83 / 131
083 『夜を殺めた姉妹』特別観覧⑤
しおりを挟む
憮然とした様子で答える牧田氏に西村課長が落ち着いて言い返す。
「それはありません。我々が一つずつ検品しながら梱包したのですから」
「······そうですか」
「それと当館と同じYAGIシステムでのデータベースが佐山家で使用されていました。こちらの件は?」
「······私がこの資料館に在籍していた頃、新しいデータベースシステムを稼働させるということで、YAGI社の方がよく見えられて、実際に入力をする我々学生にも色んな意見が求められました。
それをどこからか聞きつけた佐山氏に『卒業後、自分の秘書にならないか』と声をかけていただき、······その手を取った際にYAGI社の人を紹介するように、と」
「資料館の情報と引き換えに、お婿さんの地位と仕事を手に入れたのですか。それはそれは。義理とはいえさすが親子ですね」
相当な棘を含んで、比江島和志氏が佐山家の皆さんを睨みつけた。
「······失礼ですが、何をおっしゃるのです?」
さすがに腹に据えかねたのだろう。黙りこくってしまった牧田氏の横から美千代さんが詰問した。
「お久しぶりです。と言ってもお目にかかったのは幼い頃ですがね。あなたの従兄、従弟かな? 佐山義之氏の前妻・佐山真奈美の甥の比江島和志です。そちらでは叔母が狂い死にさせられただけかと思いきや、なんの因果が今度は兄がそちらの邸で殺されたそうで」
「比江島さん······真奈美さんの······」
由紀子夫人が目に見えて震え出し、また卒倒しそうなほど血の気が失せている。江藤弁護士が険しい顔つきで、こめかみを押さえた。
「皆さん、少し落ち着きましょう。一度休憩を挟みますか?」
結局、話し合いが出来るような状態ではなくなってしまったため、辻堂刑事がまた個別にお話を伺うとして、こちらとしては何とも消化不良なところで終了となった。
江藤弁護士に至っては、大層怒って「近々改めますからお時間を!」と館長に語気荒く言いおいてお帰りになった。
思わず誰もがため息をつきたくなるような疲れる時間だったためか、珍しく優しい館長秘書さんが、「グラス洗っておくから帰っていいよ」と言って飴までくれた。こういうときの糖分はありがたい。何となく辻堂刑事が甘いものを欲する気持ちが分かったような気がした。
帰りしなの電車中で、私は今日観た『夜を殺めた姉妹』のことを出来るだけ書き留めておこうと、スマートフォンを立ち上げていた。
なるべく時系列通りに、話していたこと、視えたものを正確に。
途中、池上からのLINE通知が見えたが、惑わされる前に書き終えてしまおうとしていたら、返事をしそびれてしまった。
「それはありません。我々が一つずつ検品しながら梱包したのですから」
「······そうですか」
「それと当館と同じYAGIシステムでのデータベースが佐山家で使用されていました。こちらの件は?」
「······私がこの資料館に在籍していた頃、新しいデータベースシステムを稼働させるということで、YAGI社の方がよく見えられて、実際に入力をする我々学生にも色んな意見が求められました。
それをどこからか聞きつけた佐山氏に『卒業後、自分の秘書にならないか』と声をかけていただき、······その手を取った際にYAGI社の人を紹介するように、と」
「資料館の情報と引き換えに、お婿さんの地位と仕事を手に入れたのですか。それはそれは。義理とはいえさすが親子ですね」
相当な棘を含んで、比江島和志氏が佐山家の皆さんを睨みつけた。
「······失礼ですが、何をおっしゃるのです?」
さすがに腹に据えかねたのだろう。黙りこくってしまった牧田氏の横から美千代さんが詰問した。
「お久しぶりです。と言ってもお目にかかったのは幼い頃ですがね。あなたの従兄、従弟かな? 佐山義之氏の前妻・佐山真奈美の甥の比江島和志です。そちらでは叔母が狂い死にさせられただけかと思いきや、なんの因果が今度は兄がそちらの邸で殺されたそうで」
「比江島さん······真奈美さんの······」
由紀子夫人が目に見えて震え出し、また卒倒しそうなほど血の気が失せている。江藤弁護士が険しい顔つきで、こめかみを押さえた。
「皆さん、少し落ち着きましょう。一度休憩を挟みますか?」
結局、話し合いが出来るような状態ではなくなってしまったため、辻堂刑事がまた個別にお話を伺うとして、こちらとしては何とも消化不良なところで終了となった。
江藤弁護士に至っては、大層怒って「近々改めますからお時間を!」と館長に語気荒く言いおいてお帰りになった。
思わず誰もがため息をつきたくなるような疲れる時間だったためか、珍しく優しい館長秘書さんが、「グラス洗っておくから帰っていいよ」と言って飴までくれた。こういうときの糖分はありがたい。何となく辻堂刑事が甘いものを欲する気持ちが分かったような気がした。
帰りしなの電車中で、私は今日観た『夜を殺めた姉妹』のことを出来るだけ書き留めておこうと、スマートフォンを立ち上げていた。
なるべく時系列通りに、話していたこと、視えたものを正確に。
途中、池上からのLINE通知が見えたが、惑わされる前に書き終えてしまおうとしていたら、返事をしそびれてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる