幻獣を従える者

暇野無学

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049 二人のテイマー

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 アッシュがのそりと立ち上がると、グレイにおっさんのいる結界を解除させた。
 いきなり消えた結界に皆が驚いていたが、アッシュがその中に踏み込みおっさんの前に立つと猫パンチを一発。
 軽く振ったとはいえ、ぶっとい前足で叩かれて吹き飛び周囲の騎士達を巻き込んで倒れた。

 蒼白な顔のおっさんを咥えて引き摺り出すと、頭を一振り少して離れた草叢に放り投げてしまった。
 死んだら深く埋めて見なかった事にしてやる。

 「ランディス殿、父の無礼は如何様にでもお詫び致しますのでお許し下さい」

 アイザックが慌ててやって来て謝罪をするが、あれが子爵待遇かと思うと馬鹿らしくなる。
 と言うか、俺を利用する気なのに『何たる無礼! 許せん!』なんて良く言うよ。
 アイザックも俺に取り入る為に必死の様だが、むかつきが止まらない。

 「あの馬鹿を喋らせるな! それと彼奴を隠居させろ、出来ないのなら此のままゴブリンの餌にしてやる」

 「それは無理です。と言うか、当主の命は絶対です」

 他の奴には見せたくないので、草叢で眠るおっさんの所へ行き蹴り飛ばす。
 目覚めたおっさんに王国の身分証を突きつける。

 「何か判るよな」

 突きつけられた身分証を見てたまげている。

 「何故そんな物を」

 「後はアイザックに任せて、お前は隠居してのんびりと過ごせ。いやならヒューヘン宰相に有る事無い事報告させてもらうぞ」

 身分証から目が離れない親父は、俺の言葉に震えている。
 お前が言った王国の身分証は、伯爵待遇でお前より上なんだよ。

 震える親父を無視してアイザックに家は何処だと尋ねると、フィランダの街だと答えた。
 ヴァレリアン街道を此のまま北に進むと、王都カンタスから五つ目の大きな街だそうだ。
 俺も北に向かっているので丁度良い、隠居していなかったら今回の経緯を報告してやるからな。

 * * * * * * *

 昼過ぎにゾライセンの街から兵士と警備兵達が迎えに来たので、王家の直轄地ならと王国の身分証を使わせてもらう。
 直立不動で答える隊長に、賊は護衛の冒険者達が捕らえた事にして賞金は彼等にとお願いしておく。

 治癒魔法で治ったとは言え多量の血を流している者達は、ゾライセンで休養を取る事になり契約を解除されたが、アイザックがそれぞれの怪我人に金貨を握らせている。
 それを護衛騎士達が複雑そうな顔で見ているので、日頃オルディウス会長の配下の者に対する扱いがよく判る。
 オリブィエ家でも配下の者の不満は愚痴や悪口として見聞きしたが、内情が外に漏れる一因と知らない様だ。

 大勢の賊を引き連れて来たので噂になっている様なので、逃げ出す事にして次の街に向かう事にした。

 * * * * * * *

 次の街はバイロンで、その先のテムスとの間が領境になっている。
 王家の直轄地バイロンを飛ばしてテムスに向かったが、グレイが餌が無いと言い出したので、お好みの餌が獲れる場所を尋ねる為にテムスへと急ぐ。

 アッシュとグレイの好みはエルク、各種鹿に山羊と羊の草食系らしい。
 草原では小物しか獲れないので、少しは森の奥に行かないとご希望の餌が狩れないので、冒険者ギルドで其れ等の居そうな場所を教えてもらう必要がある。

 夕暮れ前に街の手前で一泊して、開門と同時にアッシュを残してテムスの冒険者ギルドに向かった。
 冒険者ギルドは、食堂と依頼掲示板の前が大混雑している。
 俺は少しばかりの獲物を売るために買取係の所へ行き、何時もの面倒な説明をして解体場へ入らせてもらった。
 暇そうな解体係が掃除をしていたが、俺の姿を見てやって来る。

 「初めて見る顔だな。獲物はなんだい?」

 「オーク類とホーンボアや小型のバッファローです」

 「オーク類ねぇ。取り敢えず其処に並べてくれ」

 掃除の終わった一角を指差されたので、指定された場所に並べて行く。
 バッファロー3頭、ホーンボア3頭、オーク7頭、ハイオーク5頭、オークキング3頭。

 「何でオークの胸が開いているんだ?」

 「魔道具のために魔石が必要なので、魔石は取りだしたんです」

 魔石を取りだしたが、捨てるのも勿体ないし買い取ってもらえると思い、グレイに預けていたのだ。

 「魔道具のためにだと、高ランク冒険者の様な言い草だな。って、お前は幻獣使いか」

 「ええ、中々狩りの上手い奴です」

 「オークキングを狩れるのなら、そこそこの強さは有るって事か」

 「それでですね、エルクやゴートとシープ等が欲しいのですが、生息場所を教えてもらえませんか」

 「また大きく出たな。と言っても、エルクやゴートならそうでもないか」

 「エルクやシープ類は森の奥に行けば居るだろう。ゴートは崖や岩山と言われているが、俺は解体係だからなぁ。食堂で腕の良さそうな奴に聞いた方が早いぞ」

 そりゃそうか。
 魔石が無いし、雷撃で傷みが有るので少し安いぞと言われて査定用紙を渡された。
 総額で3,247,000ダーラなので、礼を言って食堂に向かった。

 エールとつまみの皿を手に雰囲気の悪そうな奴を避けて、空いている席に座らせてもらう。
 新顔でナイフ一本ぶら下げただけの俺は目立つのか、周囲の視線が痛い。
 楽しくお話しが出来る雰囲気でもなさそうなので、さっさと飲んで受付に向かい、深い森が在る所を尋ねる事にした。
 受付で周辺の森の事を訊ねている時に後ろからの視線を感じて振り向くと、五人の男達が俺を見ていた。

 「俺に何か用かな」

 「表のタイガーキャットは、あんたの使役獣かい」

 「そうだが、それが何か?」

 「少し尋ねたい事があるのだが、そちらの用を済ませてからにするよ」

 「丁度良いわ。森の事ならその人達に聞きなさい」

 俺が尋ねると面倒そうにしていた受付の小母ちゃんは、面倒事を押しつける相手が来たとばかりに丸投げしやがった。
 まっ、ギルドの中で椅子に座っている婆さんよりも、冒険者の方が良く知っているだろうから男達に向き直る。

 「なんの話しだ?」

 「この周辺に大きな森はないのか尋ねていたんだが」

 「大きな森って、そんな所に何の用があるんだ」

 「相棒の餌の蓄えがなくなったので、捕りに行こうかと思って周辺の事を尋ねていたんだ」

 「そのタイガーキャットの事で教えてくれるのなら、俺達の知っている事は話すぜ。俺はロイド黒い牙のリーダーをしていて、使役獣はブラックウルフだ」

 「ランディスだ、表で話そうか」

 ロイド達に続いてギルドを出ると、グレイから少し離れてブラックウルフが座っていた。
 ロイドを見て立ち上がるが、グレイより二回りは大きく漆黒の見事な毛並みの狼だ。
 主のロイドを見て尻尾を振るが、間にグレイが横たわっているので近づいてこようとしない。

 「噂では親もいると聞いたのだが」

 「南門の外で待たせているよ。連れて来ると何かと騒ぎになるからね」

 「どうやって魔法を使える様になったんだ」

 「出会った時には魔法を使っていたので、判らないとしか」

 「それで良くテイム出来たな」

 「まぁね、此奴が子供だったので俺に興味を持った様で懐かれたのさ。で、おいとか呼ぶのも何だから、勝手に名前を付けて呼んだらテイム出来ていたんだ」

 「確かに幼獣を手懐けて使役獣にするのはテイマーの常道だが、幻獣をテイム出来るなんてよほど運が良いんだな」

 「それまでテイマースキルなんて無かったので、テイム出来た時は驚いたよ」

 「それでも、流石に親はそんな事ではテイムは出来ないだろう」

 「それがグレイ、此奴が俺に懐いたものだから俺は攻撃されなかったし、何時の間にか一緒に寝起きしていたからなぁ」

 まさかクリーンとリフレッシュで懐かれたとは言えないし、言った所で信用しないだろう。
 アッシュに至っては、魔力操作を教えたなんて口が裂けても言えない。
 それに契りだ、幻獣の方から俺と繋がったと知られたら大騒ぎに・・・馬鹿にされて終わりかな。

 「俺はテイマーの事は何にも知らないんだが、ブラックウルフをどうやってテイムしたんだ?」

 「それこそ幼獣の時から育てたんだよ。俺はテイマースキルが有ったので、ブラックウルフを討伐した時に鳴いている此奴を手に入れたのさ。本当は幻獣を従えたいのだが、此ばっかりは運次第だからな」

 「テイマーや幻獣使いって多いのか」

 「テイマー自体は結構いるが、牛馬を扱う仕事に就く者が多いので、冒険者には少ないだけさ。それに牛馬が魔法を使えても、闘いには向かないしなぁ」

 「という事は、牛馬にも幻獣は居るんだ」

 「当然さ」

 「幼獣でなければテイム出来ないのか?」

 「出来るが、罠で生け捕りをしてから痛めつけて何方が上か教え込むらしいな」

 「それじゃー獣は懐かないだろう」

 「だから痛めつけて逆らえない様にしてから、押さえつけてテイムと二回唱えるそうだ。テイム出来たら本人には判るからな」

 ラノベの知識とそう変わらない様だな。

 「其奴は相当強いとの噂だが、実際はどうなんだ?」

 「強いよ、アーマーバッファローやブラウンベアを倒すからね。お陰で楽をさせてもらっているよ」

 「おんやぁー、珍しいのが居るじゃねぇか」

 不快な声に振り向けば、ホーンドッグを連れた男が俺とグレイを見比べて冷笑を浮かべている。
 そして男の片目がブルーなので、ホーンドッグも幻獣らしい。

 「誰?」

 「自称火炎のディニス、パーティー炎の牙の幻獣使いだ。ファイヤーボールを撒き散らす、放火魔みたいな幻獣だ。因みに、奴の兄貴ディエルがリーダーだ」

 苦虫を団体さんで噛み潰した様な顔で、皮肉たっぷりな説明をしてくれたロイド。

 「相変わらず、しけた犬っころを使っているのかよ」

 「犬っころって言うのは、お前が連れている様な奴の事だ。ホーンドッグが、犬っころの仲間だと知らないのか」とロイドの冷たい声。

 わーい、なかよしさんだねぇー。

 「おい、お前。そんな仔猫で稼げるのか?」

 「少なくとも、貴方より良い服を買えるくらいには稼げてますよ」

 〈グフー〉とか〈ゲフッ〉と隣で変な声がする。

 「言えてる。ディニスよりよっぽど良い服を着ているよな」
 「見下している奴の方が見窄らしい格好じゃ、様にならねぇよな」
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