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065 四体のデスマスク①
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デスマスク。文字通り死んだ後に型を取り、故人を偲ぶためや銅像にするために作られるというムーブメントが一時期あったらしい。
その中でも、冨樫甲児監督のものは格別だ。
彼の専属とも言える腹心の部下・沢本清彦美術監督が手ずから作成したもので、四体しかないものとされている。そして映画監督のデスマスクブームは彼から始まったといっても過言ではない。
沢本作のその四体の行方は公にされている。冨樫監督の遺族、沢本自身、アメリカのビリーズ美術館、当館だ。当館では5階の常設展示室にてガラスケースの中に収まっている目玉展示の一つとなっている。
私は他のデスマスクと見比べたことがないので分からないが、このブロンズの輝く青銅色は本当に美しい。肌の色が違っても、その眠る顔は生きているような艶かしさを感じる。皺の入り方やまつ毛の感じも、本当にリアルなのだ。
この少し痩せた気難しそうな男性が冨樫甲児なのか、と初めて見た時に思ったものだ。平面の写真とは違って眼球の盛り上がりや薄い唇の膨らみ、頬の肉の少なさも、後世に名を残す名監督が現実に生きていたことを有無を言わさず理解させられたように感じた。何なら暴力的に。
「とにかく、所蔵目録とこのデータベースがあるなら、今日は持ち帰られるだけ持ち帰ることにして、明日以降はもう少し大きい車に変えよう。人数も増やせるか、外注のスタッフも入れられるのかなど館長に報告しておく」
「はい」
私達は黙々と文書保存箱に佐山氏のコレクションを入れていく。その間に西村課長は書斎や他の部屋も見に行き、おおよその箱数を算出していた。
地下室はさほど大きくないので、今日のうちにここの箱詰めは終わりそうだ。
「やはり、冨樫のデスマスクはないな」
「そうですねー。ガセってこともないでしょうけど、ここにあるとしたら、どこのが失くなっているんでしょうねー」
「今日はもう乗せられるだけ乗せて帰ろう」
「日比野さんは、運ぶのあんまり無理しなくていいよ! この佐山氏のパソコンだけ分かるように持ってて」
「分かりました」
主を失った城はあっという間に崩壊していく。何となくそんなことを思ってしまった。
私達の手で様変わりしていく地下室を見ないようにして、私はただ資料を詰めた。
その中でも、冨樫甲児監督のものは格別だ。
彼の専属とも言える腹心の部下・沢本清彦美術監督が手ずから作成したもので、四体しかないものとされている。そして映画監督のデスマスクブームは彼から始まったといっても過言ではない。
沢本作のその四体の行方は公にされている。冨樫監督の遺族、沢本自身、アメリカのビリーズ美術館、当館だ。当館では5階の常設展示室にてガラスケースの中に収まっている目玉展示の一つとなっている。
私は他のデスマスクと見比べたことがないので分からないが、このブロンズの輝く青銅色は本当に美しい。肌の色が違っても、その眠る顔は生きているような艶かしさを感じる。皺の入り方やまつ毛の感じも、本当にリアルなのだ。
この少し痩せた気難しそうな男性が冨樫甲児なのか、と初めて見た時に思ったものだ。平面の写真とは違って眼球の盛り上がりや薄い唇の膨らみ、頬の肉の少なさも、後世に名を残す名監督が現実に生きていたことを有無を言わさず理解させられたように感じた。何なら暴力的に。
「とにかく、所蔵目録とこのデータベースがあるなら、今日は持ち帰られるだけ持ち帰ることにして、明日以降はもう少し大きい車に変えよう。人数も増やせるか、外注のスタッフも入れられるのかなど館長に報告しておく」
「はい」
私達は黙々と文書保存箱に佐山氏のコレクションを入れていく。その間に西村課長は書斎や他の部屋も見に行き、おおよその箱数を算出していた。
地下室はさほど大きくないので、今日のうちにここの箱詰めは終わりそうだ。
「やはり、冨樫のデスマスクはないな」
「そうですねー。ガセってこともないでしょうけど、ここにあるとしたら、どこのが失くなっているんでしょうねー」
「今日はもう乗せられるだけ乗せて帰ろう」
「日比野さんは、運ぶのあんまり無理しなくていいよ! この佐山氏のパソコンだけ分かるように持ってて」
「分かりました」
主を失った城はあっという間に崩壊していく。何となくそんなことを思ってしまった。
私達の手で様変わりしていく地下室を見ないようにして、私はただ資料を詰めた。
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