思いを証明するために、なぜか飴を作ることになりました

来住野つかさ

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第二話

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 ローズリー書店の隣。「コルージャ」という名のそこは、2階にカフェスペースを併設したシックなお菓子店です。
 本を買い求めた方が、家まで待てずにここでページをめくってしまうことから、「本好きの憩いの場」にもなっているのです。
 それを見越してか、手で簡単に摘める焼き菓子の種類が多いところも嬉しいポイントで、中でもコーヒーが香り高くて人気を博しています。ここで推理小説愛好会の会員さんとはち合わせすることもチラホラ。
 探偵マードックがブラックコーヒーを眉をしかめて飲んでいるシーンを想定しながら、わたくしも時々ブラックにチャレンジしてみるのですが、結局ミルクを追加してしまいますね。

「さて、お嬢様。ローズリーではなく金猫印本舗の者としてお聞きします。すでにこの手帳をご活用されているあなた様が、どんな利用法をお知りになりたいのですか?」

 金猫印本舗の者? この店員さんはまだ20代半ば程とお若い方なのに本の造詣に大変深く、わたくしもよく読みたい本のイメージを伝えて探してもらったりしていましたが、本屋さんの方ではなかったの? それとも兼業?
 店員さんのお仕事についても気になりましたが、まずは時間を取ってくださったのですから、事情をお話しなければ。

 わたくしはスプーンを置き、小さく息をついてから話し始めました。

「この手帳が嘘偽りを書き留めることが出来ないことは存じています。ただ書いた当人が、その時点で事実ではないことを知らなかった場合は、その限りではない。また過去に遡った内容を記入した際には、当人が知っている事実と相違ある場合において、書いた箇所が赤字に変わる。そうですわよね?」
「ええ、ええ! よくご理解されておりますね! それで? そこまで知っておられる方がなにを?」
「実は、結婚するはずだったお相手に、『お前から恋情も愛情も感じられたことがない』『俺を愛しているというのなら、その愛を証明してみせろ』と言われてしまいましたの」

 わたくしはコーヒーを口に含みました。おいしいコーヒーです。ミルクとザラメを少し足すとよく合うのですよね。
 店員さんは黙って待ってくれています。

「わたくし、そのお相手のことは好きでした。ただそれは愛なのかと言われると、よく分からないのです。ほら、子供の頃って優しくしてくれると好きになるでしょう? 一緒に遊んだら仲良くなるし、よほど嫌なことをされない限りは、ねえ。
 それから婚約して。将来この方と結婚するんだという意識のもと、お相手のいいところを見つけて、愛を育む。そういう風に時を重ねて、時を重ねた分だけ愛が増えていくといいなと思っていましたの。お恥ずかしい話、漠然と良い未来しか想定していなかったのですね」

 向かいに座る店員さんが、一口サイズのクッキーを勧めてくださいました。
 さくり。香ばしいナッツが食感も楽しく、ほろほろと口の中でほどけていきます。何の豆なのかしら?

「おいしいわ」
「新作のキャロットケーキも試していただけませんか?」
「まあ、うれしい!」
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