ゴブリンキラー・魔物を喰らう者

暇野無学

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049 本領発揮

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 俺と初対面の数人が、心配気にヤハン達を見ているが〈まぁ見てろ〉と言って笑っている。
 俺は知らぬ顔でエールのお代わりを注文しに立ち、エールと摘まみを受け取りテーブルに戻ると、俺の席に森の熊さんみたいな男が座り笑っている。
 残念なのは森の熊さんほど愛嬌が無い顔で、目付きが悪いってことだ。

 楽しく旧交を温めて居るのに外野が煩くてイラッとしたので、何も言わず殺気をその男に浴びせてやる。
 絵に描いた様な動作で後ろに仰け反り、〈ガタン〉とそのまま倒れてしまった。
 殺気を浴びせたまま、顎をしゃくてって其処を退けとしめす。
 顔色を変えハイハイして後ろに下がる男に〈椅子を元に戻せ〉と声を掛けると、仲間達が一斉に立ち上がる。

 〈おっ、ゴブリンキラーに喧嘩を売ってるぞ〉
 〈何だと、帰っていたのか〉
 〈ゴブリンキラーを知らない流れ者だろう〉

 エールと摘まみをテーブルに置くとき、ヤハンと目が合うが笑って手には革袋が握られている。
 見回すとヤハンとハインツの仲間達は期待の籠もった目で俺を見ている。
 此奴等楽しんでいやがるが、期待に応える気はないぞ。

 〈なかなか洒落た真似をするじゃねえか〉
 〈ゴールデンベアと俺達〔ベアハンター〕とどちらが強いか確かめようぜ〉

 立ち上がった奴等にも殺気を浴びせていく。

 〈おい、ベアハンターが立ち上がったぜ!〉
 〈これでベアハンターは引けなくなったな〉
 〈可哀想に、熊ちゃん鏖かぁ〉
 〈熊ちゃんより強いゴブリンキラーって、何の冗談だよ〉
 〈ベアハンター、負けるんじゃねえぞ!〉

 「どうした熊ちゃん達、喧嘩を売ったのはお前達だぞ。此処で引いたら笑い者でヘイエルで大きな顔は出来なくなるぞ」

 俺の殺気を浴びて硬直したり青い顔で震えている奴等を見回しているとヤジが飛ぶ。。

 〈どうした! ビビるな熊ちゃん。相手はゴブリン一匹だぞ!〉

 遠くからのヤジに、周囲からどっと笑いが起きる。

 「消えろ、二度とこの街ででかい面を晒すな」

 静かに言ってやると、俺の椅子に座っていた奴が慌てて食堂から出て行った。
 立ち尽くす奴等にギルマスを呼べと言うと、一人が背を向けたとたん残りの者も慌てて後に続く。
 谷底の森で何度もドラゴンや他の大型獣の咆哮を浴びているうちに、耐性と殺気で相手の動きを封じるコツが判った気がする。
 人を相手に初めて試したがなかなか有効、面倒な模擬戦を減らせる良い方法だ。

 〈ゴブリン相手に熊公が逃げ出したぞ〉
 〈ゴブリンキラーに喧嘩を売る強者だと期待したのに〉
 〈賭け率なら1対10で大儲けだと思ったのにな〉
 〈そりゃー無理だ、知らない馬鹿以外はゴブリンキラーに賭けるぞ〉

 「残念、儲け損ねたよ。未だハルトの事を知っている奴は多いもんなぁ」

 「で、ヤハン達は稼いでいるのか」

 「まぁ訓練の成果もあるし、ブラックウルフの群れくらいなら何とかなる様になったよ」

 ちょっとしたイベントの翌日、一月分の食料を確保してゴブリンが増えていると報告のあったベイル村に向かった。

 ・・・・・・

 ヘイエルから徒歩で二日のベイル村、村長の家を訪ねゴブリンの活動状況を確認する。

 「あんた一人で来たのかね」

 俺をジロジロ見ながら聞いて来る猫目の村長、ずる賢い表情が隠せていない。

 「まあ、ゴブリン程度なら一人で十分だしな」

 「そう言ってアイアンやブロンズの連中は言うが、大怪我をしたり帰って来ない事は良くあるからな」

 「討伐依頼も出してないんだろう。俺が死んでもなんの損もないのに説明すら嫌なら帰るぞ」

 面倒そうに村の入り口で見張っていた男を呼び、ゴブリンの事を説明しろといって奥に引っ込んでしまった。

 「やる気の無い村長だな」

 「まあ、あれでも一応村長に任命されていますから。それよりここ最近やたらとゴブリンを目にするんです、気を付けて下さいよ」

 ゴブリンは村に来る道の反対側、村の背後の森に沢山住み着き始めていると教えてくれた。
 ゴブリンが多いなら、奴等の住まう森の奥にはハイゴブリンが居る可能性が高い。
 見張りの男に案内して貰い、ゴブリンが多く見られる場所を目指した。

 男と別れ畑の向こうに見える森を目指す、初めてゴブリン討伐に参加したエミナ村を思わせる風景だ。
 初日は様子見のつもりだったが三つの群れ、15頭のゴブリンを討伐した。
 翌日からは平均六つの群れを討伐し、一日平均33~37頭の討伐が続き心臓の収集は50個で打ち止め。
 後はひたすら討伐と魔石集めに没頭した、と言っても脳味噌を凍らせて魔石を取り出すだけの簡単なお仕事。

 単調なお仕事の合間には、ゴブリンの死骸を喰いにやって来るブラックウルフやプレイリーウルフ等を、気分転換にアイスアローやアイスランスで射ち取りマジックポーチに入れる。
 余りに数が多いのでゴブリン討伐に10日以上費やしてしまい、ハイゴブリンの心臓集めが遅れたが、40近い数が集まったので満足してヘイエルに帰る事にした。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 家が完成しているのか気になるが、取り敢えずマジックポーチの中の物を処分する為に冒険者ギルドに向かう。

 「ハルト、お帰りー。何処まで行ってたの」

 後ろからヤハンに声を掛けられた。

 「ベイル村だ、ゴブリンが増えているって聞いてな」

 「へえー、未だゴブリン狩りをしてるんだ。戦果はどうよ」

 「まっ、満足のいく結果になったな」

 「ゴブリンキラーの本領発揮か、ハルトが満足いくって言うのなら相当居たんだな」

 「ああ、ヤハン達だって、増えている所に行けば稼げるぞ。ゴブリンだって馬鹿に出来ないからな」

 ギルドに到着し買い取りの親爺に、解体場で出したいと告げると頷くので中に入る。
 ヤハン達も俺がゴブリンの魔石だけで無いのを知っているので、何を取り出すのか興味津々でゾロゾロついてくる。
 今日はどれくらいだと聞かれるが、沢山としか言いようがない。

 ブラックウルフ、15頭
 プレイリーウルフ、19頭
 オーク、7頭
 ハイオーク、4頭
 エルク、2頭
 ビッグボア、1頭
 ホーンボア、1頭
 ホーンラビット、42頭
 ヘッジホッグ、19頭

 興味津々で見ていたヤハン達真紅の剣のメンバーも〈エッ〉〈エッエエエ〉〈ウッソー〉等段々声が変化していって面白い。

 「相変わらず大量に持ち込む奴だな。時間が掛かるからエールでも飲んでろ」

 そう言われて解体場を後に買い取りの親爺の前に立つ、ゴブリンの魔石の袋とハイゴブリンの魔石をドンと置き〈宜しく〉と声を掛けて食堂に向かう。
 後ろをヤハン達が黙ってついてくる。

 「あの魔石の量からいったら300以上は討伐しているな」

 「まぁな、一日30頭以上は確実に仕留めていたからな。其れが二週間以上続いたから、多分400くらいは有る筈だ。それとハイゴブリンが40頭くらいかな」

 〈ゴブリンだけで800000ダーラは有るぞ〉
 〈ハイゴブリンが40頭で480000ダーラ・・・〉

 〈リーダー、俺達もベイル村に行こうぜ〉

 「間違えるなよ、一月近く掛かっての討伐数だからな。ゴブリン狩りをするなら、増えているって情報を仕入れてから行くべきだな。多分直ぐに知れ渡って、皆がベイル村に殺到するぞ」

 「だよなー、遠征して稼げる保証がないからなぁ」

 受け取った査定用紙には
 ブラックウルフ、15頭×7500=112,500ダーラ
 プレイリーウルフ、19頭×5000=95,000ダーラ
 オーク、7頭×18,000=126,000ダーラ
 ハイオーク、4頭×28,000=112,000ダーラ
 エルク、2頭×26,000=52,000ダーラ
 ビッグボア、1頭、32,000ダーラ
 ホーンボア、1頭、14,500ダーラ
 ホーンラビット、42頭×3,000=126,000ダーラ
 ヘッジホッグ、19頭×7,000=133,000ダーラ
 合計 803,000ダーラ

 ゴブリン魔石、429個×2,000=858,000ダーラ
  ハイゴブリン魔石、38個×12,000=456,000ダーラ
 合計 1,314,000ダーラ+803,000ダーラ=総合計 2,117,000ダーラ

 ゴブリンの魔石の数が多すぎて数えるのが大変だから、もっと早く持って来いと怒られた。
 査定用紙をカウンターに持って行き、全額ギルドに預けると告げる。

 ヤハン達は俺の稼ぎを見て落ち込んでいたので、俺の驕りで飲み放題にして慰める事になり、ハインツ達も合流して宴会になってしまった。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 二日酔い気味で目覚めた朝、月夜の亭で遅い朝食を食べているとブルースがやってきた。
 家は完成しているが、俺が帰らないので引き渡しが出来ずに困っているぞと言われた。
 慌てて商業ギルドに出向き受け取りの手続きを済ませると共に、ブルースに2階の部屋を売るからと手続きをして貰う。
 俺は左の部屋ブルースは右の部屋に決め、残りの部屋は金貨120枚で売る事を商業ギルドに伝える。

 手続きを済ませたら家具の購入だ、商業ギルドで聞いた家具屋に向かう。
 ダイニングテーブルにソファーと布団、後は食器や調理器具を買ってお終い。
 部屋に置きっぱなしにする物だから、気軽に買って帰ろうとするとブルースが呆れている。
 まあ、男の独り身と、母親とは言え二人暮らしでは必要な物も数も違うからな。
 後はカーテンだけだが、これは寸法を測って注文するしかない。
 初めてのマイホームだし、のんびりしながら魔力増強に励む事にした。
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