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093 面倒事は王家へ

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 此処でザワルト伯爵を殺しても良いが、後片付けが面倒だ。
 それより馬鹿から薬草を受け取っていた、間抜けな王家に丸投げした方が楽。

 「ザワルト伯爵。お前の指示した部隊の攻撃により、瀕死の者から重傷者まで九名の負傷者を出した」

 「はっ、はい。申し訳御座いません」

 「お前は、以前俺を呼び出す書状を書いていたな。確か治癒魔法の腕が良ければ、高額で雇って使わすとか何とか」

 「おい、始まったよ」
 「始まったって、何が?」
 「腹黒ユーゴの事か?」

 「其処、煩いよ。殺されかけたのだから、それなりの謝罪と賠償は必要でしょう」

 「はい。ご尤もです」
 「ユーゴにお任せします」
 「どうせならがっぽりお願いね」
 「頼んだよ♪」

 「どうなの? 口だけの謝罪は必要無いんだ、それなりの誠意を見せろよ」

 ちょっとヤクザの手口に似てきたかな。

 「せっ、誠意と申しましても、何を?」

 「お前の命令によって死にかけたんだぞ、その攻撃を防ぐ為の服と魔法付与の費用だよ。それと重傷の彼等を治療した費用だな。治療費は格安にしてやるし、序でにお前が出していた依頼にも答えてやるよ」

 そう言って伯爵に治療を施し、パンパンに腫れた顔を治してやる。

 「ほら、此処だ」
 「この(ヒール)の一言で金貨300枚って奴ね」
 「まるで詐欺師じゃねえか」
 「ユーゴが獲物で稼ぐ気が無いのは、此れで稼げるからか」

 「お静かに、命を守る安全で快適な服が欲しくないの?」

 「いえいえ、見事なお手並みで御座います」
 「後学の為にじっくり見学させて頂いてます」
 「安全快適な服を宜しくね」
 「伯爵様って、お優しいんだなぁー」

 完全な棒読みの奴がいるが無視しておこう。

 「全員のですか、それはその~う」

 「十一人のうち九人が大怪我を負ったんだぞ、無事だった者も間一髪で被害を免れただけだ。無理にとは言わないし嫌なら良いよ」

 そう言って、伯爵の顔を思いっきり蹴り飛ばす。

 「そうなると、お前にも相応の怪我をして貰う必要がある。瀕死の重傷だから、生死は運次第だな。ハティー、此奴を放り出すので、キツい火魔法を一発射ち込んでやってよ」

 「任せて! 矢を三本ほど射ち込んでから吹き飛ばしてやるわ!」

 そう言いながら小弓を取り出し、矢をつがえるハティー。

 「待って、待って下さい! 払います、お支払いいたしますのでお許しを!」

 「いや~、ハティーも迫真の演技だねぇ~」

 「えっ、本気よ。矢を二本も射ち込まれて死にかけたのよ、一本追加でサービスしてあげようかと思ってね」
 「俺にも殴らせろ! カブスって馬鹿一人じゃ、殺し足りないぞ!」

 「お許し下さい! 二度と致しません」

 あ~あ、土下座をし始めたよ。

 * * * * * * * *

 ザワルト伯爵邸の地下室は中々立派で、お宝が整然と並べられていた。

 「凄~い!」
 「へぇ~ぇぇ、お貴族様って稼げるんだなぁ」
 「大丈夫なんだろうな?」
 「男爵様が伯爵様のお宝を掠めるなんて、世も末だよな」

 「あれっ、キルザは謝罪と賠償を辞退するの?」

 「いやいや、貰えるものは何でも貰いますよ。役に立つ物ならね」

 「伯爵様、一人三袋ずつね」

 「えっ、金貨200枚も有れば、その服と同じ物が作れるんじゃないので?」

 「何を言ってるの、治療費の金貨100枚を含めてだよ。俺と行動を共にして死にかけたんだ、格安の治療費で悪いが皆に進呈するよ」

 「(ヒール)一発、金貨300枚じゃないの?」

 「俺ってそんなに悪辣じゃないよ」

 「でも金貨300枚を取り上げるんだろう」

 「それは依頼によって治療した時はね。皆を治療したのは俺の善意だから格安さ」

 「金貨100枚が格安ねぇ~」
 「呉れるものなら、遠慮無く貰っておこうよ」
 「ユーゴの取り分が少なくなるよ」

 「そうだな、九人の治療費として金貨900枚でも貰っておくか」

 一人ずつ、伯爵様から金貨の袋を三つ貰ってニコニコ顔になる。
 俺は伯爵の治療費込みで十二袋を貰ってマジックポーチにポイ。

 「俺達は怪我をしてないけど・・・貰っても良いのか?」

 「なに、伯爵様からの迷惑料だよ。気にしないで良いよ」

 「あっきれた! でも貰っておけば良いんじゃない」

 ザワルト伯爵が泣きそうな顔で俺を見ているが、無理も無い。
 金貨の袋が45個、総額450,000,000ダーラが消えたのだからな。
 でも、金貨の袋が幾ら消えようと、心配の必要無いんだけどな。

 全員で伯爵の執務室へ行くと、腹にストーンアローを受けた男達が転がっていた。
 三人居た身内らしき男の内、死んだ奴以外の姿が無い。
 門の前に立っていた男を連れて来たので執事を呼びに行かせ、その間に騎士達の腹からストーンアローを抜き部屋の外に放り出す。

 やって来た執事に命じて、伯爵の家族を執務室の隣の部屋へ連れて来いと命令する。
 戸惑う執事に、伯爵が「言われた通りにしろ!」と怒鳴りつけた。
 執務室を飛び出して行った執事を見送り、伯爵の執務机でお手紙を一枚認める。

 分別を弁えた男の名はランドルス、ザワルト騎士団の中隊長だそうだ。
 俺の身分証を示して、近々ストライ・ザワルト伯爵家は消滅する事を伝える。
 何故かの問いに、俺の身分証をよく見ろと言い身分証を手渡す。

 「王家と同じく羽根付きドラゴンの紋章を許された俺が、国王陛下に伯爵の盗賊行為を報告すればどうなると思う。伯爵から贈られた薬草を受け取り、感謝の言葉を述べていた王家の面目丸潰れだ」

 間違いなく潰されるが、其処迄教えて必要は無い。
 厄介事は人に任せるのが楽って言葉通り王家に丸投げをするが、其れ迄は伯爵一家の監視を此の男に任せることにする。

 シエナラ冒険者ギルドでの遣り取りと、正門前で待っていた時の対応を見て、胆力もあり信用できるとふんだ。
 執事が家族全員が揃ったと伝えて来たので、ランドスには騎士団の要職に付く者を全員を連れてこいと命じ、執事の案内で伯爵一家とご体面だ。

 執事が扉を支える部屋に入ると、改めて俺の身分証を伯爵に検分させる。
 ちょい大法螺を噛まして、此奴等の反抗心を抑え込んでおく必要が有る。

 「男爵とは言え、その紋章が持つ意味は判るよな」

 改めて伯爵の顔色が悪くなるが、王家の通達など碌に目を通していなかったのだろう。
 ましてや男爵位授爵と紋章の通達など、気位が高く奢る伯爵が気にするはずもないか。

 「お前達は王家からの使者が来るまで、自室にて謹慎していて貰う」

 「冒険者風情のその方から、何故その様な事を・・・」

 「黙れ! 王家と同じ羽根の付いたドラゴンの紋章を持つ御方だ」
 「そんな馬鹿な。こんな薄汚れた猫の子が?」
 「滅多なことを言うな! 我がザワルト家が此の紋章に逆らえばどうなるのか、判らぬお前でもあるまい!」
 「父上・・・兄上を殺されて黙って従う」
 「黙れと言っておる!」

 「気に入らなきゃ腰の剣を抜けよ。それ位の気概は有るのだろう」

 〈ギリッ〉と奥歯を噛みしめる音が聞こえるが、誰も剣に手を掛けようとはしない。
 出来るのなら、兄を殺された時点で剣を抜いていただろうが、震えていて何も出来なかったのだから。

 やって来たザワルト騎士団団長と各中隊長、魔法部隊指揮官と警備隊隊長。
 皆俺の顔をまともに見ようともしないのは何故か、攻撃されなければ反撃しないぞ。
 伯爵の口から、俺の指揮下に入る様に命じさせる。
 訳が判らない様だが、主人の命令には無条件で従う忠犬達。

 ランドスに先程認めた封書を渡し、王城へ早馬を送れと命じる。
 不審気に受け取った封書の表書きを見て顔が引き攣るが、黙って一礼して部屋を出ていく。

 封書の表書きは急報と書かれワレイズ・ヘルシンド宰相宛だ、主人の伯爵でもおいそれと出せる物ではない。

 騎士団長に対し、屋敷の内部をランドスとその部隊に全面的に任せ、建物の周辺警備は騎士団長が指揮を執れと命じる。
 警備隊の責任者には街の治安の維持を命じ、噂話を封じておけと命令。

 早馬を送り出して戻ってきたランドスには、改めて屋敷内の全責任を与えて伯爵一家を自室に監禁しろと命じる。
 一介の男爵が伯爵を支配下に置き彼此命令するのを、ランドスの部下達が何とも言えない顔で従う。

 身分証のはったりが利いているので楽だ。

 ランドスの部下達には、ザワルト伯爵家は爵位を剥奪されるだろうと伝える。
 その上で謹慎させている伯爵一家に、好き勝手をさせるなと厳命しておく。
 執事には王家の使者が来るまで遺漏なき様取り計らえと言い、馬車を三台用意させる。

 館の前に作った結界の中、情けない顔の魔法使いとその護衛達。
 遠巻きに見ている騎士を手招きし、魔法使いと護衛達を地下牢に入れておき、王家の使者が来れば彼等に引き渡せと命じる。

 用意の出来た馬車に乗り込み、伯爵邸からおさらばだ。

 * * * * * * * *

 「やれやれ、やっと王都に帰れるか」

 「コッコラ商会に寄って馬車を引き取ったらね」

 コッコラ商会で馬車を受け取り、伯爵家の馬車を一台帰した後でコークス達とハリスン達を集めて確認する。

 「話は決まったと思うけど、全員王都に行くことに問題ないよね」

 「大丈夫だ。ドラゴンを売ったら大騒ぎになるし、関わった俺達も巻き込まれるのなら王都に逃げた方がマシだろうからな」
 「俺達も異存は無いよ。確り稼がせて貰ったし」
 「そうそう。薬草採取だけでも大儲けなのにねぇ」
 「伯爵様も太っ腹だよねぇ~」

 「そりゃそうさ。溜め込んでおいても王家に巻き上げられるだけの金だもの」

 「それにしては、金貨の袋を差し出す時に悲しそうな顔をしていたわよ」

 ハティーの一言に皆が爆笑する。
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