映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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066 四体のデスマスク②

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「あの、思い出したんですけど、八頭女史の邸にお邪魔した際に『富樫のデスマスクを持っていたことがある』って言ってました。でもすぐ手放すことになったとかって······」
「えっ? 本当に?」

 帰りの車中。私だけまた家まで送ってくれることになり、もうすっかり甘えていたところ、急にそのことを思い出した。防衛本能なのか、八頭女史の
とのことは記憶が飛び飛びになっていたのだ。

「その時はまだ意識はちゃんとしていたと思うんですが、慣れないお酒でボヤッとはしてましたけど」
「ポヤポヤしてる日比野ちゃんはレアだね!」
「池上、そういう話じゃないぞ。他には何か言ってた?」

 運転手の田代主任まで振り返って池上に突っ込んでいる中で、私は必死にあの日の会話を思い出していく。

「ええと······、あと『白岩監督や鳴子監督の赤入り撮影台本のコピー品を比江島さんにもらった』とかって。そんなのそもそも複製なんて勝手に作っていいものなんですかね? コピー機で取ったのじゃなくて、ちゃんと製本されてるやつですよ? なんか表紙の折れ癖とかもそのまま再現されているんです」
「それは明らかにおかしいな。比江島氏はどこで手に入れたんだろう?」
「私もそれを聞いたんですけど、『次に会ったら話す』って言ってそのままになっちゃったらしいです」

 そのまま彼女は泣いてしまって話どころではなくなったので、詳しく聞けなかったことが悔やまれる。どこかの出版社がそんな事を計画してるなんて、噂でも聞いたことがない。もしこれが販売されるのなら大いに問題だと思うのだが。

「正確なことは明日調べるが、富樫のデスマスクは、冨樫家も沢本家も売りに出してはいないはずだ。後は当館のとアメリカのビリーズ美術館にあるものだけだが、当館のはもちろんあるし。可能性としてはビリーズが売却したかだな」

 難しい顔で西村課長が言う。これほど有名な美術品なら何らかの情報が当館に届いて然るべきなのに、それがなかったことを苦々しく思っているようだ。

「でもビリーズが売却していたら、日本でニュースになりませんか?」
「どの時期に売却したかにもよるな。ネットが普及したのは1990年代。それ以前だと情報が遮断されていたのかもしれない」

 車内に沈黙が落ちると、尾崎係長が追い打ちをかけるようなことを口にする。

「そもそも『夜を殺めた姉妹』の祭壇が本物なら、それが八頭女史のところにあるのもおかしな話なんだ。だってそれもアメリカに行っていたはずなのだから」

 しばらく誰も言葉を発しなかった。私にあの部屋の祭壇が本物かどうかを見分ける力はない。だが、沢本清彦の本から推測することは出来るかもしれない。

「何かしらの理由でビリーズ美術館が手放すことになった時に、八頭女史がまとめて購入したのかもしれないな。富樫のデスマスクも」

 



 
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