黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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016 鑑定結果

 応接室に通されて待っていると、ネイセン伯爵様が家族を連れてくる。
 紹介されたのは第二夫人のフレーゼ様,嫡男のヘンリー様,長女のエレーナ様,三男のドレスト様。
 それにヘンリー様の妻メリーサ様,長女のミシェル,長男のマルゴの7人。

 王都に第一夫人のセレーヌ様,次男のドランド様,次女のサーラ様,四男のグズネス様がいらっしゃるそうだが、聞いていて胸焼けがしそう。

 丁寧な挨拶を受けるが、好奇心,無関心,侮蔑とそれぞれの感情が見て取れて面白い。
 俺からはネイセン伯爵様に、様付けでの呼びかけと嬢呼ばわりを止めてくれる様にお願いする。
 使用人の方々が俺を呼び捨てにするのは難しいので、それは諦める事にした。

 ・・・・・・

 執務室に持ち込まれたワゴンに各種ポーションを10本ずつ並べて行く。
 熱冷まし、頭痛薬、腹痛、下痢止め、咳止め、痛み止め、眼病治療、酔い止め等。
 怪我の回復ポーションの初級10本と中級5本に上級1本。
 魔力回復ポーションの初級10本と中級5本に上級1本。
 体力回復ポーションを10本並べ、病気全般の回復に役立つ治癒魔法をガンガンに込めたポーションを、おまけで1本置く。

 「鑑定をお願いします」

 伯爵様に促され、鑑定使いが全てのポーションを一本ずつ鑑定していく。
 伯爵様と嫡男のヘンリー様に執事のホーガンが興味津々で見つめるが、俺はのんびりお茶を楽しむ。

 エブリネ婆さんからお墨付きを貰っていたが、ヘレサさんに半分でも十分な効果を得られるので品質を落とせと言われている。
 この鑑定使いがどの様な判断を下すのか、その方に興味が有る。

 薬用ポーションの鑑定を済ませ、鑑定使いが溜め息を吐く。

 「どれも一級品ですが、半分か3倍程度に薄めて服用すべきでしょう」

 「それ程素晴らしいのか」

 「薬用ポーションの鑑定は十数度しか経験していませんが、高品質最上級品、効果大と出ます。怪我や魔力回復ポーションの鑑定が、楽しみです」

 張り切っちゃってるねー。
 魔力水を濃縮し、薬効エキス抽出後に治癒魔法の魔力を少し込める様にしたので、効果が上がりすぎた様だ。

 「怪我の回復ポーションは前回同様の品質で中の上か上級ポーションと言って良いでしょう。中級ポーションとして出された5本は、上級ポーションの最上級品に間違い御座いません。この1本はなんと申しましょうか・・・最上級品の上を行く品質ですが、私の鑑定能力では鑑定しきれません」

 伯爵様とヘンリー様が顔を見合わせているが、何も言わない。

 「魔力回復ポーションですが、10本の物は魔力を30程度回復させる物です。5本の物は魔力を60程度回復出来ます、最期の1本は、少量ずつ飲まないと魔力過多になる恐れのある、魔力を80程度含んでいます。体力回復ポーションですが、飲み過ぎればポーションが無駄になるだけです」

 「その1本は?」

 最期の1本について、何も言おうとしない鑑定使いに報告を求める伯爵様。
 さて、この鑑定使いの能力で理解出来たかな。

 鑑定使いが俺をチラリと見た後、意を決した様に口を開いた。

 「このポーションは病気全般に効果があります。おそらく老衰以外の病を治せると思われます。・・・ 何故ならこのポーションには、大量の治癒魔法の魔力が込められているからです」

 「失礼ですが、お名前と鑑定スキルのレベルを伺っても」

 「ハロルドと申します。鑑定スキルは上級レベルです」

 「魔力は?」

 「魔力は92です」

 「ハロルドさんは、このポーションを鑑定して、どの程度の能力が有れば貴方と同じ結論になると思いますか」

 「鑑定レベル上級で魔力は85は以上必要かと思われます。鑑定能力が上級でも、込められた魔力まで鑑定結果に出すには相応の魔力が必要ですので」

 ハロルドさんに厳重な口止めをして下がらせる伯爵様。
 伯爵様、顔が呆けてますぜ。
 キャビネットからグラスとボトルを手に取ると、ソファーにどさりと座る。
 グラスに注がれた酒は綺麗な赤、一気に煽り熱い吐息を吐く伯爵様がぽつりと呟いた。

 「参りましたね。ハロルドの言葉が事実ならば、限りなくエリクサーに近い物だと思われます。お譲り頂いても宜しいのですか?」

 人の目に触れ鑑定結果が出た以上、此処で隠しても何時かは知られてしまうだろう。3人寄れば満座の中、ましてや俺を含めて5人の人間が知ったのだ。
 何れ世間に漏れるのは間違いない。
 黙って肩を竦め、執事のホーガンさんにグラスを要求する。
 ヘンリー様と俺の前に置かれたグラスに、伯爵様が黙って酒を注ぐ。

 中々の香りと口当たりだが、最期に飲んだ少々お高めのウィスキーとさして変わらない物だ。
 さて、伯爵様はどう出るかな。

 「此れだけの品質のポーション類が出回ると、騒ぎになるのは目に見えている」

 「薬用ポーションや他のポーションも、効能を抑えてお渡しします。それらは薬師ギルドで査定をして貰ったときに、効果が高すぎるので半分か1/3程度に効果を落とす様に言われましたから」

 「では薬師ギルドは、此れ等の全てを知っているのか」

 「査定をして貰ったのは、薬用ポーションと初級の物だけです。高品位の物は見せていませんし、知っているのは査定をしたヘレサ婆さんだけです。そして彼女は、売らずに帰れと言ってくれました」

 「怪我の回復ポーションの中級と上級に、問題のポーションを王家に献上しても構わないかな。何れ君を巡って騒動が起きるだろう、貴族や豪商達のね。そうなる前に王家の後ろ盾を得ておきたい」

 「ホテルで言った約束を忘れないで下さい。例え王家が相手でも跪く気はないので、強制されれば死人の山を築く事になりますよ」

 「判った、意に染まなければ何時なりと此の地を捨てればよい。例え王命であろうとも、私は君と敵対しないと誓おう。それと王家献上分の前金として、金貨100枚を渡しておくよ」

 そう答える伯爵様の横で、ヘンリー様が微妙な顔をしている。

 執事にポーションケースを用意させているので、薬用と初級ボーションの効果を落とすので作業用の部屋の用意する様にお願いする。
 採取して加工前の魔力水は大瓶に5本ほど残っている、此れを使えば現在の物を希釈するだけで済む。

 問題は市販品のポーションが、どの程度の性能か知らない事だ。
 ヘレサ婆さんの言葉を信じ、薬用ポーションは2,5倍、2本使って5本に増やせば良い。
 10本の薬用ポーションが25本になる、本当の水増しだが魔力水だから良しとする。
 怪我の回復ポーションと魔力回復ポーションは、2倍に希釈して渡す事にする。

 と、此処までは良いがポーションの容器が無い。
 執事のホーガンさんに、ポーション容器の手配を頼んむとやる事が無くなった。

 夕食後客間に案内されたが肩が凝る食事はこりごりだ。
 次の食事からは部屋で取らせてもらえる様に執事に言っておかねば。

 ・・・・・・

 「王都に送った書簡の、返書が届いた。問題の物を持って王城に参上せよ、とな」

 「あれを王城の鑑定使いが鑑定すれば、必ずアキュラを召し出せと要求されます。父上はどうなさるおつもりですか」

 「どうもしない、アキュラとの約束を守るだけだ。陛下や宰相達は差し出せと言うだろうが、私は事実を伝えて拒否するよ。まっ、王命で拒否は出来ないだろうが、事実をアキュラに伝えて好きにさせるさ」

 「それでは逃げられてしまいます。薬師として超一流で、治癒魔法も相当な腕とみられる者を逃がしたとなれば・・・」

 「間違えるな! 逃げられるんだ。お前はヘイロンからの報告書を、読んでないのか」

 「読みました。余りにも荒唐無稽な報告書で、信頼に値しません。16才の小娘に出来る事では有りません」

 「お前・・・先程食事をした時の、アキュラの態度を見ていただろう」

 「はい、礼儀作法を知らぬ流民にしては、我々家族の前でも気楽に食事をしていましたね」

 「お前は馬鹿か、それでもネイセン家の嫡男か? ホーガン、お前は?」

 「先ず高貴な方々との同席に恐れが見られません。カトラリーの扱いも、馴れてはいないものの静かなお食事でした・・・」

 「どうした?」

 「我々がアキュラ様を観察している様に、アキュラ様、もネイセン様のご一家を観察していました。報告書を読ませて頂きましたが、賊の人数と証言者の数の多さからみて、私どもの知らぬ方法で自由に出て行けると思われます」

 「結界魔法については?」

 「結界魔法の二重三重展開は初耳で御座います。それを無詠唱で瞬時に展開し、闘いに利用しているとは信じ難い事です。ましてや結界魔法で多数の賊を拘束するなど」

 「それに、1人で西の森を一月以上彷徨い、無傷でこの街に到着している。明日、王都に行ってくる」

 「承知致しました。迎えの馬車を用意させておきます」

 伯爵はヘンリーに対しアキュラとの接触を控え、全ての対応をホーガンに任せろと言って王都に旅立った。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 ネイセン伯爵は転移魔法陣を出ると、迎えの馬車に乗りそのまま王城に向かう。

 小者の案内で賜っている控えの間に落ち着くと、マルコ・レムリバード宰相に王城到着を報告した。
 直ぐに迎えの者が現れ、ネイセン伯爵を王城の奥深くへと案内する。

 伯爵風情ではレムリバード宰相の執務室にも滅多に行く事がないが、城内の奥深くに来たのは初めてだ。
 見事な彫刻の施された扉の前に来ると、左右に控える騎士にネイセン伯爵様をお連れしましたと報告している。
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