“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由

文字の大きさ
295 / 504

指揮官『お嬢』

しおりを挟む
 夜の静かな森の中にも足音が響けば騒音となる。すぐに戻って現状を確認しようとすれば、大量の人影が見えてくる。

 それは、騒音に戸惑って外に出てきている女子供たち。部族の男たちは既に状況がわかっているのか、戸惑う人々を一箇所に集めている。

 族長が暮らす家は百人入ってもぎり問題ないくらいには広い。

 そして、囲いの中に足を踏み入れれば近づいてくる足音が聞こえた。

「敵襲ですよ、ベアトリス殿」

 駆け寄ってきた長老は私にそう告げると、私に向かって剣を投げた。

「いらないかもしれないですが、渡しておきますね。人質なんですから、コキ使ってもいいでしょう?」

「ええ、そうね」

 もちろん龍族のためにも戦うつもりではあるので、その剣を受け取っておく。

「敵の数は?」

「鬼族が数百、我々の数倍です」

「かなりいるのね」

 こりゃ止めるのが大変そうだ。どうにかグラートたちの作戦が成功するまでは死者を一人も出させないように止めるしかない。

「囲まれていないのが幸いしましたね、退路がある分全滅することはないでしょうな」

「鬼族はもうすぐそこまで?」

「ええ、こちらです」

 案内される先は囲いの近くに建てられている物見やぐら。そこに登って外を見れば、赤い目をギラギラと光らせた凶暴そうな人影がうじゃうじゃと湧いていた。

 夜だと言うのに、とても明るい。

「やる気満々ね」

「死ぬ覚悟はしてなさそうですが」

「もしかして殺すつもり?」

 長老の返事を待つ前に私は言葉を返す。

「殺しちゃダメ、一人の死者も出さないで。ただし、どれだけ痛め付けても構わないから」

「……?それは、拷問にかけろと?」

 ダメだこいつ……。

「もう、それでいいからこの戦いが終わるまで一人も死なせでね」

「伝えておきましょう」

 そう言って長老が物見やぐらを降りた時、

「「「うおおおおおおおおお!」」」

 大声と共に、囲いの柵が重々しい何かで叩かれ、一気に破壊された。

 数百人の鬼族が一斉に流れて中へと入ってくる。戦場が部族内になるのは分かっていたが、被害を出さないためにも指揮官を止めなければ……。

 龍族側の指揮官はもちろん長老。長老には殺すなと言ってあるので、後はターニャの代わりに指揮をとっている人物を拘束すればこの戦いも終わるはずだ。

 まずはそいつを探すためにも見物と行こうか。

「隙あり!」

 そんな声が後ろから聞こえてくるが、

「声出しちゃダメでしょ……」

 呆れながらも、その鬼族を地面へと叩き落とす。下敷きになった鬼族の人は巻き添えだが、そのまま眠っててもらうとありがたい。

 鬼族を一度は制圧しかけた龍族なだけあって、人数的不利を背負っていててもそこそこ耐えている。

 二人を相手取っている人もいるくらいだから、龍族が相当優れた部族なのは明らかだ。

 しかし、原始的な生活をしている龍族には足りないものがある。

 それは指揮系統の練度などではない。

 武具である。

 ボロッボロの鉄の剣、使い古された皮の鎧。あってもなくても変わらなさそうなやわな兜などなど……。

 お世辞にも素晴らしい一品とは言えないね。ゴミに出してもいいくらいのものだ。

 私が渡された剣はそこそこ綺麗で刃こぼれもそんなにない剣だったが、それですら王国にある普通の剣の方が切れ味は良さそうだ。

 対して鬼族は獣王国の支援もあり、とても頑丈そうな鎧に下ろしたての剣を構えていた。

 やはり個人の実力も重要だが、武具の優秀さも勝敗を左右する。

 龍族には槍使いが多い。リーチで勝っているからこそ耐えているだけなのであった。

「あれかな?」

 高みの見物と洒落込んでいた私は、壊された柵のすぐ近くで仁王立ちしている男を発見した。

 その男は他の鬼族と比べてツノが長く、筋肉質だった。

 いかにも指揮官といったタイプに見える。

「お命頂戴!」

 は、しないけど。

 物見やぐらから飛び降りて、その男の目の前に着地する。

「誰だ!?」

「あ、初めまして~ちょっと気絶しててもらっていいですか?」

「生意気な!」

 剣を抜くと、向こうも剣を抜く。

「いざ、尋常に!」

 とかなんとかいっているけど、私にはそんなの関係ない。とりあえず気絶してくれればいいのだ。

「ほいっ」

「のわ!?」

 剣を投げつけると、その男は体勢を崩して横にずれる。それに合わせて私の魔法が火を吹いた。

 剣に纏わせた睡眠魔法。

 その香りをかいだ男は突然襲ってきた眠気に抗うこともできずにその場に倒れた。

「隊長!?」

 案の定リーダー的立ち位置ではあったようだが、それでも鬼族の勢いは止まらない。

「俺たちにはお嬢がいる!臆するな!」

 おいおいマジかよ……。

 こいつらただのバカだ。目の前で結構な実力差を見せつけたつもりだったが、その凄さをどうやら分かっていないようだ。

 いや、もしかしたら私よりも強い存在が仲間に!?

 悪魔の少女のことを思い出すと身震いが止まらないが、族長は言っていたのだ。

 本気の一撃なら私だって、あの少女に族長と同じくらいの傷を与えることができる。だったら、私はあの悪魔を殺せるくらいに強くなればいいだけだ。

「っていっても……」

 今戦ったら絶対負けるけどね。

 強敵がいるとは思えないし、とりあえずここは引き上げてどうにか流れを止めなければ……。

 と、物見やぐらへと戻ろうとした瞬間、

「ベアトリス!」

「……ターニャ?」

 後ろから声をかけられる。このうるさい怒号が響き合う中でも、その少女の声はすごく透き通って聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~

白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。 タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。 小説家になろうでも公開しています。 https://ncode.syosetu.com/n5715cb/ カクヨムでも公開してします。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500 ●現状あれこれ ・2021/02/21 完結 ・2020/12/16 累計1000000ポイント達成 ・2020/12/15 300話達成 ・2020/10/05 お気に入り700達成 ・2020/09/02 累計ポイント900000達成 ・2020/04/26 累計ポイント800000達成 ・2019/11/16 累計ポイント700000達成 ・2019/10/12 200話達成 ・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成 ・2019/06/08 累計ポイント600000達成 ・2019/04/20 累計ポイント550000達成 ・2019/02/14 累計ポイント500000達成 ・2019/02/04 ブックマーク500達成

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

処理中です...