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1章 星の海で遊ばせて
御殿会議(5)
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「うん……そうだなぁ……。いやでも、柚子がへこむ気持ちはすごくわかる。私も彼氏にそれ言われたら嫌だもん。その場のノリだったとしても」
「――千代って、彼氏いるの?」
紗枝が身を乗り出す。
いるよ、と千代。
「実は、後輩なんだけど」
「えぇ!」
露骨に驚く紗枝。慌てて口を抑える。
くすくすと、カウンターでソノさんが笑う。
「頼りない子なんだなぁこれが。でも可愛いから、許しちゃう」
「年下と付き合ってるなんて、へぇ、なんか、あんまり聞いたことなかったから驚いちゃった。ごめん、ごめん」
そりゃあ驚くよね、と千代。千代も、後輩と付き合っている女友達を他に知らなかった。
「名前が三ツ矢だから私、みっくんって呼んでるんだけど、みっくん、柚子の事女神か何かだと思ってるんだよ。柚子の前だと緊張しちゃってさ、おかしくておかしくて」
「ダンス部の後輩?」
「そうそう」
柚子は、この会話に混ざるのも気まずいなと思い、墨烏賊に箸を伸ばした。
「千代は、その……柚子に嫉妬とかしないの? 年下の、その、彼氏ちゃんのことで」
「ないない」
笑いながら、ぶんぶんと千代は頭と手を大きく振った。
「いやそりゃあね、例えばさ、柚子が本気で、みっくんを狙い始めたら、そりゃあさ、怒るよ? でも柚子、それはもう二百パーないじゃん? みっくんが柚子を口説くなんてことも、全然考えられないし」
「あー、そうなんだ」
「そうそう。だから全然大丈夫。――紗枝は、そういう浮いた話はないの?」
これには、烏賊を食べていた柚子も食いついた。紗枝も、柚子には自分の恋愛事情を話したことは、実は一度もなかった。第一に、恥ずかしい、というのがあった。柚子自身もそういう話を避けているし、そこへきて、自分の方からそういう話を吹っ掛けるのも、どうかと思っていたのだ。相手が柚子でなければ、もう少しさらっと話したかもしれない。柚子の前では、自分の恋なんて霞んでしまうような、そんな気がしていたのだ。そしてそれが、自分の一方的な思い込みだということも、紗枝は自分でもわかっていた。でももう、そろそろいいか、と千代を前にして、そう思えた。
「片想いよ」
「おぉ! え、誰々?」
千代と柚子、二人の目が自分に注がれて、紗枝は顔を微かに赤らめる。
「地元のね、幼馴染。五つ上だけど」
「五つ上!?」
おうむ返しに声を上げたのは柚子だった。
「じゃあ、大学生?」
「ううん。うなぎ屋の息子でね、今は修行の身。ドジな兄貴分でさぁ」
「初めて聞いたよ!」
柚子は感動を覚えて思わずそう言った。
「だって初めて言ったんだから、そりゃあ、そうでしょ。――だって柚子、そういう話苦手そうだったじゃん。だから私も、話さない方がいいかなぁと思って」
ふてくされたような口調で、言い訳っぽく紗枝が言う。
「う、うん……ごめん」
しゅんと、柚子はうなだれる。
叱られた猫のようだと思って、千代は思わず、その綺麗な形の頭を撫でた。
「あーでも、すっきりしたぁー。なんかほら、私ババ抜きとか神経衰弱とか嫌いなのよ。ジョーカーなんて、持ってたらすぐに場に出したいタイプだし」
「どんなタイプ!?」
千代が透かさず突っ込む。
なんだか千代は、柚子とはまた違った意味で、長年の友達のような気がするなぁと思う紗枝だった。
「まぁでもこれで、みんな手持ちのカードは見せあったって感じね」
紗枝はそう言って胸を張り、ズワイガニの握りを豪快に食べた。
「――いいわねぇ、女子会」
新しい握りずしの皿を持ってきたソノさんが、三人に声をかける。皆、照れ笑いを浮かべた。そうして、小舟を模した木の板皿に載せられて、握り六貫が運ばれてきた。まぐろ赤身、中トロ、大トロ、のどぐろ、ウニ、カツオ。華やかなその寿司皿に添えるように、絹もずくの和え物の小皿が運ばれてくる。
見た目も鮮やかで、味も美味しい握りずしを食べて、三人の気持ちも盛り上がる。千代と紗枝は、新しい友達――しかも、親友になれるような気がする友達を得たという喜びがあった。そして、柚子の恋愛事情を話題に上げて話ができるというのも、二人には喜びだった。難攻不落の砦を落としたような気分になっていた。そのことは、柚子にとっても、重荷を一つ下したような心地がして、嬉しかった。自分の好きな人の話、友達の好きな人の話――そういう話は、中学時代の経験から、避けていたのだ。
――でも、この二人だったら、大丈夫なのかな。
柚子は、そう思うと、体の奥が暖かくなった。紗枝は千代に、年下の彼氏についての質問をして、千代はダメ出しやのろけ話を交えてそれに答えた。逆に千代は紗枝の好きな人の話に夢中になった。五つも年上の、しかもうなぎ職人というのは、千代はそれに近い話も、聞いたことが無かった。柚子は、二人でいる時には出てこなかった話が、二人それぞれの口からどんどん出てくるので、それが面白くて、もっぱら聞き役に回った。
しかし柚子も、いつまでも聞き役というわけにはいかなかった。むしろ、紗枝と千代にとっては、今日のメインディッシュは、柚子の話なのだ。
「柚子は、でもぶっちゃけ、川野と復縁ってのはあるの?」
「え!?」
千代の質問に、柚子が声を上げる。慌てて千代が付け加える。
「いやほら、その柚子はさ、モテるから! キープとかって発想もあるのかな、っていうか、あって当然だと思って――」
「私も最初はそう思ったんだけど――」
千代の発言に、紗枝が反応した。
「水上君以外は、考えられないよ……」
柚子はそう言って、恥ずかしがる。
その反応に、同性ながら、紗枝と千代は胸を打たれてしまった。このパーフェクトな乙女の心を射抜いたのは一体どんな男なんだと、千代は余計に、その相手の顔を見たくなった。
「待って、待って柚子、私その水上君って子にちょっと嫉妬しちゃうんだけど」
千代はそう言って笑いながら、もたれかかる様に柚子の二の腕を軽く掴んだ。
「えぇ、なんでぇー……」
柚子は困惑の強い半笑い。
「水上には誘われてないの? 明日」
「うん……。だって水上君、本当は私の事――」
好きじゃないって言ってた――柚子はそう言おうとしたが、辛すぎて全部は言えなかった。
いやいや、そんなわけないじゃん――と、千代と紗枝は同時に反応する。
「あんなさ、看病までしてもらって、絶対落ちてるって」
紗枝が言うと、驚いたのは千代だった。柚子が同級生の看病をしに行ったらしい、という噂は、当然千代も小耳にはさんで知っていた。ただ、その話を話題に上げられた時の柚子の反応を見て、千代は今の今まで、その話題には触れないようにしていた。嫌なことを「嫌」とはっきり言えない柚子である。その性格を、千代もさすがに知っている。しかし実際には、聞きたくてしょうがなかった。
「看病って、あれ、本当だったの!?」
聞き返す千代に、紗枝がそのことを説明した。その間柚子は、顔を赤くして俯きながら、合間合間で千代に聞かれる具体的な看病の内容について、ぽつりぽつりと答えた。話を聞き終えた千代は、その甘酸っぱい恋愛イベントに、柚子と同じく頬を染めてしまった。そして、柚子の健気さが五臓六腑に染み渡り、くっーっと、目を瞑った。
「それ絶対落ちてるよ。紗枝の見立てが正しい!」
千代はそう言ったが、柚子は、痛みをこらえるように俯いてしまった。そんな柚子の反応を見て、千代は続けた。
「柚子にそんなアタックされて落ちない男子とか、ちょっと考えられないから!」
千代の言葉を受けて、紗枝もそれに加勢する。
「ほらね、柚子、これが客観的な意見なんだって。なんでそんなに自信ないの」
「ホントだよ。柚子が自信無いとか、じゃあ世の女は、どうやって自信持てって言うの」
あぁ、私だめだなぁと、柚子は思った。
「――ごめんね、気使わせちゃって」
使ってないから! と二人はハモった。
紗枝と千代は、柚子の恋愛初心者っぷりが、本当に心配になってきてしまった。柚子の事だから心配しなくても上手くいくだろうと思っていた紗枝も、雲行きの怪しさを感じずにはいられなかった。これ、大丈夫かな、という千代の視線を受けて、紗枝は、首を傾げた。
「――柚子、明日川野と文化祭回るのは、作戦としてはアリだよ。嫉妬を意識させるのは恋愛の常とう手段なんだから」
千代のアドバイスに、紗枝が力強く頷く。
「そんなつもりは――」
柚子の反論から被せるように千代が言った。
「いい、柚子。嫉妬っていうのは、好きの裏返しなんだから。裏返しっていうか、ほら、好きだと嫉妬するでしょ? 考えてみん、柚子。その、水上君が、他の女の子と話してるのを見たら、どう思う? ――ってか、今日どう思った?」
柚子は、詩乃と悠里が楽しそうにおしゃべりしている様子を想像してみた。
途端、柚子は黒いような赤いような感情に胸を締め付けられるのを感じた。
「嫌でしょ?」
「うん……」
「それが嫉妬なの。で、それは普通の事なんだよ、柚子。だから、まずこれを、水上君に自覚してもらう。そう思うってことは、好きって事でしょ? だから、嫉妬させる作戦ってのは有効なんだよ。あ、でもやりすぎは注意ね。私それで、みっくん泣かしちゃったことあるから」
紗枝はそれを聞いて、思わず笑ってしまった。千代も自分で言って苦笑いを浮かべる。
「でも柚子、だからといって、水上が自分から何かアクションを起こすとは思えないから、打ち上げは、柚子から誘わなきゃダメだよ。たぶん、ああいうタイプは、拗ねると面倒なんだから。柚子には悪いけど」
うんうんと、柚子は二人のアドバイスに頷いた。
柚子は、気持ちが少し楽になって、中トロに箸をつけた。美味しい、と頬がとろけるような笑顔を見せると、紗枝と千代は、互いに短いアイコンタクトをとって、小さく頷きあった。
「――千代って、彼氏いるの?」
紗枝が身を乗り出す。
いるよ、と千代。
「実は、後輩なんだけど」
「えぇ!」
露骨に驚く紗枝。慌てて口を抑える。
くすくすと、カウンターでソノさんが笑う。
「頼りない子なんだなぁこれが。でも可愛いから、許しちゃう」
「年下と付き合ってるなんて、へぇ、なんか、あんまり聞いたことなかったから驚いちゃった。ごめん、ごめん」
そりゃあ驚くよね、と千代。千代も、後輩と付き合っている女友達を他に知らなかった。
「名前が三ツ矢だから私、みっくんって呼んでるんだけど、みっくん、柚子の事女神か何かだと思ってるんだよ。柚子の前だと緊張しちゃってさ、おかしくておかしくて」
「ダンス部の後輩?」
「そうそう」
柚子は、この会話に混ざるのも気まずいなと思い、墨烏賊に箸を伸ばした。
「千代は、その……柚子に嫉妬とかしないの? 年下の、その、彼氏ちゃんのことで」
「ないない」
笑いながら、ぶんぶんと千代は頭と手を大きく振った。
「いやそりゃあね、例えばさ、柚子が本気で、みっくんを狙い始めたら、そりゃあさ、怒るよ? でも柚子、それはもう二百パーないじゃん? みっくんが柚子を口説くなんてことも、全然考えられないし」
「あー、そうなんだ」
「そうそう。だから全然大丈夫。――紗枝は、そういう浮いた話はないの?」
これには、烏賊を食べていた柚子も食いついた。紗枝も、柚子には自分の恋愛事情を話したことは、実は一度もなかった。第一に、恥ずかしい、というのがあった。柚子自身もそういう話を避けているし、そこへきて、自分の方からそういう話を吹っ掛けるのも、どうかと思っていたのだ。相手が柚子でなければ、もう少しさらっと話したかもしれない。柚子の前では、自分の恋なんて霞んでしまうような、そんな気がしていたのだ。そしてそれが、自分の一方的な思い込みだということも、紗枝は自分でもわかっていた。でももう、そろそろいいか、と千代を前にして、そう思えた。
「片想いよ」
「おぉ! え、誰々?」
千代と柚子、二人の目が自分に注がれて、紗枝は顔を微かに赤らめる。
「地元のね、幼馴染。五つ上だけど」
「五つ上!?」
おうむ返しに声を上げたのは柚子だった。
「じゃあ、大学生?」
「ううん。うなぎ屋の息子でね、今は修行の身。ドジな兄貴分でさぁ」
「初めて聞いたよ!」
柚子は感動を覚えて思わずそう言った。
「だって初めて言ったんだから、そりゃあ、そうでしょ。――だって柚子、そういう話苦手そうだったじゃん。だから私も、話さない方がいいかなぁと思って」
ふてくされたような口調で、言い訳っぽく紗枝が言う。
「う、うん……ごめん」
しゅんと、柚子はうなだれる。
叱られた猫のようだと思って、千代は思わず、その綺麗な形の頭を撫でた。
「あーでも、すっきりしたぁー。なんかほら、私ババ抜きとか神経衰弱とか嫌いなのよ。ジョーカーなんて、持ってたらすぐに場に出したいタイプだし」
「どんなタイプ!?」
千代が透かさず突っ込む。
なんだか千代は、柚子とはまた違った意味で、長年の友達のような気がするなぁと思う紗枝だった。
「まぁでもこれで、みんな手持ちのカードは見せあったって感じね」
紗枝はそう言って胸を張り、ズワイガニの握りを豪快に食べた。
「――いいわねぇ、女子会」
新しい握りずしの皿を持ってきたソノさんが、三人に声をかける。皆、照れ笑いを浮かべた。そうして、小舟を模した木の板皿に載せられて、握り六貫が運ばれてきた。まぐろ赤身、中トロ、大トロ、のどぐろ、ウニ、カツオ。華やかなその寿司皿に添えるように、絹もずくの和え物の小皿が運ばれてくる。
見た目も鮮やかで、味も美味しい握りずしを食べて、三人の気持ちも盛り上がる。千代と紗枝は、新しい友達――しかも、親友になれるような気がする友達を得たという喜びがあった。そして、柚子の恋愛事情を話題に上げて話ができるというのも、二人には喜びだった。難攻不落の砦を落としたような気分になっていた。そのことは、柚子にとっても、重荷を一つ下したような心地がして、嬉しかった。自分の好きな人の話、友達の好きな人の話――そういう話は、中学時代の経験から、避けていたのだ。
――でも、この二人だったら、大丈夫なのかな。
柚子は、そう思うと、体の奥が暖かくなった。紗枝は千代に、年下の彼氏についての質問をして、千代はダメ出しやのろけ話を交えてそれに答えた。逆に千代は紗枝の好きな人の話に夢中になった。五つも年上の、しかもうなぎ職人というのは、千代はそれに近い話も、聞いたことが無かった。柚子は、二人でいる時には出てこなかった話が、二人それぞれの口からどんどん出てくるので、それが面白くて、もっぱら聞き役に回った。
しかし柚子も、いつまでも聞き役というわけにはいかなかった。むしろ、紗枝と千代にとっては、今日のメインディッシュは、柚子の話なのだ。
「柚子は、でもぶっちゃけ、川野と復縁ってのはあるの?」
「え!?」
千代の質問に、柚子が声を上げる。慌てて千代が付け加える。
「いやほら、その柚子はさ、モテるから! キープとかって発想もあるのかな、っていうか、あって当然だと思って――」
「私も最初はそう思ったんだけど――」
千代の発言に、紗枝が反応した。
「水上君以外は、考えられないよ……」
柚子はそう言って、恥ずかしがる。
その反応に、同性ながら、紗枝と千代は胸を打たれてしまった。このパーフェクトな乙女の心を射抜いたのは一体どんな男なんだと、千代は余計に、その相手の顔を見たくなった。
「待って、待って柚子、私その水上君って子にちょっと嫉妬しちゃうんだけど」
千代はそう言って笑いながら、もたれかかる様に柚子の二の腕を軽く掴んだ。
「えぇ、なんでぇー……」
柚子は困惑の強い半笑い。
「水上には誘われてないの? 明日」
「うん……。だって水上君、本当は私の事――」
好きじゃないって言ってた――柚子はそう言おうとしたが、辛すぎて全部は言えなかった。
いやいや、そんなわけないじゃん――と、千代と紗枝は同時に反応する。
「あんなさ、看病までしてもらって、絶対落ちてるって」
紗枝が言うと、驚いたのは千代だった。柚子が同級生の看病をしに行ったらしい、という噂は、当然千代も小耳にはさんで知っていた。ただ、その話を話題に上げられた時の柚子の反応を見て、千代は今の今まで、その話題には触れないようにしていた。嫌なことを「嫌」とはっきり言えない柚子である。その性格を、千代もさすがに知っている。しかし実際には、聞きたくてしょうがなかった。
「看病って、あれ、本当だったの!?」
聞き返す千代に、紗枝がそのことを説明した。その間柚子は、顔を赤くして俯きながら、合間合間で千代に聞かれる具体的な看病の内容について、ぽつりぽつりと答えた。話を聞き終えた千代は、その甘酸っぱい恋愛イベントに、柚子と同じく頬を染めてしまった。そして、柚子の健気さが五臓六腑に染み渡り、くっーっと、目を瞑った。
「それ絶対落ちてるよ。紗枝の見立てが正しい!」
千代はそう言ったが、柚子は、痛みをこらえるように俯いてしまった。そんな柚子の反応を見て、千代は続けた。
「柚子にそんなアタックされて落ちない男子とか、ちょっと考えられないから!」
千代の言葉を受けて、紗枝もそれに加勢する。
「ほらね、柚子、これが客観的な意見なんだって。なんでそんなに自信ないの」
「ホントだよ。柚子が自信無いとか、じゃあ世の女は、どうやって自信持てって言うの」
あぁ、私だめだなぁと、柚子は思った。
「――ごめんね、気使わせちゃって」
使ってないから! と二人はハモった。
紗枝と千代は、柚子の恋愛初心者っぷりが、本当に心配になってきてしまった。柚子の事だから心配しなくても上手くいくだろうと思っていた紗枝も、雲行きの怪しさを感じずにはいられなかった。これ、大丈夫かな、という千代の視線を受けて、紗枝は、首を傾げた。
「――柚子、明日川野と文化祭回るのは、作戦としてはアリだよ。嫉妬を意識させるのは恋愛の常とう手段なんだから」
千代のアドバイスに、紗枝が力強く頷く。
「そんなつもりは――」
柚子の反論から被せるように千代が言った。
「いい、柚子。嫉妬っていうのは、好きの裏返しなんだから。裏返しっていうか、ほら、好きだと嫉妬するでしょ? 考えてみん、柚子。その、水上君が、他の女の子と話してるのを見たら、どう思う? ――ってか、今日どう思った?」
柚子は、詩乃と悠里が楽しそうにおしゃべりしている様子を想像してみた。
途端、柚子は黒いような赤いような感情に胸を締め付けられるのを感じた。
「嫌でしょ?」
「うん……」
「それが嫉妬なの。で、それは普通の事なんだよ、柚子。だから、まずこれを、水上君に自覚してもらう。そう思うってことは、好きって事でしょ? だから、嫉妬させる作戦ってのは有効なんだよ。あ、でもやりすぎは注意ね。私それで、みっくん泣かしちゃったことあるから」
紗枝はそれを聞いて、思わず笑ってしまった。千代も自分で言って苦笑いを浮かべる。
「でも柚子、だからといって、水上が自分から何かアクションを起こすとは思えないから、打ち上げは、柚子から誘わなきゃダメだよ。たぶん、ああいうタイプは、拗ねると面倒なんだから。柚子には悪いけど」
うんうんと、柚子は二人のアドバイスに頷いた。
柚子は、気持ちが少し楽になって、中トロに箸をつけた。美味しい、と頬がとろけるような笑顔を見せると、紗枝と千代は、互いに短いアイコンタクトをとって、小さく頷きあった。
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