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ゆうしゃさま2
しおりを挟むザイールの言霊によって発動した紫に輝く魔法陣は勇者の右中指に嵌められている奴隷の主人の印、支配者の指輪に吸い込まれ、指輪ごと音を立てて砕け散った。
「うわぁっ」
間抜けな悲鳴を上げて勇者が椅子から転げ落ちた。
「よかったです、手間が省けて」
「ちょっと、どういう意味よ!」
「どういう、とは?」
「この魔法陣も、あんたの言葉も!意味がわかんない!」
満足げに椅子にかけ直すザイールに猫獣人が金切り声を上げて髪をかきむしる。勇者は呆けた表情でザイールの顔と砕けた指輪の嵌っていた中指を交互に見ていた。
「実はですね。ミーシャはうちの店に来たんですよ。金を返すから首輪を外してくれと。」
にんまりと笑い、種明かしをするザイールの言葉に勇者は弾かれたように立ち上がる。
「嘘だ!」
「なぜ?何を根拠に嘘だと? 」
「お、俺たちは上手くいっていた!」
「そ、そうよ!あの子だって何も文句言ったことはないわ!」
「文句が言えなかった、の間違いではないでしょうか?ねえ、聖女さま」
(…この程度で狼狽えるなんざ修行がなってないねぇ)
噛み付くように我鳴りたてる猫獣人と勇者から視線を外し、聖女を見据えると聖女は艶然とした微笑みを唇に浮かべた。
「さあ、私たちのパーティは種族、年齢、性別、貴族かどうか、なんて全く関係なく平等なパーティですから。」
「ほう?」
「給与も支給額以上に与え、行軍も彼女に合わせてゆっくりとしていました。」
聖女の言葉に落ち着きを取り戻したのか勇者がそうだそうだと同意を飛ばす。
「だから彼女に不満はなかったはず、と?」
じろりと睨めつけるようなザイールとアイリの視線に勇者たちが
と言って未成年の前や寝ているすぐ側で性交渉はいけませんね。貞淑の誓を教会に納めている聖女様?」
「なっ…」
「い、いやミーシャには防音の結界をして寝てたはずだよな?な?」
勇者の言葉に誰も目を合わせない。
「そもそも、子供の目に届く範囲でするということ自体が間違っているのです。それに貴方がたは世界を救う旅の途中ですよね?避妊はしているのですか?」
「なっなっ…何を!汚らわしい!」
「してないのですね?では貴方がたの誰かが孕んだ場合どうするのですか金を握らせて置いていく?」
「なわけないだろ!妊婦を置いていくなんてこれだから奴隷商人なんて鬼畜なんだよ!俺が作った子供なんだ生まれるまでそばにいる!」
「ではその子ひとりが…失敬、最低でもひとりが生まれるまで、ほかの日々命の危険に晒されている子供や、ほかの人たちは見捨ててもよろしいと。」
「そんなわけないだろ!」
何も考えずに無作為に性交渉をしていると確認を取りつつアイリが手渡してきた書類にチェックを入れる。
「まあそんなことはどうでもいいです。次に、貴方がたは非戦闘奴隷であるミーシャを城壁の外、つまり、戦闘が必要な場所に必要以上に連れていった。間違いはありませんか?」
「それはっ」
「なんでしょう竜人の女性」
「…アレッアだ。あれは問題がないはずだ。なぜならその分高い給料を払っているから」
「金さえ払えばいい。金さえ払えば未成年にどんなトラウマを刻みつけてもいいと?」
力を込めて睨みつけると竜人族のアレッアはサッと目をそらした。
「そもそも、非戦闘奴隷を戦闘の場所に連れ出すのは禁止されています」
「本人も同意の上だった!」
「未成年に同意でした、は通用しないんですよ。大体、奴隷ってだけで、あらゆる命令は心理的に断りづらいんです。断る、という選択肢を最初から奪ったのでは?」
「な…何を」
「あの子に最初から鑑定で敵を鑑定してくれ、とか癒し手をつかい聖女様の補助をしてくれとそのために買ったと言ったんじゃないですか?戦闘が必要な場所に連れ出すなら戦闘奴隷を買ってくれと言いましたよね?」
「っ、だから金は払っていたと言ってるだろう!いくら払ってたと思うんだ。1回20万ルードだぞ!」
「…金さえ払えば文句言わねえからってアイツの家族を殺していいと思ってんのか!」
机が軽く跳ねるほど強く叩きつけた手に、そっとアイリが慰めるように手を重ねた。
「か、家族…?」
「3年前、薬草取りの依頼の途中に50を超えた魔物を一度に殺したことがありますね?」
「あ、嗚呼」
「あの事件の真相。聞いてるんですよあの子から。」
勇者パーティの顔から一斉に血の気が引いた。
「奴隷の権利保護法の中に奴隷が所有する一切の物は奴隷商人、買った人間の権利は一切及ばないこととする。というのがありましてね。幼子、妊娠した個体、そして非戦闘員の獣も含めて52体、貴方がたは権利を侵したことになります。」
「そんなつもり」
「無かったは通用しないんですよ。子供の獣を1匹蹴り殺しかけたアレッアさん」
「っ、あれは!」
「勇者様と致すときの邪魔だったからと言って殺していいわけじゃないですよ。」
「……。」
「反論がないようでなにより、まだまだありますがこれは追って連絡致しますのでどうぞお引き取りください」
「それでは勇者様、皆様。出口までご案内致しますわ。」
アイリが席を立ち、案内をするように扉を開けようとすると再び勇者が叫んだ。
「だから!ミーシャの居場所を教えてくれ!」
「教えるわけないでしょう。先程の魔法陣であなたは奴隷への一切の権限を失ったのだから」
「ふざけるな!」
勇者の激昴にアイリの表情が消えた。
「ふざけるな?こちらのセリフですよ。貴方がたはあの子に何をしたのか。どれだけ傷付けたか。貴方がたは少しも理解していないようですね。事務仕事や商業関係に特化させたとはいえあの子はまだ未成年。なのに1人で、違反により無効にされないように、3000万、3000万ルードですよ?そんな金額を稼いだの。あの子はもう貴方がたの奴隷じゃない。これ以上、あの子に付きまとわないで。」
アイリの言葉に呆然とする勇者を女どもとまとめて腕自慢の奴隷達が外に放り投げてくれる。
「嗚呼、勇者様は特に悪質なので今後万が一、借金返済などが滞った場合債権奴隷を通り越して犯罪奴隷になりますので、悪しからず。」
「は!?俺勇者よ!?」
何事か喚く勇者など気にもとめず扉を閉めて、俺はやっと愛しの妻と小生意気な森兎の元へと向かった。
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お前のために頑張ったのにおっちゃんは悲しいぞ。
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