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069 四体のデスマスク⑤
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地下コンコースで井ノ口と別れ、地下鉄に乗った。車窓を通り過ぎる蛍光灯を眺めていて、ふとヨシイ古書店に行ってみようと思い立ち、乗換駅より前で降りた。
まだ雨は降っていない。少し急ぎ足で店に向かう。
ヨシイ古書店は古書店街として有名な街の外れにある。映画古書専門店の老舗・伊織堂は街の中心通りに位置するが、そこから隠れるように二つほど路地を隔てた先にひっそりと佇んでいる。元々普通の住居だった建物を居抜きのように使っているため、中に入るとすぐの玄関スペースにスロープが出来ているという変わった造りだ。
店内はさほど広いわけでは無いが、本、雑誌、パンフレット、スチル写真、フライヤー、映画のサントラまで置いてある。さらっと眺めながらシナリオのコーナーで足を止める。
――あれ、コピー品の撮影台本はないな。
ここに売っているのかと思ったが、まだ発売前なのかそれともあれを作ったのはこの店ではなかったのだろうか。あてが外れてしまった。
ちらりとレジを見てみると、店主と思しき男性が眼鏡をかけて座っている。歳は40代といったところか、思ったより大柄でがっしりした体型だ。古書店さんは勝手なイメージで文系の華奢な人が多いのかと想像していたが、本を運ぶことが多い仕事なので意外と筋肉質になるのかもしれない。
たしかにレアな映画雑誌なども揃ってて、値段もそう悪くない。それでも何となく並べ方にいい加減なところがあるというか、統一感がない。単に種類別に並べてるという感じで、邦画洋画の区別もないし、雑誌に至っては一応同じ映画雑誌ごとにまとまってはいるものの、年号の並びはバラバラ、重複号があっちにもこっちにも入っているという始末。そういう配慮がないと、希望する号を探すのに時間がかかってしまうだろう。
奥から誰かが来ることもないので、店主一人で回している店なのかもしれない。それならそこまでの事を求めるのは酷かな。
そんな事を思っていると、外で雨の音が聞こえて来た。慌てて店を出て折りたたみ傘を準備していると、中から店主が来て入口に出していた特価品にビニールをかけている。
不思議なのは特価品コーナーの文庫などは映画にまるで関係のない本だ。客寄せでそういうものも出しているのかもしれない。
傘を広げて急いで立ち去ろうと二、三歩進んだところで、店主が「あ、池上さん」と声を発した。
びっくりして傘越しに見てみると、たしかに雨を避けながら小走りにやって来る池上がそこに居た。
「ごめん、急に降られてしまったから、少し雨宿りさせてもらえる?」
「もちろんですよ、どうぞどうぞ」
「助かる!」
親しげに言葉を交わす二人を尻目に、そのまま歩を進める。雨はあっという間に強く降るようになっていたので、駅に着くまでに足元は大分濡れてしまった。
――「僕、内心で門木氏って池上かなって思ってたんだけど」
家に着いても、先程の井ノ口の言葉を何度も思い出していた。
まだ雨は降っていない。少し急ぎ足で店に向かう。
ヨシイ古書店は古書店街として有名な街の外れにある。映画古書専門店の老舗・伊織堂は街の中心通りに位置するが、そこから隠れるように二つほど路地を隔てた先にひっそりと佇んでいる。元々普通の住居だった建物を居抜きのように使っているため、中に入るとすぐの玄関スペースにスロープが出来ているという変わった造りだ。
店内はさほど広いわけでは無いが、本、雑誌、パンフレット、スチル写真、フライヤー、映画のサントラまで置いてある。さらっと眺めながらシナリオのコーナーで足を止める。
――あれ、コピー品の撮影台本はないな。
ここに売っているのかと思ったが、まだ発売前なのかそれともあれを作ったのはこの店ではなかったのだろうか。あてが外れてしまった。
ちらりとレジを見てみると、店主と思しき男性が眼鏡をかけて座っている。歳は40代といったところか、思ったより大柄でがっしりした体型だ。古書店さんは勝手なイメージで文系の華奢な人が多いのかと想像していたが、本を運ぶことが多い仕事なので意外と筋肉質になるのかもしれない。
たしかにレアな映画雑誌なども揃ってて、値段もそう悪くない。それでも何となく並べ方にいい加減なところがあるというか、統一感がない。単に種類別に並べてるという感じで、邦画洋画の区別もないし、雑誌に至っては一応同じ映画雑誌ごとにまとまってはいるものの、年号の並びはバラバラ、重複号があっちにもこっちにも入っているという始末。そういう配慮がないと、希望する号を探すのに時間がかかってしまうだろう。
奥から誰かが来ることもないので、店主一人で回している店なのかもしれない。それならそこまでの事を求めるのは酷かな。
そんな事を思っていると、外で雨の音が聞こえて来た。慌てて店を出て折りたたみ傘を準備していると、中から店主が来て入口に出していた特価品にビニールをかけている。
不思議なのは特価品コーナーの文庫などは映画にまるで関係のない本だ。客寄せでそういうものも出しているのかもしれない。
傘を広げて急いで立ち去ろうと二、三歩進んだところで、店主が「あ、池上さん」と声を発した。
びっくりして傘越しに見てみると、たしかに雨を避けながら小走りにやって来る池上がそこに居た。
「ごめん、急に降られてしまったから、少し雨宿りさせてもらえる?」
「もちろんですよ、どうぞどうぞ」
「助かる!」
親しげに言葉を交わす二人を尻目に、そのまま歩を進める。雨はあっという間に強く降るようになっていたので、駅に着くまでに足元は大分濡れてしまった。
――「僕、内心で門木氏って池上かなって思ってたんだけど」
家に着いても、先程の井ノ口の言葉を何度も思い出していた。
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