8 / 10
第八話
しおりを挟む
無我夢中で馬に乗り、俺はコスタ邸を訪れた。しかし、イレーネはもう屋敷を出て行った後だった。
俺を繋ぎ止めることすら出来ずに、まんまと他の女に持って行かれたと知った父コスタ子爵は激怒し、辺境の地に住まう初老の男の後妻に充てがったのだという。
「わざわざ何です? 貴方からの婚約破棄だ。うちは一銭も払いませんよ」
「いや、そうではなく······彼女と話したくて」
「貴方が娘と二度と会いたくないと言ったのでしょう? 家格が下の我々に出来ることをしたまでです。貴方の家に睨まれた娘を置いておけるわけないじゃないですか」
イレーネと話したい思いだけで馬を走らせた俺の感情は宙ぶらりんになってしまった。
空はそんな気持ちに同調するように、湿った雨を降らせた。
◇ ◇ ◇
コスタ邸を辞して再び自室に戻った俺は、コートのままドサリと腰を下ろし、苛立ちをぶつけるように髪をグシャグシャと掻き乱した。
「ああ!」
つい、感情の発露が口から吐き出されてしまった。もうすっかり甘さが消えた口内は、カラカラに乾いている。
熱いコーヒーを持ってこさせ、ソファに足を投げ出すと、カランと音がした。
そうだ、まだ飴玉が残っていた。
慌ててポケットからガラス瓶を出してみると、飴玉で食べていないのはホワイトだけになっていることに気が付いた。
ホワイトは何なんだろう?
そういえば説明書きもろくに読まずに食べていた。ただ、スカイブルーの飴玉で、もう婚約破棄の思い出が紡がれている。その後の『思い』ってなんだ?
説明書きを読んでみようとするが、焦ってコートに突っ込んでいたために、ところどころが雨で滲んで判読出来ないようになっていた。
〈最後の『思い』はホワイトです。今までのキャンディとは······て······です。強烈に残った······を······します。食べると······で············〉
仕方がない。明日、金猫印本舗に出向いて、もう一度説明書きをもらってこよう。それから両親を説得して、イレーネとの再婚約を整えて、薔薇を持って辺境に迎えに行ってやろう。
俺を繋ぎ止めることすら出来ずに、まんまと他の女に持って行かれたと知った父コスタ子爵は激怒し、辺境の地に住まう初老の男の後妻に充てがったのだという。
「わざわざ何です? 貴方からの婚約破棄だ。うちは一銭も払いませんよ」
「いや、そうではなく······彼女と話したくて」
「貴方が娘と二度と会いたくないと言ったのでしょう? 家格が下の我々に出来ることをしたまでです。貴方の家に睨まれた娘を置いておけるわけないじゃないですか」
イレーネと話したい思いだけで馬を走らせた俺の感情は宙ぶらりんになってしまった。
空はそんな気持ちに同調するように、湿った雨を降らせた。
◇ ◇ ◇
コスタ邸を辞して再び自室に戻った俺は、コートのままドサリと腰を下ろし、苛立ちをぶつけるように髪をグシャグシャと掻き乱した。
「ああ!」
つい、感情の発露が口から吐き出されてしまった。もうすっかり甘さが消えた口内は、カラカラに乾いている。
熱いコーヒーを持ってこさせ、ソファに足を投げ出すと、カランと音がした。
そうだ、まだ飴玉が残っていた。
慌ててポケットからガラス瓶を出してみると、飴玉で食べていないのはホワイトだけになっていることに気が付いた。
ホワイトは何なんだろう?
そういえば説明書きもろくに読まずに食べていた。ただ、スカイブルーの飴玉で、もう婚約破棄の思い出が紡がれている。その後の『思い』ってなんだ?
説明書きを読んでみようとするが、焦ってコートに突っ込んでいたために、ところどころが雨で滲んで判読出来ないようになっていた。
〈最後の『思い』はホワイトです。今までのキャンディとは······て······です。強烈に残った······を······します。食べると······で············〉
仕方がない。明日、金猫印本舗に出向いて、もう一度説明書きをもらってこよう。それから両親を説得して、イレーネとの再婚約を整えて、薔薇を持って辺境に迎えに行ってやろう。
110
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
あなたに何されたって驚かない
こもろう
恋愛
相手の方が爵位が下で、幼馴染で、気心が知れている。
そりゃあ、愛のない結婚相手には申し分ないわよね。
そんな訳で、私ことサラ・リーンシー男爵令嬢はブレンダン・カモローノ伯爵子息の婚約者になった。
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
僕の我儘で傲慢な婚約者
雨野千潤
恋愛
僕の婚約者は我儘で傲慢だ。
一日に一度は「わたくしに五分…いいえ三分でいいから時間を頂戴」と僕の執務室に乗り込んでくる。
大事な話かと思えばどうでも良さそうなくだらない話。
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
婚約破棄されるまで結婚を待つ必要がありますか?
碧井 汐桜香
恋愛
ある日異世界転生したことに気づいた悪役令嬢ルリア。
大好きな王太子サタリン様との婚約が破棄されるなんて、我慢できません。だって、わたくしの方がサタリン様のことを、ヒロインよりも幸せにして差し上げられますもの!と、息巻く。
結婚を遅める原因となっていた父を脅し……おねだりし、ヒロイン出現前に結婚を終えて仕舞えばいい。
そう思い、実行に移すことに。
断罪された薔薇の話
倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。
ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。
とても切ない物語です。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる