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不思議な人
しおりを挟む暖かい風が吹く、4月。
高校2年生に進級してから、2週間がたった日の放課後。
「うわっ、雨降ってきた!」
窓を見ながら、最後に最悪!と口を尖らせながら言った彼女。
「傘持ってきてないの?」
「雨降らないと思ってたから、持ってきてないの。まあ、傘立てから誰かの傘でも借りて帰るかな。」
いやいや、それはだめでしょ。と、思いながらも「そっか」と答えた私。
さっきまでは曇っていたのに、急にポツリポツリと振り出してきた雨。
窓の外を見ると、大半の人が鞄を頭の上に持ち、傘の代わりにして走って帰っている。
「今日は、旧図書室に行くの?」
「うん」
「大変だね」
「でも雨の日だけだから、そんなだよ」
私は旧図書室に向かうため、机から立ち上がる。
私、上野美雨(うえの みう)。
特に可愛いわけでもない普通の高校生。
そして、私と話している彼女は、佐藤繭(さとう まゆ)。
私と同い年で、高校からの友達。
私より少し高い身長に、真っ黒で痛みなんて全くない長い髪。つり目だけど目が大きく、とても綺麗な二重。薄く綺麗な唇がまた、彼女の大人な雰囲気を引き出している。
雰囲気からわかる通り、何でも思ったことを言ってしまう性格。
だからなのか、周りからは反感をかってしまうこともあるみたい。
私は、そこも含めて繭の良さだと思っているけどね。
「じゃあ、私、そろそろ行くね?」
「うん、また明日」
私は、繭にそう言ってから旧図書室に向かう。
私たちが普段授業を受けている校舎とは、少し離れているところにある旧図書室。
旧図書室は、何十年前に使用していた図書室らしい。
今では古い本だけが保管されている場所になってしまった。
校長先生がこの学校の母校ということもあって取り壊しの決心が中々つかなかったみたいだけど、やっと決心したのか、数ヶ月後には旧図書室が取り壊される。
そして、私が旧図書室に行く理由は、本の整理をするためでもある。
旧図書室に何の本があるのか、分かりやすくリスト化し、棚にタイトルのあいうえお順に並べていく。それが私の仕事。
そもそも旧図書室の仕事をやることになった理由は、新学期が始まってすぐの頃、授業中に居眠りをしていたのが、先生にバレてしまったのが原因。
それから、バツとしてこの仕事をしている。
ただ、毎日は大変だからって、雨の日に限定でやっている。
仕事内容自体は、そんな大変じゃない。
むしろ、最近は旧図書室に行くのが楽しみだったりする。
旧図書室に着いた私は、いつものように小窓がある一番奥の席に座る。
そこで、しばらくの間、本の整理をする。
「今日も、来るのかな...」
ふと漏れてしまった私の声。
その瞬間、コンコンと小窓を叩く音が聞こえた。
窓を少しだけ開ける。
「今日も来たよ」
少し嬉しそうな声色でそう言った彼。
「ふふっ」
今日も来てくれた彼に自然と笑みが零れる。
雨の日になると、こうして小窓から私に逢いに来てくれる。
ーーー虹色の傘が特徴の彼。
私は、彼の顔を知らない。
なぜなら、傘の大きさで、この小窓からは彼の顔が見えないから。
ただ分かっているのは、声だけ。
女の子のように高く可愛い声ではなく、少し低く透き通った優しい声。
この声が私は、好きだったりする。
聞いていて、どこか安心する。
「美雨、僕が来るの楽しみにしてたでしょ?」
意地悪そうな声色でクスッと、笑った。
「そんなことないよっ。反対に雨男くんが私に会いたかったんでしょ?」
負けずと、言い返す。
私は、彼のことを雨男くんと呼んでいる。
雨男くんと初めて会った日に「晴れの日も来るの?」って聞いたら、「雨の日だけだよ」って答えた。雨の日にだけ現れる。だから、雨男くん。
「美雨は、素直じゃないね」
「雨男くんもね!」
お互いにクスッとした微笑みが重なる。
雨男くんと初めて出会ったのは、今から9日前。
その日は、初めての旧校舎での仕事で、一人で黙々と仕事をしていた。
ふと小窓に目をやると、色鮮やかな虹色の傘が見えた。
気になって小窓を開けると、人が立っていた。
―――それが、雨男くんだった。
彼とは出逢って、今日で3回目だから当たり前だけど、彼は謎だらけ。
だから、彼とは1つだけ約束をした。
約束内容は【会うたびに1つだけ、私の質問に答える。ただし、同じ質問はしないこと】というもの。
「私との約束、覚えてる?」
「もちろん。でも、答えられる範囲だからね?」
「えー...」
ぷくーっと頬を膨らませる私。
なんでも答えてくれるわけでは、ないみたい。
まずは、何を聞こうかな?年齢?名前?雨男くんも顔を見せて?
聞きたいことがたくさんあって、何から聞いていいのかわからない。
「何を聞くか決まった?」
「うーん、そうだね...」
まずは.....
「名前!」
やっぱ、これだよね。
「名前?」
「うん、雨男くんの名前が知りたい」
いつまでも雨男くんって、呼べないしね。
「俺の名前はーー」
「え?」
雨男くんが名前を言おうとした途端、ザーザーと急に強い雨が降った。
その雨音のせいで、彼の声が遮られ聞こえない。
「ごめん、雨の音が凄くて聞こえなかった!」
最後にもう一回言って?とお願いする。
「だめ、もう答えたでしょ?」
「えー、雨音で聞こえなかったの!ね?もう一回だけ!」
顔の前で両手を合わせ、お願いポーズをしてみる。
「だめ、今日の質問はもう終わりね?」
「ちぇ~、もう名前聞けないじゃん…」
頬を膨らませて、プイッと顔を背ける。
名前を聞けば、雨男くんが誰かわかる気がしたのに…!
知りたかったな~。
「同じ質問はだめって約束だけど、
僕が忘れちゃってたら、同じ質問でも答えちゃうかもね」
「ほんと!?」
よし!
雨男くんが忘れた頃にもう一度同じ質問してみよう。
「じゃあ、今日はそろそろ帰るね」
「うん、ばいばい」
「また、雨の日に。」
そう言って彼は、小窓から姿を消した。
雨男くんの別れの言葉は「ばいばい」ではなく、「また、雨の日に。」と言う。
きっと、雨の日だけに現れるからだと思う。
私は、しばらく旧図書室の仕事をしてから、学校を出た。
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