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雨の日の謎
しおりを挟むー次の日。
いつも通り授業が終わり、
「後は先日、言った通りにしてくれ~!
決まったら誰でもいいから職員室まで俺のこと呼びに来てくれな」
担任の先生がそう言って教室を出て行ったと同時に、男の子は男の子、女の子は女の子の仲の良い同士で固まり出した。
もちろん。
「美雨~!」
「繭っ」
ー私たちも例外ではない。
「男子はどうする?.....って、聞くだけ無駄よね」
え?
どういう意味だろう?
繭の言葉の意味がわからなくて、首を横に倒す。
「あれ?太陽くん誘わないの?」
誘うものだと思ってた、とあっけらかんと言った繭。
........っ!
繭の言葉にビクリと、体が僅かに動いたのがわかった。
ねぇ、繭。
昨日ね、太陽に一緒の班になろうって誘われたの。
なんて言ったら、繭は驚くだろうな。
いや、驚くよりも、ニヤニヤ笑いそう。
繭のニヤニヤした顔が目に浮かんだ。
「ねえ、本当に太陽くん誘わないでいいの?」
「え?」
「あんななってるけど?」
繭が太陽の座っている席に指を差した。
その方向に視線を向けると。
「太陽く~ん、一緒の班にならない?」
「ねえ、本田くん!私とも!」
「いや、待って!私と一緒の班になろう!」
と、いつの間にか数人の女の子たちが太陽の席を囲んでいた。
みんな一緒の班になるために、誘っているみたい。
でも、誘われている太陽は一切興味なし。
むしろ、無視している。
太陽らしいと言ったら、太陽らしいけど...
もう少し女の子に優しくしてあげてもいいのでは?って密かに思ったりもする。
けれど、実際に女の子に優しい太陽を見るって考えると、それはそれで嫌かも…
「美雨」
はやく誘いなよ、と目で言っているような繭。
私は、繭に対してコクンと首を小さく頷いた。
...わかってる。
わかってるよ?
昨日は、ああ言ってくれたけど、もし誘って断られたら...?
そう考えたら、なかなか勇気が出なくて誘いに行けない。
「もうっ、美雨ったら!」
痺れを切らしたのか、私の肩をバシッと軽く叩いた。
…うん、よし!
うじうじ悩んでたって仕方ない!
誘ってもし断られたら、断られたでいいや!
私はその場から立ち上がる。
「おっ、やっと誘う気になったのね!」
「う、うん!頑張ってくる!」
「行ってらっしゃい~」
私は、コクリと頷いて、女の子たちに囲まれている太陽の席に行く。
「たっ、太陽っ!」
緊張してしまったせいで、いつもより声が大きくなってしまった。
すると、太陽の周りに集まっていた女の子が私を一斉に見る。
うぅ...
女の子たちの視線がいたい...
「どうした?」
今まで話していなかった太陽が私を見ながら、口をゆっくりと開いた。
「一緒の班に...その...っ、なり、た...くて...」
ギラギラとした女の子たちの視線が痛くて、だんだんと声が小さくなっていく。
すると、ガタッと椅子から急に立ち上がり、私の肩に手を回した。
「って、ことだから。
俺は、美雨と一緒の班になる」
そうハッキリと言った太陽は、普段より声が低く、ちょっぴりどこか怖かった。
よ、よかった...
緊張した~
「よかったね、美雨」
いつの間に私の近くに来ていた繭に「うん!」と言った私。
祝ってくれる繭とは反対に、太陽の周りにいた女の子たちは、ぶつぶつ何かを言ってから、他の男の子たちを誘いに行った。
「気にしたらだめだからね、美雨」
気を使ってくれた繭に、少しだけ救われる。
「あ、太陽くんの班って誰がいるの?」
…あ、れ?
「こいつとこいつ」
太陽の右隣にいる、ふたりの男の子に指をさす。
「お互い初めましての人もいるし、とりあえず自己紹介でもしない?」
繭の考えに、コクリとみんなが頷く。
太陽の席の机をくっつけて、各自椅子に座る。
「じゃあ、まず私からね。私、佐藤繭。よろしくね。」
「次は、俺ね。
美雨ちゃんとは、まだ話したことないよね?
俺、澤田彰。よろしくね。」
澤田彰(さわだ あきら)。
太陽の友達で、繭より少しだけ高い身長に黒部と眼鏡が特徴。
色素の薄い茶色い毛に、涙袋が印象の男の子にしては、可愛らしい顔立ちをしている。
…ん?
ちょっと、待って。
この会話って...
「俺は…って、自己紹介いらねぇよな」
「まあ、みんな知ってるもんな!太陽の自己紹介なしで!
俺は、松尾和樹。よろしくな!」
松尾和樹(まつお かずき)。
太陽と彰くんの友達で、人懐っこい笑顔が印象の男の子。
彰くんより少し高い身長に、癖毛のある髪の毛。
片耳には、小さなピアスを2つしていて、女の子たちと遊んでいるなあっていうのが、雰囲気でなんとなくわかる。
「私は、上野美雨です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げた。
「よし!皆の自己紹介が終わったところで、観光場所でも決めよう!」
そう言って、繭はバサッとマップと観光雑誌を机に置いて、皆をまとめてくれる。
有名な神社に、有名な道。
それに、美味しい食べ物。
皆と一緒に調べているだけで、京都に行った気になってしまう。
これだと京都に行った時はきっと楽しすぎて、ずっと笑ってそうだな。
ふふっ、楽しみ。
自然と口角が上がってしまう。
「今日は、雨が降るな。」
私の隣に座っていた太陽がボソッと言った。
雨?
ふと、窓の外を見る。
あ、ほんとうだ。
雲がだんだんと、黒くなっていく。
きっと、帰る頃には雨が降っているだろう。
今日は、旧図書室に行かなきゃ。
…ってことは、雨男くんに会えるんだ!
…ん?
そう言えば、この会話って....
昨日見た、会話の内容と同じ...?
「み…い…る?」
さっきもそうだったし…
何なんだろう?
たまたま...だよね...?
「ちょっと、美雨!聞いてる?」
「え?あ、ごめんっ!」
繭の言葉にハッと顔をあげ、みんなに軽く謝る。
「もう!じゃあ、最初から話すよ?」
「お願いします!」
繭がもう一度、説明してくれる。
チラリと太陽に視線を向けると、口パクで「ばーか」と口を動かした。
それに少しだけ苛立ちを覚えたので、私は、誰にもバレないように太陽の足を踏んだ。
*
――キーン、コーン。
帰りのHR(ホームルーム)が終わり、今日も旧図書室に向かう。
パシャパシャと地面を蹴るローファーの音と、
ザーザーと鳴っている雨の音が妙に私の耳に響く。
太陽の言った通り、お昼を過ぎてから雨が降り出した。
繭に昨日のことを話したくて、少し残れるか聞いたら、
今日は、彰くんと帰るんだと、断られてしまった。
彰くんと繭って、もしかしたら?と勝手な想像をしてしまう。
真面目な彰くんと、気の強い繭。
....うん、びっくりするくらい違和感がない。
それくらいお似合い。
ふたりのこれからが密かに楽しみだったりする。
繭と恋バナ楽しみだな。
そんなことを考えていたら、いつの間にかに着いた旧図書室。
そして、いつもの席に座り、小窓を開けて作業を始める。
作業をしていると、1冊の本に目が留まった。
「これ...」
手にしたその本は、昔に1度だけ読んだ難しい小説。
読んだっていうよりは、パラっと見たっていうのが正しいのかも。
話の内容が難しすぎて、読むのを途中で諦めてしまったんだけどね。
この小説は、太陽が中学生の時に貸してくれたもの。
太陽って、見た目は派手だけど、根は意外と真面目なんだよね。
時々、こういう難しい小説を読んだり、授業中は一度も寝ずに真剣にノートをとっていたり…
ふふっ。
見た目とのギャップがいい意味である。
ほんと私は太陽のことが。
「好き、だな...」
自分の気持ちが、声に漏れる。
「何が好きなの?」
...っ!
小窓から聞こえてきた雨男くんの声に、ビクリと体が動いて驚いてしまった。
「び、びっくりした」
「ご、ごめん」
「ううん、大丈夫っ!」
「よかった。で?」
「え?」
「何が好きなの?」
「なんでもないよっ」
雨男くんが見ているわけではないのに、左右に首を振ってしまう。
「あっ、もしかして、美雨の好きな人とか?」
ワクワクしているような態度が、声色から伝わる。
「そ、そんなわけ、ないじゃんっ!」
図星をつかれて、言葉を噛んでしまった。
「そっか~。美雨は、僕に話してくれないんだ?」
ブスッと少し拗ねたように言う雨男くん。
そういうつもりはなかった…。
ただ、恥ずかしかっただけ....
「そういうわけじゃないんだけど...その....」
言葉をもごもごとさせ、言葉を濁す。
好きな人がいることを他の人に言うのって緊張しない?
…私だけかな?
「くくっ」
その声とともに傘がブルブルと小刻みに動き、笑っている。
「美雨があまりにも面白くて、ついからかっちゃったよ」
かわかられた...っ
「もうっ、雨男くん!」
「ごめんね。話したくないなら、無理に話さなくてもいいよ。」
そう言ってくれた雨男くんの優しい声色に、胸が一瞬で暖かい気持ちになる。
冷たい場所にいても、ホワホワ暖かくしてくれるような、
一言で表すと、太陽。そんな暖かい声色。
だからかな。
雨男くんに話してもいいかなって、思ってしまったのは…
「あのね?この本を好きな人に貸してもらったことがあるの。
それが懐かしくて思い出してたら、無意識に自分の気持ちが漏れちゃったみたい」
へへっと、恥ずかしさを紛らわすために口角を上げて笑う。
「美雨は、その人に告白しないの?」
「う~ん…、しない、かな...。今の関係を壊したくないの」
いつか自分の気持ちを太陽に伝えられたらいいなとは思うけれど、今の私にはできない。
このまま思いを伝えないまま、高校を卒業しているんじゃないかと思う。
「きっと、美雨の想いは届くよ。」
私の不安な気持ちをかき消してくれるかのように、断言して強く言う。
「…そう、なればいいな」
いつか....
いつか、太陽に届くといいな。
私の気持ちー好きって気持ちが。
愛おしい、と思うこの気持ちが。
太陽に伝えられたら、と―――。
私に気を遣ってくれたのか、それからは何も聞いてこなくなった雨男くん。
私には、その気遣いがどうしてか気まずさを表しているような、そんな気がした。
だから、かもしれない。
この空気感に耐えきれなくて、話を逸らす。
「ね、ねえ、雨男くん」
「どうしたの?」
「そういえば、まだだったよね!?今日の質問してもいい?」
「うん、いいよ。」
頷いたのか、傘が上下に揺れた。
何の質問にしようかな~。
顎先を手で軽く掴み、考える。
う~ん….あっ!これにしよう!
今回の質問は、雨男くんが答えやすいはず…!
「今日の質問は、雨男くんの学年を聞きたい!学年は?」
これでもし、先輩だったら謝ろう。
敬語で話してなかったからね。
「学年は、美雨と同じ学年だよ」
私と、同じ?
「そうなの?」
じゃあ、同じクラスの可能性もあるってこと...?
「うん」
「そっか!」
ひとつ、雨男くんのことが知れて嬉しい。
「同じ学年だったら、雨男くんと話したことがあるかもしれないね!」
「そう、かもしれないね」
ポタポタと降り注ぐ雨音で、ギリギリかき消されないほどの声の大きさで言った。
その声からして、あまり嬉しくはなさそうだった。
雨、男くん?
「美雨、今日はもう帰ろうか。
これからだんだん雨が強くなるからね」
「そうなの?」
雨男くんがいない側の窓を見る。
ポタポタと小雨が降っている。
これから雨が強くなる感じは、全くしない。
本当にこれから強くなるの?って感じ。
「また明日ね。」
…え?
あし、た?
バッと虹色の傘が見える雨男くんに視線を向ける。
けれど、そこには虹色の傘は見えない。
雨男くんは帰ってしまったみたい。
明日って、なんだろう?
明日も、雨が降るってこと...?
明日も会えるのなら、雨男くんに聞こう。
『なんで雨が降るってわかったの?』って――。
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