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049 第三のコレクター八頭女史⑦
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「私にはね、復讐相手の息子を誘惑しながらいつの間にか愛してしまった姉妹の悲恋に見えるのよ。だけど彼は復讐のために殺す相手で、姉妹それぞれが彼を愛し始めていることもお互いに気づいている。姉は妹の幸せを願っている。妹も同じ。でも彼女達が愛してしまったのは同じ人で、殺す相手。その愛憎がラストに活きるんだけどね」
「ラスト、どうなるんですか?」
「それは映画を観てみなよ。前作ではお互いのために自己犠牲に走る姉妹だったけど、この作品ではどうなったのか。そして男はどう思っていたのか」
聞いているだけでも面白そうだ。特に女性の情念のようなものを撮るのに長けた冨樫作品ならば、すごい話なのかもしれない。
「そうですね、そうしてみます。でもこんなに貴重な物ばかりコレクション出来るなんてすごいですね」
「うーん、『夜を殺めた姉妹』関連の小道具やなんかはアメリカに行ってたものを事情があって買い戻したんだけどね。まあ大体は祖父、父の御縁で譲ってもらえることになった物が多いからね。撮影所にも全てのセットや小道具を置いておくわけにもいかないから、時々放出していたらしいのよね」
そういえば別の撮影所の近くに住んでいたというお客さんから聞いたことがある。そこでは子どもまつりと称して年に一度撮影所の一部を開放し、不要な撮影小道具などをバザーとして売っていたと。
「この中で一番のレア物ってどんな物ですか?」
「それ聞いちゃう? あのね、内緒だけどデスマスクよ」
「デスマスク?」
ギョッとした顔をしたのだろう、私を見て八頭女史が大口を開けて笑っている。
「そう、資料館にもあるじゃない? 冨樫甲児のが。実はうちにもあったのよ」
「えっ、本当ですか? あれって作成数決まってるんじゃ······」
「そうなの! でも今は、さっきの事情ってやつで手元に無いんだけどね。
他だとサミュエル・ロウとかリリアン・グリーンとか、ハリウッドのスターや監督さんは来日すると大抵うちの店に来てたからサインはもらってるわねえ。
最近はねえ、······白岩とか鳴子とかの手直し入りの撮影台本かな! 『夜を殺めた姉妹』の準備稿も。コピー品だけど戦前の作品の台本はレア物でしょう? とは言っても比江島がくれたんだけどね」
そう言って、八頭女史は快活に話しながら手近にあったコピー品を見せてくれた。半分に折ってお尻のポケットにでも入れていたのか、表紙の折れた線もそのまま再現された製本済み台本だ。こんなもの、図書室の貸出にも出るわけがない。貴重品扱い で劣化を防ぐために最小限の展示か、研究者が特別観覧を申請して初めて見せるような代物。どうやって複製を作れたのだろう。やはりヨシイ古書店絡みか。
「そうでしたか······。比江島さんが。どこで手に入れてくれたんでしょうね?」
「それをね、次に教えてもらえるはずだったのよ。なのにどうして亡くなったりなんか······」
また八頭女史の瞳に涙が溜まって来てしまった。まだ思い出すのが辛いのだろう。
「ねえ、知ってる? 比江島が殺されたって。すごく無惨な殺され方したって。知ってて平然としているの?」
「ラスト、どうなるんですか?」
「それは映画を観てみなよ。前作ではお互いのために自己犠牲に走る姉妹だったけど、この作品ではどうなったのか。そして男はどう思っていたのか」
聞いているだけでも面白そうだ。特に女性の情念のようなものを撮るのに長けた冨樫作品ならば、すごい話なのかもしれない。
「そうですね、そうしてみます。でもこんなに貴重な物ばかりコレクション出来るなんてすごいですね」
「うーん、『夜を殺めた姉妹』関連の小道具やなんかはアメリカに行ってたものを事情があって買い戻したんだけどね。まあ大体は祖父、父の御縁で譲ってもらえることになった物が多いからね。撮影所にも全てのセットや小道具を置いておくわけにもいかないから、時々放出していたらしいのよね」
そういえば別の撮影所の近くに住んでいたというお客さんから聞いたことがある。そこでは子どもまつりと称して年に一度撮影所の一部を開放し、不要な撮影小道具などをバザーとして売っていたと。
「この中で一番のレア物ってどんな物ですか?」
「それ聞いちゃう? あのね、内緒だけどデスマスクよ」
「デスマスク?」
ギョッとした顔をしたのだろう、私を見て八頭女史が大口を開けて笑っている。
「そう、資料館にもあるじゃない? 冨樫甲児のが。実はうちにもあったのよ」
「えっ、本当ですか? あれって作成数決まってるんじゃ······」
「そうなの! でも今は、さっきの事情ってやつで手元に無いんだけどね。
他だとサミュエル・ロウとかリリアン・グリーンとか、ハリウッドのスターや監督さんは来日すると大抵うちの店に来てたからサインはもらってるわねえ。
最近はねえ、······白岩とか鳴子とかの手直し入りの撮影台本かな! 『夜を殺めた姉妹』の準備稿も。コピー品だけど戦前の作品の台本はレア物でしょう? とは言っても比江島がくれたんだけどね」
そう言って、八頭女史は快活に話しながら手近にあったコピー品を見せてくれた。半分に折ってお尻のポケットにでも入れていたのか、表紙の折れた線もそのまま再現された製本済み台本だ。こんなもの、図書室の貸出にも出るわけがない。貴重品扱い で劣化を防ぐために最小限の展示か、研究者が特別観覧を申請して初めて見せるような代物。どうやって複製を作れたのだろう。やはりヨシイ古書店絡みか。
「そうでしたか······。比江島さんが。どこで手に入れてくれたんでしょうね?」
「それをね、次に教えてもらえるはずだったのよ。なのにどうして亡くなったりなんか······」
また八頭女史の瞳に涙が溜まって来てしまった。まだ思い出すのが辛いのだろう。
「ねえ、知ってる? 比江島が殺されたって。すごく無惨な殺され方したって。知ってて平然としているの?」
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