“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由

文字の大きさ
378 / 504

洗脳の兆し(ミサリー視点)

しおりを挟む
「坊ちゃま?手加減はしませんよ」

「別に構わない」

 二人の戦いに巻き込まれないように、反乱軍の面々が距離をとっていく。だが、どっちにしろ兵蔵さんにやられる運命なのだから気にしたところではない。

「お嬢様を裏切った罪は私が裁きます!」

 初手から魔力強化からの『身体強化』で身体能力を向上させる。その間に坊ちゃまは水魔法を発動させ、私に向かって飛ばしてくる。

(詠唱破棄ですか。お嬢様はレベルが違うとは言え、アナトレス家はみんな化け物ですね……)

 そもそも魔術師における絶対条件である詠唱を破棄できる時点でそれはとんでもない実力なのだ。

「ですが、私にはなんの痛手にもならない!」

「なに?」

 鋭く打たれたその水魔法は私に直撃するものの、傷を負わせるには至らない。

「こちとら、補助魔法もかかってんだよ」

 ミハエルに付与してもらったおかげでかなり魔法防御力が上がっているようだ。すかさず私は反撃に出るために、一歩前に踏み出す。

「くっ……」

「遅いです!」

 足で地面を叩きつけ、振動を起こす。まるで地震が起きたかのように土が波打つ。

 それに足を取られている間に、距離を詰めて手加減のない全力の一撃を腹に叩き込む。

 だが、

「包め!」

 拳が直撃しようというその間際に、殴ろうとグ―になっていた手が柔らかい水に包まれた。坊ちゃまの体はそれでも威力に耐えられず吹き飛んだが、水魔法で着地に成功し向こうも傷は軽微である。

「まだですよ」

 加速し、周り込みの攻撃脇腹を狙った攻撃を避ける坊ちゃまを見て、私は風魔法を発動させる。

 地面からどこからともなく上昇気流が現れ坊ちゃまの体を宙に浮かせる。浮いた体よりも高く飛び上がった私は、手と手を強くつなぎ、上から下へと振り下ろした。それも水の包み込みで威力は緩和されたが、そちらの方が吹き飛びやすい。

 すかさず地面に水を敷いてバウンドする坊ちゃま。

「っ……」

 だが、上から下へ落ちてきたのだから、当然バウンドする先は上空である。

「はあ!」

 包まれた右手左手の代わりに足でかかと落としを繰り出すが、それは軌道を変えることによって無理やり避けられた。

「風よ!」

 地面に着地した私は下から上へ風の魔法を飛ばす。私が得意な魔法は風魔法だからこれしかできないが、効果は十分だろう。

 抵抗する余地がない上空で魔法をすべて防ぎきるのはかなり難しいはずだ。案の定攻撃のいくつかは足や腕に掠り、少しの血が流れる。

「これで!」

 竜巻を起こそうと私は魔力を動かしたが、嫌な予感がしてそれはやめた。

「ふん、そのまま手が爆散すると思ったが……」

「下種ですね、坊ちゃま」

 魔力のこもった水に包まれた手から放つはずの竜巻魔法。簡単に破れない水の殻の中に放ったら私の手がボロボロになっていたところだった。

「そんな簡単には引っかかりませんよ」

 まあ、嫌な予感がしなかったら引っかかってたけど。

「続きだ。こい」

「言われなくても――!」

 再び接近戦に持ち込もうと走ろうとしたが、一歩踏み出したあと転びそうになって思わず足を見た。

「そうか……このために水を!」

 足に張られた水でふわふわとバウンドしてうまく態勢を直せない。故に、さっきのように素早く走ることもできない。

(実力なら私のほうが上のはずなんですけどね……)

 これが知略の差というやつか。

「難しいことは分かりませんけど、私は絶対に負けません」

「その状態でどうやって勝つというのだ?」

「簡単ですよ」

 私は水がまとわりついた足を何度か地面に叩きつけ、感触を確認した後、また走り出す。

「なっ!」

「もう覚えたので」

 走る感覚はもう覚えられた。足が封じられた……いや、このバウンドをうまく利用して走るだけである。

「くっ!」

 バウンドが動きの動作に加わったことで余計に分かりづらい軌道になったようで、坊ちゃまの反撃の回数は減っていく。そして、遂にしびれを切らしたのか水の膜を消し去った。

 それと同時に右手と左手が自由になる。

「次こそ!」

「しまっ――」

 背中に回り込んで、足を払い転ばせる。そして、倒れ伏せた坊ちゃまの顔に拳を、

「……どうした?」

 叩きこむことはしなかった。

「何をしている?」

「これで満足ですか?あなたの負けです。さっさと降参してください」

「はは……降参したら何かあるのか?」

「そうですね、強いて言うなら命の保証はしてあげますよ?お嬢様次第ですけど」

「そうか……」

 起き上がり坊ちゃまは両手を上へ上げた。

「そうしてくれると助かります」

「俺だって、別に戦いたくて戦ったわけじゃ……」

「え?」

 一瞬坊ちゃまの顔が弱弱しいものになったが、それが気の生だったかと疑いたくなるほどに表情がまた一瞬のうちに元に戻る。

「何でもない」

「まあいいです。拘束するのでそのままお待ちを」

 そう言って、私は何かしらの拘束手段がないか模索していると、

「ミサリー!」

「ライ様?」

 私の名前を呼ぶライ様がこちらに向かって走ってくる。

「どうしたんですか!ここは戦場ですよ、早く戻って!」

「蘭丸たちが……蘭丸たちがこちらに向かうのが見えたんです!」

「蘭丸さんたち……ってことはユーリちゃんたちも?」

 この戦いが始まってから姿が見えないと思っていたが、ここまで来ていたのか。そう思っていた時のことだった。

「っ!?」

 後ろから気配を感じ振り返りざまにその攻撃を防ぐ。

「誰だ!」

「あれー?ミサリー大丈夫ー?」

「ユーリちゃん?」

 そこにはいつもと変わらない様子のユーリがいた。

「間違えて攻撃しちゃったのですか?」

「ううん?間違えてないよ?」

 ……………訂正。様子がおかしい。

「どうなってるんですか……」

「助言が欲しいかメイド」

「坊ちゃま?何かわかるのですか?」

 坊ちゃまのほうを見ると、坊ちゃまはどこか苦しそうに告げた。

「洗脳、されているようだぞ?」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...