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007 佐山氏のコレクションハウス③
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行き過ぎた映画ファンの問題行動は、今までどこか笑い話のように聞いていたが、そういうことがコレクターの世界でも起きているのかもしれない。
あの紳士な佐山氏からは想像がつかないが、そう思うと彼の世界でも熾烈な争いが起きていたのだろう。
「人の欲望に際限はない。だから念のために用心だけはしておこう」
「分かりました」
私が頷いたちょうどその時、西村課長から連絡が入った。すでに奥様がいらしてて、呼び鈴無しで自由に入ってもらって構わないとのこと。
「じゃあ初めは池上と日比野さんがカップル風にして歩いて行って入ってくれ。中に入るまで手袋等はしないように。私は少し離れた場所で辺りを窺っているから、何かあったら携帯を鳴らすので、マナーモードにして振動を感じられるようにしておいて。その場合は入らないように」
「了解です! 行こう、日比野ちゃん」
街灯の少ない道は、この少し先に畑が広がっているからかシンとしている。秋になれば都内でも蛙の合唱が聞こえたりするのだろうか。
「日比野ちゃん、ノーパソ入れたリュック重たくない? カップルらしく持ってあげようか?」
「大丈夫ですよ。それより他のコレクターさん達ってどういう方々なんですか?」
「うーん、それを今話すと声が響きそうだからあれだけど、全員当館のヘビーユーザーだよ。図書室にも常設展にも、もちろん上映にもよく来て下さる。だから日比野ちゃんも知らず知らずに会っているかもね」
「そうなんですね。全員男性ですか?」
「ううん、一人は女性だね。······あ、着いたみたい。田代さんからも連絡ないから入ろうか」
先程のパーキングから十分程歩いた先に佐山邸はあった。築40年程は経っていそうな造りだが、シンプルであまり目立った装飾もない家だ。その四方には庭木が植えられており、後ろには小山がある。都心とは違い、両隣ともゆとりがあって羨ましい。
玄関から中に入ると、携帯用のスリッパを履いてますは玄関からすぐの応接間へ。
「失礼いたします。国立映画資料館の者です。この度は御愁傷様で······」
珍しく真面目な口調の池上に合わせて私も頭を下げるが、奥様と思しき方は、いい、いい、と手を振って止めさせた。
「西村さんから話は聞いているわ。私は佐山の妻で由紀子です。私ではここにあるものにどのくらいの価値があるのか分からずに古新聞に出してしまいそうだということで、以前より佐山があなた方を呼ぶように言ってましたの。ご足労すみませんが、見ていただける? 映画関係のものは好きにしていいわ。どうでもいいもの」
「······承知しました」
少し棘のある言い方をする方だ。佐山氏とは歳の離れた結婚だったのだろうか、60代半ばくらいのほっそりとした方で、身のこなしにもゆとりのありそうな御婦人特有の貫禄がある。着ているものもシックだが光沢のある高級レース生地のセットアップ。私なら汗染みを気にして夏服なのに夏に着られない気がする。
佐山氏とあまり上手く行っていなかったのだろうか。我々の名刺だけ受け取り、後はよろしくとばかりに奥様は席を立ってしまった。
あの紳士な佐山氏からは想像がつかないが、そう思うと彼の世界でも熾烈な争いが起きていたのだろう。
「人の欲望に際限はない。だから念のために用心だけはしておこう」
「分かりました」
私が頷いたちょうどその時、西村課長から連絡が入った。すでに奥様がいらしてて、呼び鈴無しで自由に入ってもらって構わないとのこと。
「じゃあ初めは池上と日比野さんがカップル風にして歩いて行って入ってくれ。中に入るまで手袋等はしないように。私は少し離れた場所で辺りを窺っているから、何かあったら携帯を鳴らすので、マナーモードにして振動を感じられるようにしておいて。その場合は入らないように」
「了解です! 行こう、日比野ちゃん」
街灯の少ない道は、この少し先に畑が広がっているからかシンとしている。秋になれば都内でも蛙の合唱が聞こえたりするのだろうか。
「日比野ちゃん、ノーパソ入れたリュック重たくない? カップルらしく持ってあげようか?」
「大丈夫ですよ。それより他のコレクターさん達ってどういう方々なんですか?」
「うーん、それを今話すと声が響きそうだからあれだけど、全員当館のヘビーユーザーだよ。図書室にも常設展にも、もちろん上映にもよく来て下さる。だから日比野ちゃんも知らず知らずに会っているかもね」
「そうなんですね。全員男性ですか?」
「ううん、一人は女性だね。······あ、着いたみたい。田代さんからも連絡ないから入ろうか」
先程のパーキングから十分程歩いた先に佐山邸はあった。築40年程は経っていそうな造りだが、シンプルであまり目立った装飾もない家だ。その四方には庭木が植えられており、後ろには小山がある。都心とは違い、両隣ともゆとりがあって羨ましい。
玄関から中に入ると、携帯用のスリッパを履いてますは玄関からすぐの応接間へ。
「失礼いたします。国立映画資料館の者です。この度は御愁傷様で······」
珍しく真面目な口調の池上に合わせて私も頭を下げるが、奥様と思しき方は、いい、いい、と手を振って止めさせた。
「西村さんから話は聞いているわ。私は佐山の妻で由紀子です。私ではここにあるものにどのくらいの価値があるのか分からずに古新聞に出してしまいそうだということで、以前より佐山があなた方を呼ぶように言ってましたの。ご足労すみませんが、見ていただける? 映画関係のものは好きにしていいわ。どうでもいいもの」
「······承知しました」
少し棘のある言い方をする方だ。佐山氏とは歳の離れた結婚だったのだろうか、60代半ばくらいのほっそりとした方で、身のこなしにもゆとりのありそうな御婦人特有の貫禄がある。着ているものもシックだが光沢のある高級レース生地のセットアップ。私なら汗染みを気にして夏服なのに夏に着られない気がする。
佐山氏とあまり上手く行っていなかったのだろうか。我々の名刺だけ受け取り、後はよろしくとばかりに奥様は席を立ってしまった。
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