黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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023 手打ち

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 「五人の内一人は謝罪の意思無し。残りの方々はボリス様から聞かれたと思いますが、私の出した条件を呑むのですね」

 四人が神妙な顔で頷くが、甘く見すぎ。
 (鑑定!)〔ノルト・ガーラント・侯爵・♂・54才・犬人族(ビックル種)・魔力48・・・・

 違う! 知りたい事だけだ! (鑑定!)〔ノルト・ガーラント・引退の意思無し・・・〕
 ふん! そんな事だろうと思った。
 取り敢えず条件を受け入れて謝罪する。
 然る後、後継者選定に手間取っているとか何とか、然もなくば素知らぬふりをして誤魔化す。
 手口がみえみえなんだよ。

 マライド・ルークス伯爵、(鑑定!)〔マライド・ルークス・引退の意思無し・・・〕

 カルス・レムイド伯爵、(鑑定!)〔カルス・レイムド・引退を覚悟〕

 コムロン・クリフォード伯爵、(鑑定!)〔コムロン・クリフォード・六男を後継者に指名し後見人になる予定〕

 へえー、鑑定でここまで判るのか、もっと積極的に鑑定を利用しなくっちゃ。
 常識とか礼儀はドブに捨てようっと。

 ボリス・ザブランド、(鑑定!)〔ボリス・ザブランド・父親を監禁・・・〕
 此奴が一番冷酷で計算高い・・・か、貴族として生き延びる本能が優れているのかな。

 誠実そうに振る舞っているが、本性が読めないな。
 冷酷非情でも善意の人でも構わない、敵対しなければ良し。
 馬鹿な善人より良識ある冷酷非情の方がマシだからな。

 アラム・フルンド伯爵、此奴は死刑確定、次いでノルト・ガーラント侯爵、マライド・ルークス伯爵、コムロン・クリフォード伯爵の三人を順次バリアで包み込む。

 〈エッ〉〈何だ此れは〉〈わわわ、私は背きません〉

 「アキュラ殿・・・此れは何と?」

 「ボリス残念だが、此奴等三人に隠居の意志はない! 俺は鑑定スキルを持っているんだ、こう言えば判るだろう」

 〈糞ッ、出せ!〉
 〈隠居する、隠居するから出してくれぇ〉
 〈お許し下さい、約束は必ず守ります、お願いします〉

 三人の懇願を無視し、アラム・フルンドのバリアを小さくしていく。
 透明なバリアは球体と判らないが、小さく締め上げると人間の身体が小さく丸くなっていく。
 剣を持ったままフルンド伯爵が小さくなり、剣も曲がり身体の一部として丸くなると同時に骨の折れる音が室内に響く。
 押しつぶされ悲鳴が僅かに上がったが、直ぐに血を吐いて静かになる。

 〈止めてくれ! 貴族を止める! お願いだ殺さないで・・・〉
 煩いのでさっさと絞め殺す。
 呆然と死に行く者を見つめる者、〈ゲーゲー〉と吐き続けて失禁する者。
 球体の中がゲロと失禁で汚くなるが、どうせ直ぐに死ぬんだからいいや。
 残り二人もさっさと絞め殺して放置する。

 〈惨い・・・〉

 「なに言ってるの、貴族が平民や冒険者を甚振った事は無いの。此奴等は俺からポーションを奪い取るか、飼い殺しにして終生ポーションを作らせる気だったんだろう。一瞬で死ねるだけ有り難いと思って貰わなくっちゃね。レムイド伯爵、約束は守れよ。気が変わった時が死刑執行書にサインをした時だぞ」

 「わっ・・・わかって、おります。二度と貴方様に迷惑をお掛けしません。身を引きます」

 腰が抜けたのか、座り込んだままレイムド伯爵が上ずった声で返事をする。

 「ボリス様、アキュラ様にお客様です」

 執事が室内の惨状から目を逸らして、来客を告げる。

 「俺に客?」

 「エルド・ネイセン伯爵様が、アキュラ様にご相談が有ると言ってお越しです」

 ・・・・・・

 「ネイセン伯爵殿、お願い出来ますかな」

 「レムリバード宰相殿、一つ確認しておきたい。王家はどうします?」

 「どうしますとは?」

 「現在アキュラから攻撃を受けている者達は、王家と大して変わらない考えの方々ですよ。彼女からすれば王家も敵、この騒動の元凶は王家です」

 「あの娘が、数万の王国軍が詰めるこの城に攻め込んでくると言われるのですか」

 そんな馬鹿な話は有り得ないと、表情が物語っている。

 「数百人の騎士や警備兵を要する公爵邸に、侵入し蹂躙していますよ。公爵家2家と侯爵1家が手も足も出ず、侯爵家に至っては当主が逃げ出した様ですな」

 チラリとフルカン侯爵に視線を走らせながら、レムリバード宰相に告げる。
 レムリバード宰相は考え込んでしまった。
 あの娘は攻撃魔法を授かっていないはずだ、結界魔法と治癒魔法が使えるらしいだけだ。
 他の魔法を使ったとの報告は来ていないし、スキルに至っては探索スキルに鑑定スキルが使えるらしいとの事。

 あの娘が王城に現れても阻止出来る、阻止出来るだろうが・・・一冒険者の小娘と王国の争い。
 数万の軍で攻撃しても、一個人を取り囲んで攻撃出来るのは精々5,6人、距離を取り魔法の一斉攻撃を仕掛けても50人も攻撃に参加できない。

 あの娘の結界を打ち破れなければ、王家は恥を晒す事になる。
 配下の貴族や領民は笑い、王家を見下すだろう。
 それは他国に侮られる事を意味し、最悪他国に蹂躙されてエメンタイル王国は消滅する。

 考えれば考えるほど悪い未来しか見えてこない。
 額に汗を滲ませてネイセン伯爵を見れば、微かに首を振り肩を竦めている。

 そうだった、この男は国王陛下に忠誠を誓い背くつもりは無い、と言ったが同時にアキュラと敵対する事をしないとも言った。
 この男の言葉を聞き流し、軽く考えた事が現在の窮地を招いた。
 それにあの娘を王家が取り込むつもりだったのは間違いない、間違いないどころか一番最初に行動しようとしたが、情報が漏れていて貴族達が先走った。

 各個撃破が終われば、残るのは王家だけとなる。

 「ネイセン伯爵殿。王家と言うか王国は彼女から手を引きます。どうか執り成して頂きたい」

 「陛下の確約を貰えますか、口だけの約束などあの娘には通用しません」

 レムリバード宰相は慌てて、王城奥深くへと小走りに急ぐ。

 ・・・・・・

 ネイセン伯爵はザブランド侯爵の執務室に案内されたが、侯爵本人が居ない。
 不思議に思いながらもアキュラと向かい合う。

 「アキュラ殿、国王陛下からの申し出です。『王家と臣下の者達の無作法をお詫びする。貴方への理不尽な要求は全て取り下げるのでお許し願いたい』との事です。今回の出来事に際し、非は王家と貴族達に有り如何なる責任も問わないとの事です。王城に逃げ込んだ者や、王家に取りなしを願って多くの貴族が殺到しております」

 「謝罪したいと言うのなら別に構いませんが、此処に居る二人と死んだ四人とは、当主は隠居する事で話がついてます。と言うか死んだ四人は約束を違える気だったので死んで貰いましたけど」

 転がる球体にチラリと視線を走らせて頷く伯爵様。

 「陛下の退位は無理だが、その様にお伝えするので収めて貰えないだろうか」

 「では、正式に処分が決まったら王都に触れを出して下さい。其れ迄の間は攻撃を中止しましょう。10日待ちます、期日が過ぎれば続きを始めます」

 伯爵様に返答し、執事に帰るからと玄関まで送らせる。

 「アキュラ殿、何処へ?」

 「適当なホテルに泊まってます」

 「それなら私の屋敷をご利用下さい」

 勘弁して欲しいよ。
 客間に泊めてくれるのは有り難いが、部屋付きのメイドからお嬢様扱い、用意された部屋着や寝間着はフリフリのドレスにスケスケの薄物。
 湯浴みは二人がかりで身体を洗われて、恥ずかしいったらないが、下手に抵抗すれば怪我をさせてしまうし拒否すれば泣かれる。

 客に拒否される様ではメイド失格で、解雇されると泣きつかれてはどうしようもない。
 斯くして素っぽんぽんにひん剥かれたり、着せ替え人形にされたりと羞恥プレイの主人公にされる。

 思い出しただけでも顔が赤くなる。

 申し出を断固拒否し、市場の近くのホテルに泊まる事を告げてザブランド侯爵邸を後にした。
 子供の冒険者一人では良いホテルに宿泊する事が出来ず、一泊銅貨3枚で食事別、酔っぱらいの声や鼾の響く部屋になった。

 まっ室内いっぱいに結界を張り巡らせ、音声を遮断して眠りに就くからどうでも良いけど。
 食事は全て外食、市場の屋台や上手そうな店を見付けて飛び込む。
 気に入れば数人前を購入してマジックバッグへポイ。

 マジックバッグの時間遅延工作・・・魔力を込める作業も、500日を過ぎたあたりから俺の能力が上がったからか、一回の魔力注入で約3時間の延長になっている。
 朝夕二回魔力を込めて3時間程度の時間遅延が2回付与されている。
 現在マジックバッグの能力は6/451、6メートルの立方体216㎥の容量に451倍の時間遅延能力だ。
 容量の拡大は後数メートルだろうが、時間遅延が何処まで伸びるのか楽しみである。

 マジックポーチの方は現在3/127、容量はこれ以上増えないので時間遅延の魔力を時々注入している程度。
 マジックバッグを入れる為に貰った様なものだし、高性能なマジックバッグを鑑定されない為だから、マジックポーチを高性能にしても意味は無い。

 宿泊客やホテルの周囲に監視の者が10名ちかくいるが、敵意が無いので放置している。
 多分王家の回し者だろうと思うが、向こうも俺の居場所が解らなくなるのは不味いだろうから、止めろとも言えない。

 8日目にネイセン伯爵様が王家の高官と思われる男を伴って来た。
 マルコ・レムリバード宰相と紹介され、その宰相殿から王家として要求を全面的に受け入れ、問題の貴族達を全て隠居させたと言われた。

 又公爵家2家は当主死亡だが侯爵に降格処分、王城に逃げ込んだデオル・フルカン侯爵は、貴族としての矜持を持たぬ者として爵位を剥奪したと言った。

 そんな事はどうでも良いが、王家は知らぬ顔をする気かと問いかけてみた。
 困惑するレムリバード宰相を助ける様に、ネイセン伯爵が口を開く。
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