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079 氷結魔法と魔力

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 「グレンは雷撃魔法がスムーズに使えるのでそんなに難しくはないはずさ。こうやって掌に拳大の氷を乗せる事を思い、魔力を送り出すだけさ」

 俺の掌に現れた氷塊を、汗だくのオールズに投げてやる。
 オールズが受け取った氷を額や首筋に滑らせながら、気持ちよさそうな顔になる。

 「親父試してみなよ。ユーゴの教えで雷撃も格段に上達したんだ、出来なくても元々だろう」

 小さくなった氷を口に放り込んで笑っている。

 「そうそう、やってみなくちゃ出来るか出来ないか判らないよ。こうやってさ、掌に氷をのせるつもりで雷撃の様に魔力を流すだけだよ」

 そう言って、再び掌に氷のせて見せる。

 「この氷を見ながら同じ物を作るつもりでやってみなよ」

 「こっ、こうか?」

 おずおずと差し出した掌を上に向け(氷!)っと呟く。

 〈ウワーアッチ〉

 掌の上に現れた氷を、放り投げて騒いでいるグレン。

 「凄えぇぇ、本当に出来るんだ」

 オールズが地面に落ちた氷を拾い上げて繁々と見ている。

 「親父、冷てえぞ! 確かに氷だぜ」

 「だから言っただろう。グレンは雷撃魔法を自在に仕えるんだから、氷結魔法だって直ぐに出来るさ」

 「親父もアイスアローやアイスランスをバンバン射てる様になるのか?」

 「そりゃー無理。氷を作るのと、アイスアローやアイスランスでは根本的に違うからな。其れなりの練習は必要さ」

 今作った氷も、俺の掌に乗った氷をイメージして作ったので拳大の氷だ。
 グレンが何もイメージせずに氷のみを念じ、雷撃と同じ2/92の魔力を使った氷を作れば、どんな大きさの氷が出来る事やら。
 相当大きな氷が出来るのは間違いない。

 「歩きながらやろうか。自分の拳と同じ氷塊を作るつもりで作りなよ。氷は40個までで数を数えていろよ」

 俺の後を歩きながら時々(氷!)って声が聞こえ、〈ほう〉とか〈へえぇ~〉とか聞こえる。
 自分で作った氷塊に感心しているらしいが、その後で〈ほれっ〉て聞こえるのは殿を歩くオールズに渡しているらしい。
 オールズにとって、父親は歩く簡易冷却装置と化した様だ。

 「ユーゴ、40個終わったぞ」

 立ち止まってグレンを(鑑定!・魔力)〔魔力・24〕
 ん、氷塊を41個作ったので、残魔力は10の筈だが24も残っている。
 試しに雷撃と氷塊作りを一回ずつやって貰ったが、どちらも魔力を2/90使っていて残魔力20になった。

 魔力92で魔力切れから完全回復するまでに八時間とすれば、魔力が1回復するのに五分少々か。
 ゆっくり氷塊を作っていたので、回復分が残魔力にプラスされていたようだ。

 「グレン、魔力が腕から抜ける感覚は判るよな」

 「おう、お前の教え通りにやっているからな」

 「今から作る氷塊は、腕から抜ける魔力を半分で止めろ。雷撃じゃないので、魔力を半分にしても氷は出来るから。魔力の流れに注意してやってみな」

 歩きながらでは気が散ると思い、立ち止まってやらせる。
 その間一回毎にグレンの魔力残を鑑定し、魔力の使用量を教えて注意する。

 「未だ未だだね。氷塊10個作るのに魔力を16使っている。試しに今の魔力使用量で雷撃を一発射ってみな」

 小さく口内詠唱をすると〈バリバリバリドーン〉と雷撃音が轟き標的の岩の表面が飛び散る。

 「あー駄目だ、魔力切れ寸前だな」

 「でも少ない魔力でも雷撃を射てただろう」

 「確かにな。なんで魔力を減らすことが出来なかったんだろう」

 多分魔力が少ないと魔法が発動しないっていう、最初の思い込みが無意識に作用していたんだと思う。
 日暮れには早いが野営する事にして、二人の為に土魔法のドームを作る。
 その隣に結界のドームを作り椅子やテーブルなどを並べる。

 「此れがユーゴの言っていた野営用の結界なのか」

 「そう、此れだと野獣が寄ってきても起き上がって確認する必要が無いからね。索敵の練習には最適だし、寝ながら狩りが出来る優れ物だよ。土のドームだと獣からも俺達の事が判らないので、余り近寄って来ないしね」

 * * * * * * * *

 一夜明け、魔力満タンのグレンに前日よりもっと魔力を減らし、魔法が発動しない限界を探れと言って出発する。
 その際、氷塊を作るのは40個までと言っておく。
 グレンから40個作り終わったと聞き、残魔力を鑑定で確かめたが39と回復分を含めても未だまだだ。

 二日目の残魔力は42、三日目が45と着実に魔力の使用量が減っている。
 六日目に魔法が発動しないと言ったので、其処が限界点なので其れより少し多い量の魔力を流す練習を続ける様に指示する。

 その間森の奥へ奥へと進み、オールズが俺はこんなに野獣の多い所は初めてだと泣き言を言っている。
 確かに王都周辺じゃ様々な野獣に連続して出会うって事はないだろうから無理もない。
 索敵で獣を察知する度に避難所でやり過ごしていると、流石にオールズも土魔法の重要性に気付いた様だった。

 「この間、俺も土魔法が使えるって言ったよな・・・あれって本当の事なのか」

 「使えるよ、但し相当練習・・・練習以前に魔力の扱い方からだな。親父さんの雷撃や氷結魔法の練習は簡単そうに見えるけど、元々雷撃魔法が使えていたからこそだよ。其れでも雷撃魔法と氷結魔法では、やり方が随分違うからね。この先アイスバレットやアイスアローで苦労すると思うよ。オールズの場合は魔力操作から始めるが、絶対に魔法が使える保証はないよ。魔法ってのは、アッシーラ様から授かっても使え無い奴は多いからね。魔法が使える様になっても10回前後で魔力切れになるよ。其れでも練習してみる」

 「やる! やります、教えて下さい」

 グレンが息子の顔を見ながらニヤニヤ笑いを浮かべている。

 「横でニヤニヤ笑ってないで、魔力溜りの場所を教えてやりなよパパさん」

 「雷撃魔法を、其れなりに使える様になるのに何年掛かったと思っているんだ。而しユーゴから教われるんだ、頑張れよ」

 オールズは魔力溜りと魔力溜りから魔力を腕へ導く練習をパパから教わり、毎夜真剣に取り組み始めた。
 俺は二人の練習を横目に、結界の中でお茶を片手に索敵で周辺を探り、近づく奴をアイスバレットで追い払う。

 * * * * * * * *

 予定より二日遅れたが、清流の流れる伐採現場に到着した。
 倒木の切り残しもそのままで、此処が以前クリスタルフラワーの匂いに誘われた場所と教えてくれる。

 「こんな場所に生えているのか?」

 「ああ、俺も偶然花の匂いに誘われて見つけたんだ。まさかオークションものの花とは思わずにお土産として採取したのさ」

 以前花を見つけた場所も殆ど変化しておらず、川縁の低木の密集した所に潜り込んで確認する。
 今日は風がなく潜り込んだ草叢から、甘く優しい香りが沸き上がる様に匂っている。

 「ほう~、此れがクリスタルフラワーの香りか」
 「でも花が見えないぜ、有名な花なんだろう。さぞや見事な花だと期待したんだけどなぁ~」

 「余り草叢を荒らすなよ。ゆっくりと草を掻き分けて、薄緑色の半透明な花を探せよ」

 「此れかな? 薄緑で半透明な花」

 「根から採取するのでそのままにしておいてよ。今容器を作るから」

 「おっ、こっちにも咲いているぞ。香りも良いが花も半透明で綺麗なもんだな」

 「踏み荒らさない様に気を付けて周辺も探してみてよ。多分まだ在ると思うよ」

 初めの場所で咲き始めたばかりの花を二本採取し、周辺の似た様な環境の所を探して歩く。
 二日で九本の花を採取し、三本をグレン達に四本をブレメナウ会長に渡す事で納得して貰う。

 「つくづく土魔法って便利だなぁ。攻撃も防御も野営もお任せだぜ、其れに容器まで作れるって呆れたね」

 「まぁね、重宝しているよ。預けたマジックポーチはランク3、3/180なので、王都に帰ってギルドに渡しても新鮮なままだから高く売れると思うよ」

 「ユーゴは本当に要らないのか?」

 「あぁ、俺はお土産に二本有ればそれ以上は必要ないよ。稼ぎは別な方法があるからね」

 「確かに、口先一つで見事に稼いだからな」

 「えっ、ちゃんと治療してその対価を貰っただけだよ」

 「はいはい。見事なお手並みでしたよ」

 「所で野獣を一頭も狩ってないんだけど、3/180のマジックポーチが有るのなら少しは獲物を持ち帰ろうぜ。親父も練習ばかりで退屈だろう」

 「頑張れー、パパさん♪ あっ、大きさは気にしなくて良いよ。12サイズのマジックバッグを持っているから大丈夫」

 「気楽に言ってくれるよ」

 「親父、今なら無敵の防御に守られて気楽に狩れるぞ。ドラゴンとは言わないが大物を一頭頼むよ」

 大物を探すのは面倒なので川辺でキャンプして獲物が現れるのを待つ事にした。
 但し昼間より夜の方が野獣も活発で、結界に餌がいると見ればすかさず寄ってくる習性を利用する事にした。

 「おい、こんな状態で寝るのかよ」
 「これって寝ている間に消えたりしないよな」

 「えっ、もともと消えてるじゃない。気にしないで寝てて良いよ、獲物が現れたら起こしてあげるから」

 「ユーゴが訓練の為だと言って結界の中で寝ているが、よくこんなので寝られるな」
 「此れじゃ獲物を狩るって言うより、俺達が獲物じゃないの」
 「まぁ獲物の餌に見えるな」
 「止めてくれよ親父。ユーゴ様、俺は死にたくないので宜しくね」
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