猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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同居人

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「ここかぁ」

 帝都内、帝都魔術学校敷地内男子寮の一区画。レインが新たに住む寮である。持ってきた荷物はバック一つ分にすっぽりと入ったため、レインはバックのみ持参してそのばに臨んでいた。

 男子寮の中に入ると、そこは予想以上に古めかしい趣深い木造の建築だった。広い談話スペースとなっているそこには一つの受付が設置されていた。その中に女性も一人いる。

「いらっしゃい、新入生の子だね?」

「はい、レインです」

「君がレイン君?」

 全身を観察される。

「聞いた話とは比べられないくらいちっこいねぇ。私、どんな大男が来るのかってビビってたけど、その必要はなかったみたい」

「はあ……」

「さあ、君の部屋は222号室、二階の一番奥だよ」

「わかりました」

 言われた通りに二階への階段を上っていく。すでに何人かは寮に着いてくつろいでいると思われるが、話し声はあまり聞こえない。廊下だからというのもあるだろうか。

 上級生の人も今日は外出していないのか見かけないな。

「こっちか」

 222号室の前まで向かうと部屋は空いていた。まだ誰も入っていないのだろうか、と思ったのだが……

「お、お邪魔しまーす」

 なんとなく小声でゆっくりと入る。だが、そこには誰もいない。しかし、その代わりと言わんばかりにサーッとシャワーの水が流れる音がした。

「シャワーを浴びてるのかな?」

 既に同居人となる人は部屋に着いていたようで、シャワーで汗を流しているようだ。シャワー室に突入して挨拶をしに行くほどレインは常識なしではないので大人しく荷物を二つある机のうち、片方に広げて待つことにした。

 部屋の内装は至ってシンプルで、机とベッド以外はほとんど共同のものが多そうだ。タンスも一つしかないし。

「広くていいな」

 一人で研究が出来ないのは難点だけれど、スペースが広いのはありがたい。

 そんなことを考えている間に、シャワーの音が止まる。

「ふんふーん♪」

 軽い足取りと共に、一人の男子生徒が中から出てきた。そして、レインと目が合ってその軽い足取りは止まってしまった。

 数秒間の間見つめあう二人。

「えっ!?」

「あ、どうも」

「ええええ!もう来ちゃった!?」

 バッとかがんで身を隠す生徒。

「なんでかがむの?」

「なんでって、裸だからだよ!」

「?同性だよ?」

「それでも普通隠すだろ!」

「そうなの?」

 タオルは頭の上でかけていたため、彼は裸の状態でここに出てきていた。にしても、部屋の扉を開けておくのは少々危険なのではないだろうか。

「僕はレイン」

「この状況で自己紹介!?」

「名前は?」

「……ギルだ」

 かがみながらそう答えるその少年ギルに、レインは少し驚いていた。顔立ちがあまりにも女性らしかったからだ。

 柔らかそうな頬と以下同文の唇。目元は優し気で緑の瞳は真ん丸だ。髪は茶色で濡れているからかまっすぐ落ちて女性のショートカットのような髪型になっている。

 しゃがみこんでいるからか、身体もちっちゃく見えレインが見た体付きも細身であった。

「女の子?」

「違うわ!お前……見たから分かるだろ!」

「何を?」

「何をって……そりゃあ、あの……あそこ……」

 恥ずかしそうに目を逸らすギル。ただ、レインには何のことか伝わらなかった。

「と、とりあえず服着ていいか?」

「あ、うん」

 ギルはすでに制服を持っているのか、魔術学校の制服を着用し、ネクタイを締めていた。今日のお昼に入学式があるため、着替えたのだろう。

「……ずっと見られるのは嫌なんだけど」

「ごめん」

「別にいいけどさ」

 どっちなんだよ。

「同室は君なんだよね?」

「そうだと思うよ。ギルは何時着いたの?」

「ついさっきさ。いやぁ、まさかもう同居人が来るとは思わなかったよ」

 そんなことを話しながら、ギルが髪を魔術で乾かし始めた。

 無詠唱……風の魔術の無詠唱か。

「風属性が使えるのか」

「ああ、俺は他にも火も使えるんだ。珍しいだろ?」

「うん、多分」

「多分ってなんだよ」

 あれは火魔術で熱を調整して、調整した温風を髪に当てているのか。日常的な使い方が出来るのは便利だな。ただ、レインの身体は水でできているから、必要ないといえばそうなのだが。

「っていうか、レイン背が低くないか?」

「うん?」

「自分で俺を女の子みたいッていう割には俺より背が低いのな」

 かっかっかと笑うギル。

「でも、僕九歳だから……」

「はあ!?九歳!?飛び級じゃねえか、すげえな!」

「えへ、ありがとう」

「っ!」

 ギルの顔が一瞬赤くなる。

「なんで顔隠すの?」

「うるさいな、良いだろ別に」

「?」

「そんなことより、飛び級したってことはすごい優秀なのか、レインは」

「優秀……だと思いたいな」

 なんせ『師匠』が特級魔術師なのだ。上には上がいることをレインは知っている。そんなレインももうすでに特級魔術師に仲間入りを果たしたわけなのだが。

 そのことを知っているのは学校の上層部と魔術界の上層部のみ。すでにレインの特級魔術師承認の件は世間に公表されたものの、魔術学校の教師及び生徒はそれが飛び級進学した九歳児のレインとは思ってもいないことだろう。

「まあ、実は俺もこう見えて特待生なんだ。だから、少しは周りより優秀だと思う」

「そうなんだ、すごいね」

「飛び級はしてないけど、わかんないことがあったら俺に聞いてくれよな。同室だから、仲良くしようぜ」

 満面の笑みでそう手を差し出すギル。その手を取って握手を交わす。

「うん!」

「ほら、もうすぐ入学式も始まることだし早く行こうぜ!」

 そのまま手を引っ張られて立ち上がるレイン。

「楽しみだなあ!今年も学校長からのお言葉が聞けるみたいだし、がどんな奴なのか気になるぜ!」

「そうだねぇ」

 ※自分が主席だとまだレインは気づいていない。なお、このあとスピーチを一切考えていないレインがてんぱるのは遠くない未来の話なのであった。
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