幻獣を従える者

暇野無学

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028 不自然な呼び出し

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 此処ハイムントの冒険者ギルドでもアッシュとグレイを見て騒ぎになりかけたが、俺に向かって来た男をアッシュが襟首を咥えてポイと投げ捨てると静かになった。
 使役獣だと思って好き勝手を言っていたら、アッシュが毛を逆立てて唸りだしたので腰を抜かしたところを、襟首を咥えてポイしたので見ていた者達が失笑している。

 「冒険者登録の時に聞いていると思いますが、使役獣だと侮っていると怪我をしてもそちらの責任ですからね」

 警告だけしてギルドの中へ入り、買い取り係に解体場へ入る許可を貰う。
 此処でもマジックバッグを叩いて、使役獣が狩った獲物が沢山あると告げて奥へと通してもらった。

 「おお、新顔だな・・・てか、お前が噂の幻獣使いか?」

 「そんなに噂になっているのですか?」

 「おお、でかいタイガーキャットの親子を連れていて、ミュルヌのギルドでは山程獲物を出したんだってな。それの残りか?」

 「はい。全部処分したいのですが宜しいですか」

 「おお、取り敢えずそこへ並べてくれ」

 言われてマジックバッグから取りだして並べて行くが、解体係のおっさんが唸り声を上げている。
 そしてお約束のアッシュを連れた俺が解体場に入ったので、興味津々の冒険者達が見物に来て騒いでいる。

 〈かー・・・ゴールデンベアなんて久し振りに見るぜ〉
 〈シルバータイガーはタイガーキャットの上位種じゃないのか〉
 〈ばーか。奴の連れているのは幻獣だぞ〉
 〈上位種でも魔法を使う奴には勝てないのだろう〉
 〈此って傷が見当たらないけど・・・〉
 〈ん・・・口が焼けているぞ〉

 「あーぁぁぁ煩い! お前等はさっさと稼ぎに行け!」

 あんまり煩くするものだから、怒られてやんの。
 並べ終わると、査定が終わるまで食堂で待っていろと言ってギルドカードを取り上げられた。
 ミュルヌと同程度の獲物量なので金額的には変わらないと思うが、俺って狩りをせずに解体場で獲物を並べながら獣の名前を覚えていってるよな。

 食堂の片隅で査定が終わるのを待っていると、朝っぱらから飲んでいる男達が値踏みする様に見てくるが、此処は通過点なので素知らぬ顔をしておく。
 三人ばかり立ち上がって俺の方へ歩いてくるが、解体係の男が査定用紙を持って来て彼等を見ると「此奴の使役獣はタイガーキャットだ、余計な事をすると死ぬぞ」と言われて固まっている。

 受け取った査定用紙の合計欄には、8,774,000ダーラの文字。
 礼を言って精算カウンターに向かい、全てを受け取るとフルグレン通りの場所を教えてもらった。
 ちょっと遠いと聞いたので、アッシュをギルドに残しておく訳にもいかず連れて行く。

 俺とグレイが並びその後ろをアッシュがついてくるのだが何かと煩いし、果ては警備兵まで飛んで来て誰何をされて先に進めない。
 こんな時こそ公爵家の身分証だと思い、警備兵に身分証を示してフルグレン通りのフンベルト商会への道案内をお願いする。
 フンベルト商会ってエリンザスにも在ったので、同じ公爵領内だし系列店だと思う。

 警備兵とアッシュ達を連れた俺は遠くからも目立つ様で、高級住宅街に建つフンベルト商会に向かう道筋には見物人が並んでいる。
 こっぱずかしくなってしまったが、マジックバッグの為だと素知らぬ風を装って歩く。
 フンベルト商会にも数名が表に出ていたが、警備兵に案内されてきた俺には黙って店の扉を開けてくれた。

 警備兵に礼を言い、アッシュとグレイを表に待たせて店内に入る。
 5-10のマジックバッグを6-10に買い換えて時間遅延もしたいと告げると、揉み手をしてカウンター前に案内してくれた。
 5-10のマジックバッグを下取りに差し出すと金貨60枚で宜しければと言われて了承する。
 3-30の物が金貨30枚で購入して25枚で下取ってもらえたので、金貨70枚で買った物が60枚ならこんなものか。

 以前聞いたとおり6-10のマジックバッグは金貨105枚、時間遅延を50足してもらうのに手数料が金貨2枚と、50倍の遅延で金貨50枚。
 総額金貨157枚1,5700,000ダーラをお財布ポーチから取りだして並べる。
 時間遅延の設定の間に、念願の野営用結界魔法を施された防御壁の事を訊ねる。

 見せてくれたのは魔法陣の様な文様の描かれた直系30㎝程の円盤で、中央に窪みが有り此処に魔石をいれるらしい。
 結界魔法を魔法陣で再現した物で、バッファロー程度の突撃に耐えられる優れ物だそうだ。
 確かにバッファローの突撃に耐えられれば普通は十分だろうが、グレイの奴は何を呼び寄せるか判らないので恐いんだよ。

 ゴブリンの魔石2個で12時間、ハイゴブリンの魔石1個で12時間
 オークだと一日12時間使用で20日は大丈夫だそうで、魔石が段々小さくなっていくので使用期限が判るそう。
 その為に魔石を入れる所には脱落防止の網状の蓋が付いているのか。
 ハイオークの魔石で30日程度、オークキングで40日が目安だそうだ。

 それ以上の魔石ではと尋ねると、それ以上の魔石は数が少なくなるので使えないそうだ。
 まぁ燃料は簡単に手に入る物でないと、いざという時に困るからこんなものか。
 取り敢えず保険として買っておくことにして使用方法を教えてもらった。

 登録は外縁部に彫られた指定の所に血を一滴落とすこと、以後は魔石の残量を確認して魔力を流すだけだそうだ。
 消滅させる時も同じ手順でよく、複数登録も同じだそうで簡単便利な野営用防壁。
 笑ったのは防壁展開時に丸に指を乗せていた者は、出入りに際して防壁に掌を当てれば自由に出入り出来る事。
 何故態々掌をと問えば、野営時に寝相が悪くて防壁から転がり出す事を防ぐ為だそうだ。

 お値段は以前聞いたとおり金貨50枚也で、マジックバッグと合わせて金貨207枚、20,700,000ダーラの出費だ。
 1-5のお財布ポーチと6-60のマジックバッグ、序でだから2-10のマジックポーチをお財布ポーチ入れ用に金貨五枚で買っておく。

 残金12,780,000ダーラ、当分生活の心配は無いのでのんびり王都へ向かうことにした。
 フンベルト商会のを出ると、アッシュとグレイの周りに人だかりが出来ている。
 高級住宅街なので身形の良い人達ばかりで、冒険者相手のような対応も憚られたので《アッシュ、帰るので立ち上がってよ》とお願いする。

 大人しく横たわっていたアッシュがいきなり立ち上がったので人だかりが崩れて皆が逃げ出した。
 人だかりが崩れた間をグレイが駆けてくると、その後ろをアッシが悠然と歩いて来る。

 そのまま二人を従えて元来た道を戻ると、騎馬の一団が向かって来る。
 何か嫌な雰囲気になって来たが、道を変えて避けるには地理を知らないので迷子になりそうだ。
 余計な事を考えている間に、騎馬の一団が俺達の前に立ち塞がった。

 「ランディスだな」

 「そうですが何か御用ですか」

 「お館様がお前をお呼びだ。我々に付いて参れ!」

 「ん、お館様って公爵様の事ですか?」

 「当たり前だ! 此処はランベルト領ハイムントの街で、マンフレート・ホールデンス公爵閣下の領都だ」

 「それなら呼び出される謂れはありません。此を御存知ですよね」

 公爵家の客人として預かった身分証を見せると、えっといった顔になる。

 「ヘイラート・ホールデンス様より此を預かる時に、王都のお屋敷に伺う約束は致しましたが、それ以外のお約束は御座いません。それでも付いて参れと言いますか?」

 身分証を見せられて、主からの言葉『決して敵対する様な真似はするな』を思い出してそれ以上何も言えなくなった男が躊躇っているので、黙って横を通り抜けて元来た道を引き返す。
 御曹司の言葉からして、公爵が俺を呼び出すのは不自然すぎるので裏がありそうだが、攻撃されないのなら放置だ。

 冒険者ギルドに向かう道すがら、端布を売る店を見つけたので寄り道。
 バンダナくらいの赤い布を見つけたので、同じ色合いで大きな布を探してもらい銀貨を渡して三角巾の様に縫ってもらった。
 両端に少し太めの紐を付けてもらいアッシュとグレイの首に巻き付けると、下向きの三角の下1/3の部分にテイム済みを示すメダルをぶら下げる。
 濃い灰色の斑な毛に赤いバンダナは目立ち、バンダナが風で巻き上げられない様にお重し代わりのメダルが栄える。

 《よく似合っているよ》

 《昔も同じ様にしてもらっていたわね》

 《そう。それなら教えてくれれば良いのに》

 《人族の細々した事は判らないので仕方がないでしょう》

 そりゃそうか、お昼も遅くなっているので北門に急ぐことにした。

 もう少し街をゆっくり見学したかったが、変な奴が出てきたので諦めたが隣街のヘイルンも公爵領なので、そちらでゆっくり見物させてもらうことにする。

 * * * * * * *

 ハイムントとヘイルンの中間辺りだと思われる所で、早足で近づいて来る騎馬の一団が後ろから来た。
 街道から外れて馬車を見送るつもりだったが、冒険者と騎士の隊列が過ぎたところで目の前に馬車が止まる。
 こんな時は碌な事が起きないと学習したので、馬車に背を向けて歩き出したが「待て、お前だ! 野獣を連れているお前だ、止まれ!」と叫んでいる。
 別な一団が馬を草原に乗り入れて、俺の前で進路を塞いでくれる親切さ。

 「何故呼びかけを無視する! ファンデル・ルクレツッア伯爵様が、
お前と使役獣をお呼びだ!」

 「判りました。そう仰るのならお目通り致しますよ。でも、後で何が起ころうとも知りませんよ」

 「訳の判らん事を言ってないで、さっさと来い!」

 《アッシュ、悪いけどついて来てよ。でも攻撃はしないでね》

 《良いわよ。貴方が攻撃されない限りは大人しくしているわ》

 《ランディ》

 《あっ、グレイは少し離れていて、危なくなったら助けてね。でも魔力たっぷりは駄目だよ》

 《あーい》
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