“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由

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仲良し

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 久々の再会としては中々悪い雰囲気ではあるが、ターニャの顔を見た私は少し感動してしまった。

 土汚れが少し顔についていて、服装は豪華なものから質素なものへと変わっている。それは一見すると、貧しい生活を強いられているようにも感じられるが、それが全て鬼族という同族のためだというのだから感動ものだ。

 対して私はこの二年間で何をしていた?

 二年間のうち、ほとんどを寝て過ごしていた。

 詳しく言えば仮死状態が続いていただけなのだが、その大事な二年間を無駄に過ごしてしまったのだ。

 言い方を変えよう、短い人生のうちの二年間を私は失ったのだ。

 ターニャは武器を持っていない。それは、武器を必要としないから。

 前回戦った時は拳で飛び掛かってきたのだから、ターニャは打撃が得意なのだろう。

「ターニャ……」

「……………」

 どうにもきまずい空気が流れてしまっている。顔を下に向けて、浮かない顔をしているターニャ。

 再会が敵同士……敵ではないのだが……なのはやはり嫌だろう。私だって嫌だ。

「久しぶり、元気してた?」

「う、うん……元気でやってる……」

 元気ではなさそうだが、そんなの気にしている場合はではなさそう。

「お嬢!そんな奴倒しちゃってください!」

「そうですよ!」

 野次馬は私がターニャに倒されることを望んでいるようだった。私とターニャの関係を知らない者たちからすると私たちは赤の他人だが、こう見えても私たちは友人。

 事情を知らない鬼族の言葉がターニャをイラつかせる。

 だが、怒っても何も変わらないと分かっているターニャはそれを必死に堪えていた。

「ここはおいらに任せて、他の場所に行くのだ」

「はい!」

 野次馬たちはその命に従って、他の龍族のところへと向かっていく。

 龍族の元にはナターシャと長老がいる。

 死人が出ることはないはずだ……長老とナターシャが加減を間違えなければ。

「行ったわね、改めて……久しぶり」

「二年間一度も遊びにこなかった……」

「い、いやぁ……それには色々と事情があるんだよ」

 実家とその領地が燃えてなくなり、エルフの森へ行って吸血鬼の国へ行って最終的に王国で教師になった。

 色々とあったけど、きっとターニャの方が大変だっただろう。

「遊びにこなかったのは……いいけど、その……ごめん」

「どうしたの?」

「おいら、鬼人だから生き残りの仲間がいるって聞いて舞い上がってた。けど、そいつらの頭の中にあるのは復讐のことばかり」

 獣人族も龍族に協力したとはいえ、結果的には龍族が鬼族を滅ぼしたわけだ。

「おいら、復讐なんて考えてなかったから、あいつらの気持ちがわからなかった。だから止められなかった……」

「でも、それはターニャのせいじゃないよ」

「いいや、おいらのせいだ。おいらがまとめるべきだったのに、こうして無駄な争いが……」

 ターニャが思い詰める理由はわかるけど、こればっかりは責めることはできないでしょ。

「だから……」

 ターニャが私の元へ近づく。

「だけど、もう助けてとは言わない。自分でどうにかして見せるんだ」

「言うようになったわね」

 侯爵の言いなりで奴隷のように扱われていた時、私が手を差し伸べてあげた。

 けど、今回は必要はなさそうかな。

「でも、私も私の正しいと思うことをするつもりだから……」

「うん」

 お互いに拳を構えた。

 結局こうなった……けど、これでよかったのかも?

「はあ!」

 獣人よりも鬼人の身体能力は高い。ゆえに、その動きも早い。

 そして、ターニャは変化ができる。何が言いたいかといえば、体の一部をより鋭利にしたりもできるってこと。

 獣人特有の爪が私に向かって襲ってくる。その攻撃は本気のものだと私は直感する。

「甘いわ!」

 爪が鋭利だからといって受け止めてしまえば、なんの問題もないだろう?

 片手でその攻撃を防ぐ。服の袖が若干破けるが、それ以外に食らった攻撃はない。

「まだ!」

 予想通りの追撃。もう片方の手にも鋭い爪が生え、私のお腹を狙って攻撃が繰り出される。

 それを空いている片手で防ぐと、私は代わりに攻勢へ出ようとする。

 その時、掴んでいた爪が喪失した。

「!?」

 掴んでいた爪はあくまで幻想。変化で形を変えていただけ、爪が元の長さへと戻ると、掴んでいた場所には何もなくなる。

 体勢を崩した私は素早く後ろに回り込んだターニャには対応できない。

「もらった!」

 肘で背中を叩かれる。そのまま地面へ倒れるが、追撃が来る様子はない。

 うつ伏せの状態から仰向けになり顔を見れば、そこには満足そうにしている。

「や、やった!!」

「ちょっと、そんなに嬉しそうにしないでよ」

「だ、だってベアに勝てたんだよ!嬉しいのだ!」

 勝てた……ねえ。

「いつ私が負けたって言ったの?」

「?」

 ターニャが私の言葉を聞いてすぐに辺りをくまなく観察し始める。

「あ……」

 木々の隙間には私がセットした魔法が光を放っている。それらは全てターニャがいる場所を中心にセットされており、地面に倒れている私にその攻撃が当たることはない。

「で、どっちの勝ちだって?」

「うぅ……そんなの卑怯だよぉ」

「戦いに卑怯なんてないわよ」

 ターニャの手を借りて起き上がると、私はその魔法を全て解除する。

「おいらの負けなのだぁ……」

「ふふん!」

「次は絶対勝つからな!」

 そんな意気込みを見せる。

「それで……私が勝ったんだから、いいかしら?」

「もちろん」

 ちゃんと言葉で表さなくても通じるのが、私とターニャ。

 ターニャは先ほど私が眠らせた男のポケットの中から笛のようなものを取り出した。

 それを音高く鳴り響かせる。

「敗北を知らせる笛、これを鳴らせば鬼族は戦いを止める手筈なの」

 おそらく笛の音は部族内にも響いたことだろう。戦う音も止まった。

 なんだろう、もしかしてグラートと立てた作戦要らなかった?

「ちょっと静かになったね」

「叫び声はするけど……」

 勝利の雄叫びというやつ?

「おいら、またベアに助けられた?」

「ううん、今回は自分でちゃんとできたじゃない」

 まあ、私だって何でもかんでも助ける!っていうどこの物語の主人公だよムーブをしろと強制するつもりはない。

 大事なのは結局自分の大切なものだけだ。それさえ守れれば他はどうなろうと知ったこっちゃないんだから。

 ターニャにとってはそれが鬼族の仲間だっただけ。

「あ、朝日」

「もうそんな時間?」

 結局今回も夜明けがやってきた。

「また、落ち着いたら遊びに行くから。いつもの屋根で待っててくれる?」

 隣にいるターニャに声をかける。

 少し頬を赤くして、嬉しそうに頷くターニャ。

 そういうところがやはりターニャは可愛い……そんなことを思っていると、ボン!という音がした。

「なんで、変化?」

 いきなり獣人に変化した彼女を驚きの目で見ていると、顔にフワッと何かが当たる感触がした。

「ふぇ?」

「おいら、ベアは不意打ちと獣人に弱いって知ってるからね!」

「ちょ、ちょっと!女の子が女の子にキスはダメ!」

 私そういう趣味ないから!

「んー?獣人の間では普通だって~。それに、おいらはベアトリス大好きだよ?」

「ぐっ……」

 面と向かって言わないで!

「にしし!」

「もう!」

 夜明けの朝日はさらに強くなり、争いは終結する。

 死者ゼロ人で終わった争いは、のちに獣王国で『血のない戦争』と呼ばれるようになることは、まだ知らない二人であった。
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