幻獣を従える者

暇野無学

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 街道を歩くと相変わらずアッシュを見て騒ぎになるので、街道から少し離れた草原を歩く。
 ブランカとゾライセンは途中の小さな集落を挟んで馬車で一日の距離だが、グレイとじゃれあいながらのんびりと草原を歩く。
 二日目の夕暮れ前に、アッシュが街道での騒ぎに気付いた。

 《馬車が、とかなんとか言っているわよ》

 《馬車がなんとかって?》

 《切れ切れに聞こえてくるので詳しくは判らないけど、傾いているとか馬がと言っているわ》

 この夕暮れ時に馬車の故障なら焦るだろうな。

 知った以上見捨てるのも可哀想なので声の方へと向かったが、此処でもアッシュの姿を見て大騒ぎになり戦闘態勢をとっている。
 アッシュの前を歩く俺の姿なんてまるで見えていない様で、少しは落ち着けと怒鳴りたい気分になる。
 アッシュを立ち止まらせて、グレイだけを連れて街道で戦闘態勢の男達の方へ向かったが、彼等が突き飛ばされた様に倒れて大騒ぎになった。

 〈馬鹿! 後ろの守りを忘れるな!〉
 〈糞ッ、完全に挟まれているぞ〉
 〈馬車を守れ!〉

 俺達の所にも矢が飛んできたが、矢の速度からクロスボウに違いない。

 《グレイ、彼等の向こう側にシールドを立てて!》

 《あい》

 返事と共に駆けだしたグレイが馬車の向こう側に横長のシールドを立てる。
 直ぐに馬車の前にいる騎士や冒険者達を守る様にシールドが立ちあがり、馬車の後方にもシールドが見えた。

 「シールドを立てたので怪我人の救護を早く!」

 《アッシュ、前後に敵がいないか確認して》

 《私は前を調べるのでグレイは後ろを見てきなさい》

 《あいママ》

 グレイの姿が消えたので索敵で周囲を探るが、此の騒ぎでは索敵も気配察知も約に立たない。

 《ランディス、前に潜んでいた奴等は片づけたわ》
 《後ろにはいないよ》

 同士討ちを避けるために、二方向だけか。
 前方にいた奴等は数が少ないので足止め要員だな。

 《グレイ、戻ってきて俺の指示する方向に跳んでくれ!》

 《あい、ランディ》

 《アッシュは前方から大回りして奴等が逃げ出したら足止めをお願い》

 《任せなさい》

 戻ってきたグレイの背中を掴み、矢の飛んでくる方向から少しズレた位置にジャンプしてもらう。
 賊がクロスボウを構えている後ろに着地したが、30m前後離れているので弓を取りだして攻撃を開始する。
 グレイには魔力を1使ったお尻バッチンだけだと命じて攻撃させた。

 〈敵襲だ!〉
 〈ウギャー〉
 〈後ろから攻撃を受けているぞ!〉
 〈逃げろー〉

 其処此処で〈バチーン〉〈バチーン〉と音がして直ぐに攻撃が止み少数が逃げ出したが、それもアッシュの猫パンチと尻尾に薙ぎ払われて静かになった。
 馬車の方からの攻撃が無いので馬車の所へ戻ると、俺達を見て又反撃準備をしている。
 豪華な四頭立ての馬車が傾いていて、馬車を守る様に護衛の騎士や冒険者達が武器を構えているが、多数の負傷者がいる様で立っている者が少ない。

 「攻撃してきた奴等は無力化しましたので、負傷者の救助を急いで下さい」

 「止まれ! お前は誰だ!」

 「通りすがりの者ですよ。貴方達の声を聞いてやってきたのですが、もう攻撃はありません。シールドを解除するので、俺達を攻撃しないで下さいよ」

 「信用ならん、皆油断するな!」

 「あのねぇ、そのシールドを誰が張ったと思っているの。俺が襲う側なら皆殺しにしていますよ」

 襲われて興奮しているので説得が長引きそうだ。
 面倒なのでショック療法で静かにさせる事にした。

 《グレイ、ファイヤーボールを一発上に打ち上げてよ》

 《魔力は五つ?》

 《あー・・・三つくらいかな》

 〈ドオォォーン〉

 頭上で大爆発が起きると、興奮していた奴等が頭を抱えて伏せている。

 その間にアッシュとグレイを連れてシールドの前に立つ。

 「今からシールドを解除しますが、俺達を攻撃したら命の保証はありませんよ」

 俺の声に頭を抱えたまま顔を上げるが、背後に居るアッシュを見て顔色を変えている。
 前方から順にシールドが消滅すると、漸く俺の言葉を信じた様でそろりそろりと立ち上がっている。

 此方側から見ると車輪のスポークが折れているし馬車にもバレットとクロスボウで撃ち抜かれた穴が開いている。
 重軽傷者多数の様で其処此処で呻き声が聞こえるし、馬も相当数がやられている。
 放置すれば重傷者が死にそうなので、グレイに治療をお願いする事にした。

 「重傷者がいたら治療しますので教えて下さい」

 「お前・・・治癒魔法が使えるのか?」

 「そんな事よりも、さっさと重傷者のいる場所を教えろ!」

 近くで転がっている男の側に行くと、胸と腹に矢が突き立っていて既に事切れている。
 少し先で呻いている奴は、腹に一発喰らって大量の血を流していた。

 《グレイ、矢を抜くからお願いね》

 《あい、ランディ》

 《よし、始めろ》

 グレイが治癒魔法を使うのに合わせて矢を引き抜く。

 《治れ 治れ!》

 《グレイ、魔力は二つ、治らなかったらもう二つだ》

 《あい》

 「見ろよ、野獣が治癒魔法を使っているぞ」
 「そんな馬鹿な・・・」
 「そいつが魔法使いじゃないのか」

 「すまん、こっちも頼む」

 声を掛けて来た男について行くとストーンバレット当たったのか、腕が折れて胸も潰れている。

 「ポーションを飲ませたのだが、俺達のじゃ効き目が無いんだ」

 《グレイ、胸が潰れているので此処をお願いね》

 《あーい、治れ 治れ!》

 次々と呼ばれてグレイと共に重傷者のところを回っていると「そこの男、こっちに来てご主人様の治療をしろ!」と怒鳴りつけられた。
 見ればお仕着せに身を包んだ痩せた男が、尊大な態度で騎士や冒険者を押しのけてやって来る。

 「死にそうなのか?」

 「馬車を突き抜けた石が当たり怪我をなされたのだ。さっさと来い!」

 言うだけ言ってくるりと馬車の方に向いたので、尻を蹴り飛ばしてやる。

 「軽傷ならポーションを飲んでろ。死にそうになってから呼びに来い!」

 ぼーと突っ立っている奴に怪我人を馬車の近くに集めろと命じて、重傷で動けない者の治療を続ける。
 重傷者八名の治療を終わらせて馬車の所へ行くと、尻を蹴り飛ばした男が真っ赤な顔で冒険者達を怒鳴りつけている。

 《気に入らないわね》

 アッシュの不機嫌な声と共に〈バシーン〉と音がして鼻に一撃を食らった男が吹きと飛び、馬車にぶつかってズルズルとすわりこんだ。

 「何故治療に来ない! その無礼な男を連れて来い!」

 「父上おやめ下さい、あれは多分噂の男ですぞ」

 「噂の男とは何だ?」

 「ご存じないのですか、先の王都での騒ぎを。あの男に無理を言ったせいで多数の貴族が隠居させられた事を。エイベル商会会長とメルヴィン商会会長も、彼に無理を通そうとした為にどの様な処分を受けたのか忘れたのですか」

 「まさか・・・外にいる冒険者が其奴だと言うのか」

 「タイガー種の親子を従えているので、多分間違いないでしょう」

 「どうしよう。その男を何とか丸め込めないか? 結界魔法に治癒魔法なら利用価値は大きいぞ」

 「ですので、父上も彼を刺激する言動はお控え下さい」

 「おっ、おう。お前は何とかして奴に取り入れ。任せたぞ」

 まぁー、馬車の外にいても丸聞こえで、冒険者達も話の内容から微妙な顔で俺達を見ている。

 《利用する気満々ね》

 《魔力を纏っていなくても丸聞こえなのに、呑気なものだよ》

 怪我人の治療が終わり、無力化した奴等について相談する為に冒険者達に彼此と指示をしている男の所へ向かう。

 馬車から上等な衣服に身を包んだ男が降りてきて、グレイをじっと見つめている。
 さっきの奴の様な尊大な態度ではないが、父上と諫めていた奴らしい。

 「ランディス殿とお見受けする。危ない所を助けていただいた上、部下達の治療をして頂き感謝する。先程は配下の者が失礼した」

 「確かにランディスですが、貴方は?」

 「私はアイザック、オルディウス商会会長の嫡男です」

 「それよりも向こうで貴方達を襲っていた男達が転がっているので、回収を手伝ってもらえませんか」

 「男達が転がっている?」

 「貴方達を襲っていた奴等ですよ。ただの野盗ではなさそうなので、逃げられない様に怪我をさせて転がしています」

 「判った、冒険者達に手伝わせよう」

 護衛の騎士や冒険者達を連れて、怪我をして呻いている男達の所へ案内する。
 逃げる元気のある奴は、アッシュとグレイが後を追い冒険者達に引き渡した。
 その間に陽が傾いてしまい、壊れた馬車や怪我人と捕らえた男達を連れて街まで行くのは無理なので、野営をする事になった。

 生きていた18名の賊と遺体五つを一つの結界に閉じ込めておく。
 次いで冒険者達と騎士達を二つのドームに収容し、馬と馬車を高さ5mのシールドで囲っておく。
 馬車の乗客は彼等の護衛と一緒のドームに放り込んでおいた。

 アイザックと名乗った男は少しはまともな様だが、怪我をしていたオルディウス商会会長は愛想笑いの見本の様な顔で助けられた礼を言ってきた。

 * * * * * * *

 夜が明けると応援を呼びに、ゾライセンに向けて元気な者を数名送り出した。
 彼等が戻るまでは賊を収容しているシールドを解除出来ないので仕方なく付き合うが、愛想笑い親父が冒険者達に彼此と文句を言っていて煩い。
 襲われた事や馬車が壊れて予定が狂った事など、文句の種が尽きない様だ。
 アイザックが俺の事を話したので俺には直接文句は言ってこないが、その分配下の者や冒険者達に当たるので、聞いていて気分が悪い。

 とうとう我慢が出来なくて、おっさんを怒鳴りつけてしまった。

 「喧しい! 己を守って大怪我をしたり死んで言った者に対して、一欠片の感謝も言えないのか! 死んだり怪我をした者に最低限の保障すら約束しないくせに、偉そうに文句を言うな! 巫山戯た事を言っていると、此のまま草原に放置してゴブリンの餌にするぞ」

 「お、お前は、王国の身分証を持つとはいえ、多くの貴族達と懇意で子爵待遇を受ける儂に対して何たる無礼! 許せん!」

 「許せんだと、己の様な屑に許してもらうつもりはない! 糞野郎が!」
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