ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学

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40 かわら版制作準備

 ブラウンから量産の目処が立ったと連絡を受けた俺は、総合政務庁舎の自室に跳び、ブラウンの執務室に向かう。
 扉を開けると、通路を挟んだ向かいがブラウンの執務室になっている。
 ブラウンの執務室は南向き、俺の執務室は北向きで鏡合わせの造りになっている。
 執務控室,執務室,居間,トイレと浴室を挟んで寝室とクローゼットだ。
 だが普段俺の部屋には誰もいない。
 出入口はブラウンの執務室を守る衛兵が目の前に立っているので、保安上の心配は無かった。
 一日一度、掃除のメイド達が入るだけである。
 
 突然開いた俺の執務控室の扉を、緊張の面持ちで見つめる衛兵に軽く手を挙げ、ブラウンの執務室を開けて貰う。
 俺の入室に慌てて立ち上がる待機の者や取次にそのままと制し、ブラウンの執務室に入る。
 
 「ブラウン、紙の量産が出来たんだって」
 
 「お待ちしておりました、ユーヤ様」
 
 秘書に命じて持って来させた紙は、俺の目には最低な紙質であったがこの世界初の量産品の紙である。
 数枚の紙を並べ水を持って来させて濡らし、湿らせ、引っ張り、破ると様々なテストをする。
 興味深気に見つめるブラウン、完全に水に浸かった物は軽く摘むと崩れたが湿った物は何とか持ち上げられる。
 
 「まぁ何とか及第点をあげられるな。技術開発者と責任者に金貨10枚を、他の施設協力者に金貨2枚を報奨金として渡してやれ。尚一層の品質向上に期待すると伝えてな」
 
 「これを、どの様にお使いなされますので?」
 
 「今街に掲示板を設置し、読み人を付けて領民に告知や様々な事を知らせているな」
 
 「あれは大変便利で、字が読める者は彼処へ行けば街の事や他国の事も判ると評判が宜しいです。無学な者も読み人がいますので、掲示板の所に行けば大抵の事は判ると喜んでいます」
 
 「あぁ告知から店の開店情報に尋ね人まで、様々な情報伝達に利用しているからな。掲示板の情報を大量の紙に記して、配ったり街角や人の集まる所に張り出せばどうなると思う」
 
 真剣な顔で考え始めたブラウン
 
 「成るほど掲示板迄出向かずに知る事が出来、尚且つ保存も出来る。持ち歩いて他の街や他国に迄、我が国の事を宣伝出来ますね」
 
 「正解だが、惜しいね」
 
 「他にも有用な用途が有りますか」
 
 「品質が良くなれば現在使われている公文書を、上質紙から置き換える事が出来る。逸れは記録を簡単にし多くの事を記録し保存出来る。上質紙10枚と量産紙10枚を考えて見ろよ、これが100枚1000枚となれば些末なことも全て記録として残せる。庁舎内や各所の施設迄、紙きれ一枚で通達や命令を確実に伝える事も可能だ。聞いてませんとか聞き間違えました、なんて言い訳は通用しないしさせない。命令や通達には余白を付け責任者や関係者に署名させるとどうなる」
 
 ニヤリと笑いながら、ブラウンが頷く。
 
 「なるほど上からも下からの情報伝達も簡単迅速正確に出来ますね。しかも責任逃れは難しくなる。文書の解釈間違いをする様な者は不適任で排除出来ます」
 
 「それと二次効果として紙の製造に関わる膨大な雇用が生まれるし、同一文書には印刷技術が必要になる」
 
 「ユーヤ様、その・・・いんさつぎとは」
 
 「悪い、同一文書を大量に必要とするとき現在は模写している。これを板に文書を書き大量に同じ文書を造る方法だ」
 
 「その様な方法が有るのですか」
 
 「板に文書を書いて掲示板で読ませているよな、これを紙に書いた物を板に貼付けて文字以外を彫り捨てる。残った文字にインクを付けて紙を置きインクを紙に写すとどうなる」
 
 「文字が反転して読むに堪えません」
 
 「そこでもう一度同じ事をすれば元の文書として読めるよな」
 
 頷くブラウンに、かわら版の知識の一端を披露する。
 彫り上げた文字にインクを乗せ紙を置いてうえから摺ると紙に元の文字が写る。
 ブラウンは唸りながら考え込んでしまったが、暫くして顔を上げた時には感嘆の表情をしていた。
 
 「成るほど先の言葉以外にも、いんさつぎとやらをする者や板を彫る者運ぶ者に売る者と、無限に仕事が増えてきますね」
 
 「末端の者は僅かな稼ぎだが仕事にありつけるし、身体が不自由でも歳を経ても仕事は有る。逸れにな、広く普及すれば街の噂や作り話を書いてもよい。他愛もないことを面白可笑しく吹聴している、街のオッサン叔母さんの話も読物として流行るぞ。娯楽は芝居や街角だけでは無いからな」
 
 ウンウン頷くブラウンが顔を曇らせる。
 
 「紙の製造は何とかなりますが」
 
 「暫く向かいの部屋に居るので、紙の品質向上と製造に力を注いでくれ。印刷関連は俺が指揮を取るから、誰か知恵と機転の効く者を一人回してくれ。最終的に印刷関連をそいつに丸投げするからな」
 
 笑いながらブラウンが頷く。
 
 「それと紙の製造に関してだが、大きさを5段階程度に決めてくれ。例えば壁に張り出す大きさの紙や正式文書にする紙の大きさとか、伝達用の紙や通信文専用の紙等にな種類は任せる。大きさが決まっていれば何かと便利だから。種類も公文書用の丈夫で長持ちする物からこの紙より少しマシな物まで規格を決めてくれ」

 * * * * * * * *

 量産化に取り組んでいた男は、いきなりブラウンに呼び出された。

 「そのー、私がユーヤ様の専属ですか。確かに引き継ぎをしなくても出来る様には鍛えていますので、仕事には影響ありません」
 
 「ではユーヤ様の所に行け、必要な人員は連絡をくれたら幾らでも用意するぞ」
 
 ブラウンがニヤニヤと笑いながら請け負う。
 ユーヤ様には散々驚かされているのだ、たまには驚かせる側に廻っても文句は有るまい。

 * * * * * * * *

 俺が自分の執務室に戻ると、執務控室の内側には護衛が二人扉の陰に控えていた。他にも控室と執務室に、担当のメイドが二名ずついてお茶の用意をしていた。
 護衛は控室と執務室に居間と寝室の間に有る、メイド達専用の出入口兼控室に二名ずついる。
 ブラウンの執務室は外側と内側にも居るが、俺が嫌がるので滞在時のみ外から見えない様に待機させているが、簡易な革鎧だ。
 
 居間でお茶を飲んでいると、専属メイド長のエバンが「ブラウン様から差し向けられた者が参っております」と知らさせてきた。
 
 執務室に行くと狐人族の男が立っていた。
 
 「オーエンと申します。ブラウン様の命により参上致しました」
 
 「ユーヤだ、以後丁寧な口調は必要ないし、用が無ければ座って茶でも飲んでいろ。暫く俺の指示に従って色々と遣って貰うので宜しくな。机は此処を使ってくれ」
 
 俺の執務机を指差す。
 硬直するオーエンに「お前が俺の指示に従って指揮を取るんだ。脇机では狭すぎるだろ。脇机は俺の場所にする」と、伝えてさっさと脇机に座る。
 
 「どうしたオーエン、座れよ。アイラお茶を出して遣ってくれ」
 
 オーエンに、かわら版制作と頒布に必要な木版技術者の育成と、木材知識豊富で木版の供給体制の確立できる者。
 印刷の為のインクの開発と印刷技術者の育成。
 かわら版を各地に配布する組織の編成と配布者の養成
 印刷された文書全ての分類と、保管組織の立ち上げと運営を遣れと命令する。
 必要な人材は、ブラウンに言えば手配するので遠慮するなと伝えると、何とも言えない顔をされた。
 
 「どうした、出来ないか」
 
 「いえ、はい、知らない言葉の羅列ですし思いもしなかった仕事ですので、お聞きしたい事が山ほど有ります」
 
 「解っている。だから俺が脇机に座っているんだ。逸れにな、半年もすればこの部屋では狭すぎて使い物にならなくなるからな」
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