幻獣を従える者

暇野無学

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033 三枚目の身分証

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 護衛や側近達を部屋から追い出すと改めて話し出した。

 「此れからが本題だ、君を野放しには出来ない事は理解出来ただろう。と言って、王家もホールデンス公爵殿も君を支配下に置けると思っていない。君に奴隷の首輪を付けても、それ以前にあの二頭を解放されては意味がない。そこで提案だが王家の官吏にならないか」

 「さっきの言葉に反しませんか」

 「貴族に対する様な忠誠を望んでいる訳ではない。君は貴族に対し嫌悪感が強そうだし、他者に跪いて支配されるのは嫌だろう。我々は君に対する指名依頼主になる。高ランク冒険者には貴族や豪商達が身分証を与えている。冒険者の後ろ盾、パトロンと行ったところだな。パトロンからの依頼を受けるも受けないも冒険者の自由だ。俗に言うしみったれたパトロンは、冒険者から見限られて身分証を返却される。それは逆も同じだ。君がホールデンス公爵家から預かる客人としての身分証がそれだ。王家でも同じだが王家の身分証は渡せないので王国の身分証を預けることになる。王家やホールデンス殿が後ろ盾になれば、他の者達は君に手出しが出来なくなる。まぁ万全とはいかないが、表だって君を支配下に置くことは出来なくなる」

 「私の客人としての立場とホールデンス王国の身分証を持てば、此の国では誰も君に命令出来なくなるぞ。それにエラートが死亡したので、オリブィエ家は取り潰された」

 表向きはそうなるよな、だが自分の身は自分で守れってのは今も変わらないって事だな。

 「君が王家に忠誠を誓うのなら、オリブィエ家をそっくり君が受け継ぐことも出来るが・・・」

 「それはお断りします。万が一俺があの家を引き受けたら、使用人達が逃げだして誰も居なくなるでしょうからね」

 「で、王国の官吏の身分証を受け取るかね」

 「それってホールデンス公爵様の身分証と同じ条件ですか」

 「王家と王国に背かない限りはね。他の冒険者と同じく、冒険者ギルドを通しての指名依頼や直接依頼をする事は有るが、依頼を受けるも拒否するも身分証を放棄するのも自由だよ」

 「俺は幻獣を連れているとはいえFランクですよ」

 「はっきり言って、冒険者としての君には期待していない。君が従える二頭の戦力が他国や教会に渡れば、均衡が崩れて戦乱の世になりかねない」

 過ぎたる力は、って事か。
 有象無象に絡まれるのは気に入らないので、虫除けとして貰っておくのも悪くないか。

 「貴族や豪商達が高ランク冒険者の後ろ盾になり身分証を与えるのは判りますが、王国が身分証を与えている例はあるのですか」

 「ゴールドランクに二人いるね。プラチナランクの者は少々問題がある人物なので渡してはいない」

 「複数の貴族や豪商から預かる事は?」

 「余り望ましい事ではないが、高ランクの者を抱え込みたい者は与えているようだが、節操なく受け取る者は信用を失うね。まぁ断り切れなくて受け取る者もいるので一概には言えないが」

 「私の身分証と王国の物を持っていれば、君に無理を押しつけてくる者はいないと思うので受けて貰えないかな」

 「如何なる条件も付けないのなら、お受け致します」

 俺の返答を受けて、部屋から追い出していた側近の者を呼び寄せた。
 彼が差し出したのは王国の紋章入りで吠える赤い熊、ホールデンス公爵家の身分証は黒い熊ちゃんだったので、王国とは色分けしているのか。
 ん・・・なら王家の紋章は?

 興味が湧いて尋ねると、王家は金色の熊ちゃんで王国や公爵家より一回り大きい熊だと教えてくれた。
 差別化、権威主義の言葉が頭に浮かんだがお口にチャック。
 王家の一員以外には持てない身分証なら当然か。

 例に依って血を一滴落とすと、赤い熊ちゃんの下に赤線と星三つが浮かびあがり、裏には俺の顔が線描で浮かびあがり名前と年齢に王国査察官の文字。

 「此って?」

 「赤い線は王国の貴族待遇を示していて、星三つは伯爵と同等となります。王国査察官とは、貴族が王国の法や通達を遵守しているか取り締まる立場の者の役職です。高位貴族と謂えども、この身分証を持つ者の要求には応じる義務が御座います」

 「君は此の国の事を何も知らないと言って、見物がてら王都迄歩いてきたのだろう。色々と見て回り自由にしていれば良い。万が一無体を働く者がいれば、抵抗しても問題にはならない。その報告だけは私宛に君の名前で連絡をもらえれば、後は此方で処理するので宜しく」

 宜しくって何だよ、俺に黄門様の真似事でもしろって事か?

 * * * * * * *

 三つの身分証をマジックポーチに放り込み、公爵家で教えて貰った商業ギルドへ送って貰った。
 石造りの四階建て、堂々たる建物の王都商業ギルド本部。
 公爵家の馬車から薄汚れた冒険者が降りてきたのでびっくりしていたが、アッシュとグレイを見て腰が引けている。
 二人を入り口横で待たせて正面玄関に向かうと、公爵家の馬車から降りてきた俺に警備の者は何も言わずに扉を開けてくれた。

 正面のカウンターに向かい、受付のおっさんに革袋と共に公爵家の身分証を差し出して預けたいと告げる。
 革袋と身分証に俺を三度見返してから身分証の裏を確認して漸く出納係の所へ案内してくれた。
 ホールデンス公爵家の紋章入り革袋には、金貨が100枚10,000,000ダーラ入っていた。

 グレイのとばっちりを受けた貴族達は、怪我をして公爵様を喜ばせた褒美が金貨100枚だと知ったらどんな顔をする事やら。
 ホールデンス公爵様はご機嫌だったが、あの貴族連中は相当嫌われていたのだろうな。
 そんな事を考えていると、商業ギルドの会員カードを渡された。
 このカードを示せば、如何なる国の商業ギルドでも出し入れ自由だと教えてくれたので有り難く受け取る。
 服とブーツを買い換えるのと大きなマットを作りたいと相談すると、家具屋を紹介してくれた。

 王都の地理を知らないのでイエルク通りは何処かと尋ねると、銀貨一枚で王都の街路図が御座いますと商売熱心なお言葉。
 有り難く買わせてもらったが、遠いので辻馬車を使った方が良いと教えてくれる。
 辻馬車、タクシーの様なものだろうと思い礼を言って商業ギルドを出ると、警備兵の団体さんが待ち待ち構えている。

 「此はお前の使役獣か」

 「そうですが何か?」

 「凶暴な野獣が彷徨いていると通報が後を絶たないんだ。こんな大きな奴を王都に連れ込むな!」

 あー、公爵家の馬車で移動していたので何も言われなかったが、辻馬車じゃその威光も効き目なしか。
 取り敢えず公爵様の身分証をと思ったが、暫く王都見物もしたいので警備兵達が通報を握りつぶし易い様に、王国の身分証を出してみた。
 霊験あらたか、文句を言ってきた警備兵の隊長らしき男のお目々がまん丸になる。

 「おまっ・・・本物か?」

 「嫌ですねぇ。王都の警備兵の貴方に、偽造の身分証を見せるとでも。確かめて下さい」

 警備兵に手渡すとじっくりと眺めてから掌に置き、指を身分証に置きブツブツと呟いている。
 王国の紋章が浮かびあがると、冷や汗を流しながら捧げ持って返してくれた。

 「昨日王城に呼ばれましてね、ヒューヘン宰相様より預かりました。暫く王都にいますので同僚の方々にも教えて、通報があれば使役獣なので問題ないと伝えて下さい」

 「承知致しました!」

 スパーンと踵を打ち鳴らして敬礼するものだから、ギルドの警備の者が驚いている。
 グレイはともかく、アッシュがいるので目立つのは仕方がないと諦めよう。

 * * * * * * *

 イエルク通りマルベル家具製作所、中々立派な看板が掛かっているが工場らしき建物から見るに中流階級向けの家具製作所らしい。
 辻馬車には注文が済めば冒険者ギルドに行ってもらうので待たせておく。

 「いらっしゃいって、表の野獣は・・・」

 「俺の使役獣で大人しいから問題ないよ。彼等の寝床を作りたいのだが、大きなマットを作れるかな」

 「あれの寝床ですか?」

 「そう、何時も一緒に寝ているのだけど、俺の野営用マットを小さい方に取られちゃうんだ。で、親の方もマットが羨ましいらしくてね」

 「此処には熊人族用の特大サイズでも3m×2mの物しか有りませんよ」

 物を見せて貰ったが厚みもそこそこ有るので、同じ物を四つ田の字に繋げられる様にして厚みも倍にする様に注文する。
 特注品なのでマット一枚150,000ダーラ、四つで600,000ダーラ金貨六枚を支払い四日後の受け取りを約して店を出た。

 * * * * * * *

 王都冒険者ギルド、辻馬車の貸し切り料金銀貨五枚を支払って降りると、冒険者達にジロジロと見られる。
 使役獣を連れて、辻馬車で冒険者ギルドに来る奴は珍しいのだろう。
 俺が普通の冒険者なら、そんな巫山戯た奴はジロジロと見て値踏みをするので当然か。
 アッシュとグレイを入り口横に待たせてギルドに入ると、買い取り係のところへ直行する。

 「あーん、解体場だぁ」

 「俺の使役獣が狩った獲物を沢山持っているので、処分したいんですよ」

 「使役獣・・・ん、お前幻獣使いか?」

 「はい。奥へ行っても良いですか」

 「ホーンラビットやチキン程度なら此処で出せ」

 「小さいのでもホーンボアやオークなんですが、此処で出すのですか」

 「嘘じゃあるまいな」

 「爺さん、其奴の使役獣は特大のタイガーキャットだ。俺達も獲物が見たいのでさっさと奥へ行かせろよ!」
 「王都周辺の小物ばかり見ているので呆けたのか」
 「偉そうに買い叩くだけが仕事じゃねえんだからよぅ」
 「坊主、構わねえから其処へオークでも何でも大きい奴を出してやれ!」

 買い取り係を野次る声にどっと笑いが巻き起こった。
 アッシュとグレイを連れた俺が買取係のところへ直行したので、興味が湧いた奴等が群れて爺さんを揶揄っている。

 俺もさっさとしてくれよと思うが、変に揉めても長引くだけなので黙っている。
 王都に到着する前にグレイから預かった獲物を売り払ったら、くたびれてきた服とブーツの新調予定なので早くしろと思い、少し苛つく。
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