4 / 17
雨の日の忘れた匂い
しおりを挟むいつも通り、朝のホームルームが終わり、授業が始まる。
お昼休みには繭と太陽たちとたわいもない話をして、
午後の授業が始まる。
ーそんな変わらない1日だった。
そして、放課後。
旧図書室のいつもの席に座り、雨男くんが来るのを待つ。
昨日、雨男くんが言っていた通り、朝から1日、ずっと雨が降ってる。
まるで、雨の日がわかっていたかのようだ。
その時、コンコン、と小窓を叩く音が聞こえた。
私は、窓を開けながら「待ってたよ」と言葉を伝える。
「何か、聞きたいことがあるみたいだね?」
クスクスと、どこか楽しそうな雨男くん。
「聞いても、いいの?」
きっと、何が聞きたいかわかっていると思うから。
「うん、いいよ。」
「今日、なんで雨が降るってわかったの?」
「雨の匂いでわかるんだよ」
…雨の匂い?
「雨に匂いって、あるの?」
雨に匂いなんてあるんだろうか。
湿った匂い?
それとも、土の匂い?
どんな匂いなのか気になる。
「うん、言葉で説明するの難しいな…。
言葉で表すなら、草木や土の湿ってる、どこか心地良い匂いかな。」
心地良い匂い....か。
雨男くんにしかわからない匂いかもしれない。
「そっか…」
「そのうち美雨にもわかるよ」
わかるかな?
わかったらいいな。
そしたら、雨男くんに教えてあげよう。
「ねぇ、美雨?今日は僕が質問してもいい?」
「うん、いいよ?」
私は、首を縦に振る。
雨男くんからの質問は初めてかも。
質問って、何だろう?
「昨日の続きなんだけど...」
昨日の、続き?
それって、私の好きな人のこと?
「答えたくなかったら、答えなくていいからね」
こうして、ちゃんと逃げ道を作ってくれる優しい雨男くん。
そんな雨男くんに少しだけ胸が温かくなった。
「大丈夫だよ」
「そっか。じゃあ、遠慮なく聞いちゃうね」
「うん」
「美雨の好きな人って、誰?」
雨男くんの聞いてきた言葉にドキリと胸が鳴った。
「誰、っていうのは?」
名前が聞きたいのだろうか?
それとも、こういう人っていう特徴が聞きたいのだろうか?
「名前を教えてもらえると嬉しいな」
……名前か…
もう雨男くんに話すのは、恥ずかしいとは思わない。
でも、名前ってなると話は別だ。
「誰にも、言わない?」
他の人には、バレたくない。
好きな人の名前を教えて、仮に他の人にバレたら…。
バレちゃうだけなら、いいかもしれない。
もし、それで太陽の耳に入ったら、今の関係ではいられなくなる。
それだけは、絶対に嫌。
何としても避けたい。
「うん、言わないって約束する。」
小窓から見える傘がパサっと上下に動いた。
雨男くんのその一言は、何故か信用できる。
信用できる理由はないけれど、そう思ってしまう。
私は、大きく深呼吸をしてから、雨男くんの方に向かって好きな人の名前を口に開く。
「本田、太陽」
「本田太陽って人のことが、好きなの?」
雨男くんの言葉に、カアアと身体が徐々に熱くなる。
「...好き。気付いたら、いつの間にか好きになってたの...」
想いを口にするだけで、ドキドキと心臓の音が大きくなる。
でもその反対に、少しだけスカッともした。
ずっと胸の奥で抱え込んでいたものを吐き出したからだろうか。
「そうなんだ」
「うん、でも何で聞いたの?」
私の好きな人を聞いてどうするんだろう?
聞いた意味でもあったのかな?
そんなことを思い、雨男くんの言葉を構える。
けれど、出てきた言葉はー。
「ううん、特に理由はないよ。
でも、これで僕に遠慮なく美雨は、恋愛相談ができるね」
そう言って、無邪気な子供みたいにクスクスと笑う。
もしかして、雨男くんは。
「私の恋愛相談にのるために聞いた…?」
自分の中で思っていた言葉がポロッと小さな声で出てしまった。
私のいいように解釈しているのは、わかっている。
でも、そう考えてしまう。
「美雨がそう思うなら、それでいいよ」
雨男くんに先程の言葉が聞こえていたらしく、どこか嬉しそうな声が返ってきた。
それだけで、わかってしまった。
私の恋愛相談にのるために、聞いてくれたんだってことが―。
雨男くんが私の好きな人の名前を聞いたのは、きっとわざと。
名前を知れば、私が恋愛相談をしやすいと、そう思ったに違いない。
「ふふっ、それは心強いです!」
雨男くんのその優しさが、妙に嬉しくて微笑みが零れる。
すると、声のトーンを一回り下げ、雨音に負けないくらいハッキリと言った。
「美雨、これだけは覚えてて?
太陽くんのことで、辛くなったり、悩んだり、泣きたくなるかもしれない。
でも、僕が雨の日だけだけど、こうして美雨に会いにくるから。
美雨は、独りじゃないからね?
それだけは、忘れないでね?」
…雨男、くん?
その言い方だと、これから太陽のことで辛い思いをするって。
―――そう、聞こえてしまうよ?
私が考えすぎ…なのかもしれない。
でも、なんでだろう。
雨男くんに『一人じゃない』って言われて、何故か救われたような気持ちになる。
太陽と、何かあったわけでもないのに.....
私が今、どう思っているのかわかっているのか。
「今は、わからなくていいよ。きっとわかる日が来るから。
あっ!そういえば、もうすぐ卒業旅行だね」
と、話を逸らし、いつもの声のトーンで言った。
「そう…だね!
もうすぐ卒業旅行だね!」
私も、雨男くんにつられて深く考えることを辞める。
きっと考えても、悩んでも、
結局はわからないことだらけなのは変わりないから。
それだったら、今を楽しみたいから。
「美雨は、どこを観光しに行くの?」
「う~んと、神社とか商店街とか...観光スポットをメインに行く予定だよ。雨男くんは?」
「僕もにたようなもんだよ」
「じゃあ、観光先が重なっちゃうかもね?」
そうなったら、いいな。
と思ったけど....すぐに、雨男くんの顔がわからないことを思い出す。
仮に観光先が重なっていたとしても、わからないんだった....
顔がわかっていたら、一緒に写真をとったりできたのに...
「重なるかもしれないね。卒業旅行は、雨が降らないといいね」
「前日に、てるてる坊主でも作るよ」
卒業旅行は、やっぱり晴れてほしいからね。
天気は晴れなだけで、気持ちも良いしね!
「くくっ、子供じゃんっ」
喉を鳴らすように、とても楽しそうに笑った雨男くん。
傘もブルブルと震えているのがわかる。
「いいですよーだっ!」
別に子供でもいいじゃん!
だって、楽しみなのは本当なんだもん。
「くくっ、美雨らしくていいと思うよ。
ー…じゃあ、そろそろ帰ろうか?」
あれ?
もう、そんな時間?
時計を見ると、もうすぐで下校のチャイムが鳴る時間をさしていた。
そんな時間まで話したつもりはなかった。
時間がたつのは、案外はやいらしい。
「うん、またね。」
「また、雨の日に。」
そう言い残し、今日も小窓から虹色の傘が消えた。
0
あなたにおすすめの小説
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日
クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。
いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった……
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新が不定期ですが、よろしくお願いします。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
君に何度でも恋をする
明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。
「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」
「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」
そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。
【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!
まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。
人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい!
そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。
そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。
☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。
☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。
☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。
☆書き上げています。
その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる