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卒業旅行の前日

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「ぅ~、暇だあ」


自分の部屋のベッドでゴロゴロと行ったり来たりを繰り返す私。


今日は、卒業旅行の前日の日で、私たちの学年だけがお休み。
たぶん、明日の準備のために今日を休みにしてくれているんだと思う。
っていっても、1泊2日の卒業旅行なんだけどね。


雨男くんに太陽が私の好きな人だと教えてから、一度も雨男くんとは会っていない。


理由としては、今日まで雨が降らなかった。
ただ、それだけ。


朝のニュースで天気予報を見ている限り、まだしばらく雨は降らないみたい。


そもそも、春の季節にあまり雨が降ることないもんね。
これなら、明日も明後日も晴れかな。
それでも、一応てるてる坊主は作るつもり。
作らないで雨が降る方が嫌だもん。
それなら作った上で雨が降った方が気持ち的に諦めがつく。


すると、私が暇をしているのがわかっているかのようにタイミングよく、ピリリリリ、と携帯音が鳴った。


誰からだろう?


メッセージボックスを開けると、差出人の欄には《本田太陽》の文字。


太陽から?


なんだろうと思いながら、メッセージボックスを開ける。


【今から少し会える?  太陽】


私は、急いでメッセージを返す。


【大丈夫だよ。  美雨】


【今から行く。あと30分くらいしたら美雨の家に着くと思う。  太陽】


【分かった。待ってるね。  美雨】


……やった!
今から太陽に会える!


私は、ウキウキしながらパジャマからラフな服に着替え、少しだけ身支度を整える。


.......よし!
これで、大丈夫。





そして、30分後ー。
ピンポーンと家のチャイムが鳴り、家の扉を開ける。


「いらっしゃい、太陽」


「悪いな、急に」


「ううん、大丈夫だよ。とりあえず、上がって?」


「ああ」


一緒にリビングまで行き、太陽はソファに慣れたように座った。
私は、飲み物を用意してから太陽の横に座る。


「はい、太陽はオレンジジュースだよね」


太陽の前にソッとグラスを置く。


太陽って、意外に甘党で、子供が好きそうなジュースが好みなんだよね。
学校では、大人ぶってコーヒーとか飲んでるけど。


「ありがとう、今日おじさんとおばさんは?」


「仕事だよ」


「そっか...」


緊張、してる?
何回も私の家にきてるのに?


変、なの。


「それよりも、どうしたの?」


急に私に会いに来るなんておかしいもん。
何か理由があるがはず。


「うん、まあ...その...」


もごもごと言葉を紡ぎ、どこか言いにくそうな太陽。


「太陽?」


私が名前を呼ぶと、意を決したのか私の目をしっかりと見る。


「単刀直入に言うな」


「う、うん?」


「俺を信じて欲しい」


その言葉に驚いて、目を見開く私。
でも、すぐふふっと軽く笑った。


「私は、太陽のことを信じてるよ?」


太陽のあまり良くない噂を学校でも聞くけれど、どれも嘘だってことをちゃんとわかっている。
それに、私なりにちゃんと、太陽のことを理解しているつもり。


「いや、そうじゃなくて...」


私の返答が太陽の求めていた返答と違ったようで、困ったような顔をした。
そして、両手で頭を抱えた。


太陽が何を伝えたいのか、私にはさっぱりわからない。


「やっぱ、口だけじゃ...わかんねぇよな...」


一人ボソリとそう言うと、私の顔をもう一度見た。


「今は、わからなくてもいい。でも、俺のことを信じて。」


........あっ、
いつもより声のトーンを下げて言った太陽に、何故か一瞬、雨男くんと重なって聞こえた。


声のトーンがにていたから?
太陽が雨男くんなのは、絶対にありえないのに。
だって、雨の日の太陽は、バイトだって言って、先に帰ってるのを知っている。


これで太陽が雨男くんなら、私、太陽に告白してることになる。


そうならば、きっと太陽は態度に出るはず。
ずっと友達だと思っていた私から告白されたら、太陽は避けるはずだもん。
さすがに避けられたら、嫌でもわかっちゃう。


でも、実際には今こうして家に来て、話しているわけで...
うん、ありえない。


雨男くんは、太陽じゃない。


きっと声がにていたからだ。
そう、思ったに違いない。


「美雨、聞いてるか?」


何も答えない私に、不安そうに覗き込んだ太陽。


太陽が何を不安に思っているのかは、私にはわからない。
だけど、これだけは言える。


私は、太陽の手をぎゅっと握る。


「美雨?」


「私、太陽のこと信じてるよ?
太陽が何を不安に思っているのか、わからないけど、私は太陽のことを信じてるよ。」


ちゃんと、太陽のことはわかっているから。
だから、安心して?
少しでも太陽の不安が消えるのなら、私は、何度だって言うよ?


すると、握っていた手をソッと離し、私の背中に両腕をまわした。


...っ!
私、太陽に抱きしめられてる!


なん、で?


太陽の顔を見ようと、少し動こうと思ったのと同時に、私の肩に太陽の頭が落ちてきた。


「たい、よう?」


今日の太陽は、変だ。
いつもの堂々とした太陽じゃない。


こんな弱った太陽、初めて見る。


「今だけ...」


「え?」


「今だけでいい。少しだけ、こうさせて...」


弱々しく、どこか寂しそうに言った太陽。


そんな太陽が儚く見えて、私も太陽の背中にゆっくりと、自分の両腕をまわした。


大丈夫だよ、太陽。
私が傍にいるから。
だから、不安にならないで?


そう想いを込めて、力一杯ぎゅっと抱きしめた。





しばらくしてから、少しずつ離れるお互いの体。
それが、寂しいと思ってしまう。
もう少しだけ抱き合っていたい、このままでいたいと、思ってしまった。


「大丈夫?」


太陽の顔を覗き込むように尋ねる。


「ああ、ありがとう。悪いな。」


「ううん、大丈夫だよ?私でよかったら、いつでも抱きしめてあげるよ!」


両手を広げ、冗談っぽく言うと、私の頭をソッと撫でながら「そのときは、頼むな。」と、どこか悲しそうに微笑んだ太陽。


何で、悲しそうに微笑むの?


そう聞きたいのに、聞けない。
そこまで踏み込んでいいのか、わからなかったから。


だって私は所詮、太陽の〝友達〟だから―。
太陽の〝彼女〟では、ないから。


でもね、太陽。
私は太陽だから抱きしめてあげたいんだよ?


これは、私の本望なんだよ。


そう言いたいけど、今の関係を壊したくない私は、喉まできている言葉を飲み込んだ。


「じゃあ、俺もう帰るわ」


「うん、わかった。また明日ね?」


「明日、楽しみだからって寝坊するなよ?」


「し、しないよっ」


太陽は、いつもそうやって私を子ども扱いするんだから!


「ははっ、嘘だよ。」


「もうっ!」


楽しそうに話す太陽は、どこかスッキリしていて、いつもの太陽に戻っていた。


「じゃあ、また明日な」


「うん、ばいばい」


まるで、愛おしいものを見ているかのような目で、私の頭を撫でた。
そして、何事もなかったかのように帰って行った太陽。


その瞬間、私は膝から崩れ落ちた。


「な、なんなの~っ」


びっくりした。
太陽って、あんな顔もするんだ…っ


とても大切なものを見つけたかのような...そんな目をー。


淡い期待をしてしまう。
太陽も私と同じ気持ちなんじゃないかって...。
そんなことないはずだって、わかっているのに―。


でも、それでもいい。
太陽の傍にいることができるのならー。


私は、太陽の傍にいれれば、幸せなんだから。



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