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017 謎の地下室に第二のコレクター③

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 比江島直哉ひえじまなおや。佐山氏と同じく日本で著名な映画パンフレットとチラシを多く所有するコレクターだ。この二つは集めやすいのでコレクターの道の入門編として入りやすいが、その分、量が無限に増えていくという難点がある。特に館名入りのパンフレットや地方館独自のチラシなど、ある程度ルールを設けないととても収集し切れないだろう。比江島氏は現行については邦画洋画訪わずに国内で劇場公開されたもののメイン館のチラシとパンフレットを集め、過去作についてはオークションや古本屋等色々な形でコツコツと手に入れているらしい。
 ちゃんとした映画パンフレットが作られるようになったのは戦後からだが、戦前までのスタンダードだった館プロ――映画館プログラムも相当量所有しているらしい。
 
 その比江島氏がこの方なの?

 私は普段あまり表に出ずに働いているので、お名前は存じ上げているものの、この亡くなられた方が比江島氏だということを初めて知った。

「それでは申し訳ありませんが、この家の方が見えられるまでお話を聞かせてもらってもいいですか? そして恐縮ですが、事件の可能性もありますので、あまり邸内のものに触れないように」
「はい。私どもは貴重品に触れることを想定して、全員が来訪時より白の布手袋を着けていますが、そのような事情で来訪しましたためいくつかの場所に立ち入り、手袋越しに触れてもいます」

 第一発見者となる西村課長だけがリビングに残り、他の私達は応接間で待機する。暫くして後からやって来たらしい警察の方と西村課長が戻り、ここから順に質問を受けることとなった。

「私はこの付近の管轄になります東原警察署刑事課の辻堂つじどうです。
 先程西村さんより話は聞いていますが、念のため皆さんにもお聞きします。今日は何故こちらに?」

 尾崎係長が神妙な表情で答えてくれる。

「課長の西村が申した通り、この御宅の佐山氏は著名な映画紙資料コレクターでもありました。本日彼が亡くなったことで彼の遺言に従い、彼が亡くなられたら間髪を入れずに愛蔵品の当館への寄贈手続きを行う旨、以前より当館館長が託されていたようです。そのような経緯で奥様より訃報の知らせがあったため、彼の弁護士の言によって我々研究員が寄贈品の確認に参ったのです」
「故人はどうしてそこまで急いで寄贈手続きを済ませたかったのか、ご存知ですか?」
「私どもには分かりかねます。彼の顧問弁護士であれば知っていることがあるかもしれませんが」

 弁護士には連絡を入れました、と西村課長が口添えをして、連絡先も報告する。

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