男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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108 テンペス騎士団

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 リンレィはメイドとして雇うことになったと皆に説明したが、誰も信じた者がいなかった。
 まったく、冒険者って奴は性格に難が有る奴ばかりで疲れると言ったら、その筆頭はお前だと返されてしまった。

 リンレィ一人を屋根裏部屋に寝かせるのも問題なので、空き部屋を与えたが広すぎて恐いと言い出した。
 其れでハティー達と同室にして、魔力溜りの魔力を腕に流す方法を教えて貰えと言っておく。
 ハティーもやることが無いので、娘のような相手が出来たので喜んで手ほどきをしている。

 尤もハティーには魔法の基本を教えてくれたら、治癒魔法の奥義を教えると言っておいた。
 今でもそれなりに治癒魔法が使えるが、如何せん人族相手の病気治療経験が圧倒的に少ない。
 ゴブリンやオークを怪我させて治療しても、怪我治療の腕が上がるだけで病気治療の腕が上がる訳では無い。

 かと言って病人を募集して無料で治療なんてしたら、大騒ぎになるのは間違いない。
 それはハティーの望むところでも無いだろう。

 人の口に戸は立てられないと言うか、リンレィを引き取って三日目には治癒魔法を授かった者が居るので、俺に治癒魔法の指導をお願いしたいとの依頼が舞い込み始めた。

 ハティーの事が知られていないので、漏れたのはリンディの周辺か糞親父が周囲に話したからだろうと思う。
 どちらにせよ、此の世界の貴族や豪商達の情報収集能力は侮れない。
 一人に知られたら十人が知っていると思って間違いない。
 まるでゴキブリを一匹見つけたら、十匹は居るって言葉が思いだされる。

 リンレィは魔力が57なので、いきなり治癒魔法を教えるのはちょっと大変そうなので、最初は水魔法を教える事にした。
 水魔法で魔力操作を覚えれば、治癒魔法を教えるのが楽だと思う。
 取り敢えずハティーに教わった、魔力操作の練習は怠るなと言っておく。
 ハティーには暇な時に市場にでも行き、治癒魔法に必要なので鑑定の練習を頑張れと励ましておく。

 まぁ、俺が魔力操作の基礎から教えたら、ラノベの知識を使うので予想外の事が起きると不味いので、ハティーに任せたのだ。
 ホウルの時は気にもせずに教えたが、土魔法だし表だって使っていないので助かっている。

 リンレィを預かって以後、舞い込んできた治癒魔法の指南依頼書を眺めて考える。
 此の世界では治癒魔法使いが少ない、と言うか能力の高い者が少ない。
 たとえ治癒魔法を授かっても、飼い殺しを嫌って練習すらしない者もいると聞く。
 リンディの様に、どうしても使えなかった者もいる。

 その為に少ない治癒魔法使いを貴族や豪商達、果ては教会までもが抱え込んでしまう。
 質が悪いのは教会で、少ない治癒魔法使いを囲い込むだけで無く。金儲けと信者獲得に利用している。
 悪循環もいいところで、この悪循環を少しでも断ち切る事が出来れば少しは変わるかもしれない。

 * * * * * * * *

 ハティーはホリエントの娘フィーネと共に、リンレィを連れて街の案内がてら市場に来ていた。
 元公爵領出身とはいえリンレィの育った所は領都ではなかったので、王都の賑わいは珍しく彼此と目移りするのは仕方がなかった。
 だがそれに目を付けた男達がいたが、ハティーも王都の市場なので油断していた。

 「おーっと。お嬢ちゃん王都が珍しいのは判るがよ、前を向いて歩けよ」

 リンレィの腕を掴んで注意してくる男は明らかに酔っているし、仲間の男達も酒が入っているのは明らかだ。

 「済みませんねぇ。娘は田舎から出てきたばかりでして、騎士様達にご無礼を致し申し訳ありません」

 「おう、中々素直で宜しい。その素直さで俺達に付き合え」

 「生憎私共は男爵様の使用人ですので、その様なお誘いはお受け出来ません」

 「冒険者の身形をしていて男爵の使用人とな。俺達の誘いを断る方便なら許されんぞ」

 じんわりと包囲しながら、ねちっこい視線をリンレィとフィーネに向けている。
 買い物客や店の主達は、近寄ると絡まれるのを恐れて遠巻きに見ている。
 生憎冒険者の格好なので貴族の紋章が無い。
 フィーネはケープを羽織っていて紋章が隠れているし、リンレィはお仕着せの服が未だ出来ておらず田舎から出てきたままの格好だ。
 女だけの一般人とみて完全に舐めきり、酒の上で嬲るつもりの様だ。

 「何れの伯爵家の騎士様方か存じませんが、真っ昼間からお酒を召して女に絡むとは随分無粋な方々ですね」

 「ふん、冒険者の身形をしているだけあって腹は据わっている様だな」
 「婆に様はない! 二人だけ来い!」

 リンレィに男の手が伸びた時、その手を払った者がいた。

 「何をするのかな? 彼女達は俺達の仲間だし、男爵家の者でもあるのだけど」

 「男爵家だぁ~、笑わせるな。小僧共が群れて意気がるな!」

 そう言った瞬間、拳がルッカスに襲い掛かったが軽く躱されて蹈鞴を踏む男。
 その横腹にホウルの蹴りが食い込み〈ウゲッ〉と呻いて蹲る。

 「その方等、我等テンペス騎士団を相手にする覚悟は出来ているんだろうな」

 「テンペス騎士団って事は紋章から、テンペス伯爵の配下って事だよな」

 「男爵の配下を騙った痴れ者め、その報いを受けさせて遣る!」

 抜き討って来た剣をグロスタが木剣で弾きあげると、隣の男がその隙を突いてくる。

 「わっと、ととと。踏み込みが甘いよ」そう言いながら伸びきった腕を叩き折る。

 「あんた達! 止めに来たんじゃないの?」

 「此のオッサン達が、勝手に斬り込んで来ているんだよ」
 「酔っ払いは嫌だねぇ~」
 「よっと、訓練不足だぞ」
 「わっ、わわわ、あぶなっ、止めっ」

 ルッカスが避けながら反撃しているが、焦って言葉になっていない。
 七人の内六人を叩きのめしたところで一人が逃げ出した。

 「お前等何をやってんの」

 「ハリスン! この子達を確り見張っていなさい!」

 「いやいや、飯の途中で助けに来たんだよ。全員が来ると食い逃げになるので代金を払っていたんだ」

 「で、どうするのよ、此れ」

 「伯爵家か・・・俺達の手には負えないね」
 「厄介事は他人に任せるのが楽、て言っている人がいるじゃない」
 「ハティーさんは良いことを言うねぇ~。適任者がいるよな♪」
 「そうそう、ユーゴの口癖だけど、たまにはユーゴに後片付けをお願いしよう」
 「呆れた。流石はユーゴに鍛えられただけの事はあるわね。ルッカス、警備兵が来る前にユーゴを呼んでらっしゃい」

 「お前達、よくも遣ってくれたな。男爵如きの配下なんぞひねり潰して遣るからな」

 「叩きのめされて、地べたに転がっている奴の台詞かねぇ」
 「抜き打ちで斬りかかってきて返り討ちになる。それも真っ昼間から酒に酔い、女に絡んで叩きのめされたって。ご主人様が聞けば、さぞやお怒りになられることでしょうね。テンペス伯爵様だっけ」

 ハティーが倒れた六人を揶揄っていると、其処此処から呼び子の音が聞こえてきた。

 * * * * * * * *

 「ユーゴ、居る!」

 「どうしたんだルッカス?」

 「市場で騒ぎにやってハティーが・・・違った。ハティー達が絡まれて叩きのめしたら」

 「落ち着けよ。ハティー達は無事なんだな」

 コクコク頷くルッカスに、ユーゴは居間に居るはずだとのんびり教えるホリエント。
 それを聞いて居間に飛び込んで行くルッカス。

 「ユーゴ! 大変でハティーが叩きのめしたら伯爵で」

 「ん~・・・ハティーが叩きのめしたのが伯爵か?」

 「ちが~うぅぅ。市場、に・・・来て!」

 ユーゴの手を引っ張って連れて行こうとするルッカスを、面白そうに眺めるホリエント。
 取り敢えず市場に行けば何か判ると思い、ルッカスに急かされて出掛ける。

 「ん、留守番は良いのか」

 「こっちの方が面白そうだし、客なんて待たせておけば良いだろう」

 「そう言えば騎士団長を首になっても、面白そうだからと闘いを見物に来る様な性格だったな」

 「そんな事は無いぞ。ちゃんと主人のことを思って進言していたのに、聞き入れないから逃げだす嵌めになったんだ。結局死んでしまったな」

 ルッカスに急かされながら市場に着くと、警備隊に包囲されたハティーやハリスン達が居た。
 その傍らに伯爵家の紋章を付けた騎士が数名いて、口々に何事かを警備兵に訴えている。
 警備兵の肩を叩き、身分証を示して何事かと尋ねる。

 「あの者達は男爵殿の配下ですか」

 「そうだが何があったのか教えてくれ」

 「それがどうも、女性に絡んだ所を咎められて剣を抜いた様なんです」

 隣でルッカスがウンウンと頷いている。

 「それで乱闘になった様なんですが、相手はテンペス騎士団の者達でして」

 「ほう、テンペス騎士団か」

 「知ってるの?」

 「貴族対抗の模擬戦闘では勇猛果敢と評判だぞ、別名馬鹿の突撃と言われているがな」

 「強いの」

 「まあ、それなりに、だな」

 「それなりか。で、ルッカス誰も怪我は無いんだな」

 にっこり笑って頷くルッカス。

 「あの~う。テンペス騎士団の方達が、男爵風情の配下に舐められてはと怒り狂っておりまして」

 「あっ、それなら俺がテンペス伯爵と直接話をつけるから任せて」

 ハティーから詳しい話を聞き、怒りが収まらない騎士達の所へ行きちょいと揶揄ってやる。
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