雨の日に傘をさして、きみにアイにいく。

あびくらむげ

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私の好きな人

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―次の日。
いつもより少しだけ早く教室に着いた私は、席についてぼーっとグラウンドに視線を向けた。


グラウンド周りを走ってい陸上部。
グラウンド内でボールを蹴っているサッカー部。
バットを思いっきり振っている野球部。

それぞれの部活が朝の練習をしている。


私は、どの部活動にも入部しなかった。
特に惹かれる部活動がなかったのが入部しなかった理由なんだけど…
今、思えば無理矢理にでも何か部活動に入ってればよかったと思う。


今から入っても良いんだろうけど、そんな勇気は私にはない。
それに、今から入ると旧図書室の仕事もできなくなる。
そうなると、雨男くんとも会えなくなる。
それは、嫌だな…。


そんなことをしばらく考えていると、ガヤガヤと少しずつ騒がしくなっていく廊下。







「美雨はよ、今日来るの早くね?」


ガタッと私の前の席の椅子が引かれる音とともに、私に話しかけてきた茶髪の男の子。


「早く着きすぎちゃったの」


目の前の彼に視線をやりながら、答える。


「そうか、俺も今度から早く来ようかな」


「太陽は無理だよ。朝、起きれないじゃん」


「うっせ」


クスクス笑いながら、最後に、頑張れば起きれるんだと言った。


頑張れないと起きれないのか、と思ったのは内緒。


本田太陽(ほんだ たいよう)。私と同い年。
染めたであろう茶色い髪に、緩いパーマをかけている。
左耳には、小さなリングのピアスがしてある。

男にしては、きれいな肌に大きな目で長いまつ毛。
薄いけど、ぷっくらとした唇。
――綺麗な顔をしていると思う。

綺麗な顔をしているのに、とても見た目は派手。
口も悪いし、不良ではないけれど、不良に憧れているみたいな感じ。
そんな太陽と私は、中学からの仲。

お互いの家にも行くし、休日に遊びに行ったりもする。
でも、付き合ってはいない。


私たちの関係を一言で表すなら、腐れ縁かな?
いや、友達以上恋人未満の方が正しいかも。

私は、太陽のことが好き。ちゃんと異性として。
でも、この思いを太陽に伝えることは、一生ない。
だって太陽は、私のことが好きじゃないから。

中学の時、太陽が友達に『美雨のこと好きじゃない』って、
話しているのを聞いてしまったことがある。

結果がわかっているのに、自分の気持ちを伝えるほどの勇気を、私は持ち合わせていない。
きっと、私たちには今の関係性が性に合っているんだと思う。

だから、せめて。
せめて、今の関係性を壊さないようにしたい。
太陽に彼女ができるまでは、私が太陽の傍にいたいと思う。

ちゃんと太陽に彼女ができたら、ちゃんとするから。
想いに蓋をするから。
だから、それまでは、好きでいさせて?


「美雨、今日の放課後、暇か?」


携帯をポケットから取り出し、画面をいじりながら聞いてきた太陽。


「暇だよ?」


どうしたんだろう?


「この映画いきたいんだけど...」


携帯の画像を私に見せてくる。


「それっ!」


この前私が見たいって言ったやつだ!


「美雨がこの前見たいって言ってただろ?
だから、行こうぜ?」


太陽のその言葉に私は、コクンコクンと勢いよく首を縦にふる。


見たいと言った映画は、今、口コミやSNSで流行っている雨をモチーフにした純愛映画で、
有名な俳優さんと女優さんが出演している。


.....あれ?
そういえば…太陽と恋愛映画を見に行くのは何気に初めてかも。


アクション映画とか、ホラー映画は、見に行ったことがあるんだけど...
無意識に恋愛映画は見ないよう避けていた、のかも。


「楽しみだなあ」


私がボソリと口に出す。


「そうだな」


そう言って、太陽は、私の頭をポンっと優しく撫でた。


な….っ!


太陽の行動に驚いたのと同時に、だんだんと顔が赤くなっていく。
ドクン、ドクンと心臓の音がうるさいほど鳴る。


「美雨、大丈夫か?」


眉を顰め、心配そうな表情をする太陽。


「だ、大丈夫って?」


「顔が真っ赤だぞ?」


太陽のその言葉に、誰のせいで顔が真っ赤になったと思ってるの!?
と、喉のまで言葉が出たけれど、その言葉を飲み込んだ。


だって、太陽の顔が心底心配そうな表情をしていたからー。


意識して頭を撫撫でたわけではないんだろうなってことがよくわかる。


私は、深呼吸をし、心を落ち着かせてから口を開く。


「何でもないよ?太陽の気のせいじゃない?」


「そうか?」


「そうだよ!それよりも、映画楽しみ!ポップコーン買おうね!」


無理矢理話を逸らす私にどこか納得していない太陽だったけれど、
「そうだな」と言って、携帯を再度いじり出した。


多分、映画の席を取ってくれているんだと思う。
ふふっ、太陽と映画館デートだ。

周りからしたら、デートって言わないかもしれない。
ただの遊びなのかもしれない。

でも、私にとっては、デートなの。
太陽と二人で遊ぶのは全部デートになるの。

はやく放課後にならないかなぁ。


まだ朝のHR(ホームルーム)も始まっていないのに、もう放課後を心待ちにする。
デートが楽しみで浮かれてしまう。


だから、私は知らなかったんだ。


「何でわかんねーんだよ、バカ。」


と、ボソリと私に向けて太陽が言葉を言っていたなんてー。








ーその日の放課後。


「美雨~、今日は一緒に帰ろう!」


「あ、繭」


トコトコと鞄を持って、私の傍まで来る。


「美雨とは、晴れの日しか一緒に帰れないからね」


「う...っ」


それを言われてしまうと、今日も一緒に帰れないって言えない...


助けを求めるように、視線をチラリと太陽がいる方に向ける。
すると、ぱちりと目があった。


私の思っていることが通じたのか。


「繭、悪いな。
美雨は今日、俺と一緒に帰るんだよ。」


と言いながら、何故か勝ち誇ったように私の隣に立った。


「え?」


「ご、ごめんね?」


両手を合わせてごめんのポーズをする。


反応がない繭に少し不安になっていると、急にニタァと笑いだした繭。


あ、この顔は......


「へぇ~、そっか~。
じゃあ、今日は諦めるね!
美雨、また明日ねっ」


早口でそう言葉を紡ぎ、私たちの前から光の速さで颯爽と消えた。


明日、繭にいろいろ聞かれるなぁ
繭は、私が太陽のことが好きなの知ってる唯一の人。


私と太陽は繭が教室を出たのを確認してから、お互いに顔を見合わせる。


「じゃあ、私たちも行こっか?」


「そうだな、行くか」


私たちはお互いの荷物を持って、映画館に向かった。







「....ぅ...ヒック...ふぇ...っ」


「もう、泣くなって」


「だってぇ.....」


「ほら、ハンカチ」


太陽から差し出されたハンカチで涙を拭く。


見たいと言っていた純愛映画を見終わり、休憩も兼ねて映画館の近くのカフェに入った私たち。
上映中もずっと涙が止まらなかったけれど、
先程の映画を思い出しただけで、涙がどんどん溢れてくる。

泣き止みたいのに、全然泣き止めない。


映画の内容自体は、とてもありきたりだった。
ずっと昔に好きな人と約束をし、約束をした場所で雨の日もずっと、好きな人を待ち続ける、というお話。
もちろん、最後は好きな人と会うことができて、ハッピーエンドで終わった。


この映画自体は初めて見たはずなのに、なんでだろう。
どこか懐かしいような気がするんだよね…


「ねぇ、太陽」


「どうした?」


「この映画って、初めて...見るよね?」


「何言ってんだ?初めてだろ?」


「そう、だよね」


おかしいな...
なんで、懐かしいと思ったんだろう。

昔に見た映画と雰囲気がにていたのかな。
にたような映画なんて世の中にいっぱいあるもんね。


「急に、どうした?」


「ううん、この映画が懐かしく感じちゃって...」


「懐かしい?」


「うん、なんでかわかんないんだけど、ね」


「昔に見た映画にでも、にてたんじゃないか?」


「やっぱり、そうだよね…」


でも、なんでだろう。
胸のモヤモヤが取れない感じがして、しっくりこない。

まあ、あんまり深く考えることないよね。


「なあ、美雨」


私の頭にポンっと大きな手を置き、優しく私の名前を呼ぶ。


「なに?」


「俺な...」


そう言って、少し溜めを作った。
次に紡がれる言葉を待つ。


「…..いや、なんでもねぇ」


視線を私から逸らした。


なんでも、ない?

ーそんなわけない。
太陽が私から視線がを逸らす時は、絶対に何かを隠しているとき。
これは、腐れ縁だからこそわかる。

それに、そんなこと言われたら、何を言おうとしたんだろうって。


「気になるじゃんっ」


私がそう言うと、少し考えてから、私を見て口を開いた。


「いや…明日だったよなって、聞こうと思ってさ」


明日?
明日って、もしかして...


「卒業旅行の班決め…のこと?」


「ああ」


「なんだ、そんなこと!?」


私は、ハハハッと笑い、もっと何かあるのかと思ったと、最後に言葉を付け足した。


「そんなことって、結構重要だぞ?」


眉を下げ、不安そうな顔をした。


「そうかな?でも、卒業旅行、楽しみだね」


口角を上げ、太陽に向かって微笑む。


私たちの学校は少し変わっていて、2年生に進級してすぐに卒業旅行に行く。
先生たち曰く、来年になると受験勉強で忙しくなり、卒業旅行に行けないから、っていう心優しい配慮...らしい。

そして、今年の卒業旅行先は、京都らしい。
卒業旅行先は、毎年2年生限定で全員にアンケートをとり、アンケートで1番多かった地域を卒業旅行場所に決めているらしい。

だから、今年は京都って書いた生徒が多かったみたい。


明日は、その班決めで、観光先も自分たちで決めることができる。
班は男女で4人~6人班だった気がする。


太陽と一緒の班になって、周れたらいいな。
絶対、楽しいに決まってるもん。


「俺が.....」


うん?


「俺が、一緒の班になってやってもいいけど....」


口元に手を覆うように隠し、視線を少し下に逸らす。
そのせいで表情があまり読み取れない。
けれど、耳が赤くなっていた。


太陽が照れてる....!
ふふっ、素直じゃない太陽がまた可愛いと思う。
本当に不器用なんだから。


私は、それがなんだか嬉しくて「お願いします!」と、笑って言った。


「美雨から誘ってくれるか?」


「あ、うん、それは全然いいけど…」


「日和るなよ?」


意地悪そうに口角をあげ、ニヤリと笑う。


日和る?
何にだろう?


首をコテンと、横に倒す。
すると、「はぁ…」とため息をついた太陽。


「まぁ、うん、大丈夫だろ、美雨なら。
根性あるしな」


一人でボソボソと呟き、少し間をあけてから「待ってるな」と私の目を見て微笑んだ。


不意打ちのその表情にキュンと、胸が鳴ってしまう。


….っ!
ずるい…本当にすぎる…


太陽に知られないように胸に手を当て、心を落ち着かせた。


「じゃあ、そろそろ帰るか」


「あ、うん!そうだね!」


荷物を持ち、椅子から立ち上がった途端、ズキンと、頭が痛み出す。


ズキズキとした頭痛ではない。
何か、トンカチのようなもので頭を殴られたような…
そんな痛みが頭に響いた。


その瞬間、途切れ途切れだが、映像のようなものが頭の中に流れ出した。



*ーーーーーーーーーーーーーーーーーー*

『太陽くんの班って、誰がいるの?』

よく見慣れた綺麗な右顔。

――これは、繭?



『今日は、雨が降るな』

視線を窓の外に向けた。

――これは、太陽?



『美雨ちゃんとは、まだ話したことがないよね?
俺、澤田彰。よろしくね。』

手を私の前に差し出す。

――澤田、彰、?


*ーーーーーーーーーーーーーーーーーー*



なに、これ......
何かの、予兆?
それとも、夢?


「い.....か....」


夢…にしてはちょっと違うような...


「美雨っ!」


聞き慣れた大きな声にハッとし、私の両肩を支えてくれる太陽を見上げる。


「た、いよ?」


「美雨?大丈夫か?」


太陽は、心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「う、うん。大丈夫…」


「本当か?」


「うん、ただの立ちくらみ…かも」


さっきのは、なんだったんだろう?


不安な気持ちに駆られる。
不安になる理由なんて、ないはずなのに...


「美雨」


不安になっている私を察したのか、
とても優しい声色で私の名前を呼び、太陽のその大きな手でぎゅっと手を握ってくれた。


それだけで、さっきの不安が嘘のように無くなっていく。


太陽が手を握ってくれただけで、不安が無くなるなんて、
どれだけ太陽のことが好きなんだろうと、改めて思い知らされる。

それにしても、太陽から手を握られるのは、初めてかも…

今日は、太陽と初めてのことばかり。
素直に嬉しい。


「家まで送るから、帰ったらすぐ寝ろよ?」


私は太陽のその言葉にコクリと頷き、家までの道のりを一緒に歩いて帰る。
お互いに繋がれた手の温もりは、とても暖かく心地が良かった。



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