよ」

 「こらー! 何をやっとるんだ!」

 クラウスさん登場。
 後をついてくるので鬱陶しいと思っていたが、ちょうど良いので彼にお任せしよう。

 危険がないと判りエリンザスへ向かう列が通過して行くので、荷馬車の御者に銀貨を渡して後ろに乗せてもらった。
 ドームの中だけで立ったり歩いたりしていたけれど、少し長く歩くと疲れが酷いので、少し食料を調達したら町の外に出てもう少し身体を慣らした方がよさそうだ。

 アッシュを連れて市場に行けば騒ぎになりそうなので、警備兵に断り門の外でアッシュは待たせてもらい、グレイを連れて市場に向かった。
 味見をして気に入った物を10個単位で買い込み、マジックポーチに放り込んでいく。
 スープや煮込み料理も寸胴に三つ程溜め込んだらさっさと街の外へ出て、門から少し離れた草原でキャンプだ。

 夜明けと共にエリンザスを背に歩き出し、疲れたらドームの中で一休みしては又歩き出す。
 俺が休憩しているときや夜には、グレイに土魔法の手ほどきをして防御用楯のシールド作りから初めた。
 結界のドームを作りで馴れて居るので土魔法のドームは簡単に覚えたし、火魔法の火球作りでバレットも簡単にできた。
 その後は一人で穴掘りは楽しんでいる。

 何せゴブリンはストーンアローの標的練習と、落とし穴に落とす遊び相手なので猫が鼠を甚振る様なものだ。
 厩に住み着いていた猫のランディスも、よく鼠を弄んでいたっけ。
 十日も散歩を続けると、一時間以上連続して歩ける様になったので本格的に森に入る事にした。

 その前にエリンザスに戻ると、クラウスさんがすっ飛んで来た。

 「早かったな。暫く街にいるのならヘイラート様に連絡をして・・・」

 「手持ちの獲物を処分したら本格的に森で身体を鍛えますので、2、3ヶ月後にして下さい。それにしてもクラウスさんって暇なんですか?」

 「お前さんの対応を任されているんだ。南門から出て行ったのだから、此方に戻ってくると思って待っていたんだよ」

 「それじゃー今度来たときは、クラウスさんを呼んでもらうことにします。但し一度きりですよ」

 「ああ、そうしてもらえると有り難い」

 優先的に通して貰い、冒険者ギルドで獲物の処分からだ。
 グレイが練習がてらにたっぷりと獲物を狩り空間収納に溜め込んでいるが、邪魔だと煩い。
 十mくらいの枯れ木を十字に括って収納させてみたが、難なく収まってしまったのだから邪魔な筈はないと思うが、気分の問題らしい。

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