映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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042  ヨシイ古書店の噂④

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 結局上映時間には間に合わなかったので、仕方なくスーパーに寄って買い物を済ませてから帰ろうとすると、池上からLINEが来ていた。

〈今日はお疲れ様。質問すること出来たら言ってね!〉

 質問することなどないのに、と思いつつ、ふと気になったことを返信してみることにした。

〈八頭早苗さんってどんな方ですか?〉

 ――八頭早苗。お嬢様映画ライターとして一頃人気だった方だ。今は50代に差し掛かっているはずなので、流石にお嬢様という年齢でもないのだろうが、お金持ちのお嬢様がゴージャスな格好で映画を見まくって毒舌や美辞麗句をお構い無しにぶちまけるというスタイルで、ある時期の映画パンフレットによく彼女の文が載っていた。
 明るく社交的な性格らしく、男性には人気があったが、その分同性には辛辣な口調が出ることが多い印象だ。以前、図書室の複写サービスが混んでいて私も司書さんからのSOSを受けてコピーを手伝ったことがあるのだが、彼女にお客様を待たせ過ぎだとヒステリックに嫌味を言われたことがある。彼女の依頼ではなかったのに。もしかしたら依頼者の男性と食事でもする約束があったのかもしれないが。それならそんな時に書籍の半分もコピーを頼んだその男性に文句を言ってほしい。
 そんなわけですっかり苦手意識が出来ていたが、映画ライターの彼女が何のコレクターなのだろう。

〈八頭さん? 俺のことじゃないのか······〉
〈今日館内で聞いて回ったらあの人も映画コレクターだって。ライターさんとしか知らないから、何かご存知かなと思って〉
〈俺もよくは知らないよ。あの人は家がお金持ちだから海外で評価を得た日本作品に関するものを集めてるらしいよ。撮影で使われたものとか〉
〈海外だと白岩とか冨樫とかってことですか? 撮影の小道具?〉
〈そう。噂ではその当時流行してた監督達のデスマスクも持ってるらしい〉

 デスマスク。言わずとしれた死者の顔に蝋や石膏で死に顔の型を取って、故人を偲ぶためのものだ。一時期著名人のデスマスクを作る風潮があったらしく、日本でも夏目漱石や森鴎外などのものか作られたが、そのブームはひと頃の映画監督にも起こり、今も何名かのものが残っている。
 ただ大抵はご遺族や映画会社、記念館などに収蔵されているはずで、当館にも冨樫甲児のものが存在する。それをいちコレクターが持っている?

〈え、ほんとですか?〉
〈噂だからどこまで本当かは分からないよ。ねえ、もっと違うこと聞いてよ〉
〈じゃあ、今日の夕ごはんは何ですか? スーパーで買い物しようと思って〉
〈俺のを真似するつもり?〉
〈参考にしようかなと思っただけですよ〉
〈······肉じゃが。翌日は流行りの出汁カレーにリメイクするつもり〉
〈あ、それいい! 採用します!〉
〈やっぱり真似された······〉

 夕ごはん真似するくらいで怒らなくてもいいのに。

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