私は奴隷。勇者に復讐することにした。

千代杜 長門

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朝ごはん

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「落ち着いたか?」
「ん…」 

しばらく抱かれ、揺られているとようやく荒くなった息が落ち着いてきた。

「なら飯にしよう。顔洗ってこい。片付けはしといてやる」
「食欲無い」
「無いなら牛乳のパン粥を作るから食べられるだけ食べろ。今日くらいみんなで飯を食おう。チビ達もお前のこと待ってる」

くしゃりと頭を撫でられ、自然とうなづいてしまった。
くそう、これが一児の父の包容力か。

「…ありがと。」

洗面所に行こうと部屋をあとにする寸前にお礼の言い逃げ。

「ありがと……父さん」

口に出した単語があまりにも恥ずかしくて胸のそわそわを隠すように私は廊下を走った。

たまには父親呼びもいいかも?

ーーーーー

なんて思ってたこともありました。

オレオに対して強く言ってしまった気まずさを覚えながら下に降り、食堂の扉を開けた途端、ぽすん、と身体に衝撃が走った。

「みちゃのねぇね?らちゃのみちゃのねぇねですか?」

3歳くらいの幼子が私に抱きついていた。

教会の天使の絵のようなふんわりとしたカールを描く紅茶色の髪、とろっと蕩けた同じ色のタレ目は好奇心に輝いている。ぷくぷくしたほっぺや身体は高級な白パンのようにもちもち柔らかそう。
何より愛らしいのはその頭と尻だ。丸みを帯びた可愛い耳とムクムクした大きな尻尾がピコピコゆらゆらと嬉しそうに動いている。

「可愛いだろう。俺の子だ。ラタという」
「とちゃー!」

 状況把握のために固まっていると横からおっちゃんが幼子を抱き上げながらドヤ顔をしながら紹介してきた。
おい、髭剃ってないから頬擦りすると嫌がられてるぞ。

「とちゃ、やー。らちゃ、みちゃのねぇねがいーの!」

人見知りしない質なのかこちらに向かって手足をばたつかせているラタを思わずおっちゃんから取り上げた。

「…パパ悲しい。」
「うるせえ、ヒゲ剃って出直してこい。と言うかおっちゃんは人間じゃないのか」

そう、おっちゃんの顔の横には人間特有の耳がきちんと生えていて頭の上には何も生えていない。今までずっと人間だと思って生きてきた。

「俺はたぬき獣人。種族の特性でな、たぬきだけに化けるのが得意なのさ」

腹を揺らして笑うおっちゃん。理解出来ていないのか首を傾げるラタ。うん、おっちゃんに似なくてかったな。

「あっそ、一人で馬鹿笑いしとけ。ラタ、どこに座る?」
「ねぇねのおしざー!」
「お膝、な。」
「お  し…ざ!」
「まあもう少ししたら滑舌も良くなるか…」

改めて食堂を見渡すと新規の奴隷を含めて60人ほどが長いテーブル2列に別れて座っている。
空いてる席を探していると前方に座っていたオレオが手を振っていた。

「姉ちゃん!こっちこっち!」
「おはよう、オレオ」
「おはよ、姉ちゃん」

素早く駆け寄って私の服を引っ張るもその目には拒絶されたらという不安が浮かんでいる。

「……朝はごめんね。夢見が悪かった」
「ううん、大丈夫。俺達もなる時があるから」

少し安心したように笑うオレオに笑みを返し小走りで席に向かうと2列に並んだ食卓のそれぞれの上座にアイリの姐さんとおっちゃんが別れて座った。
私が座ったのはアイリの姐さんのすぐ前、目の前にはオレオが座った。

「私の子、可愛いでしょう」
「まま!ねぇねとごあんたべりゅ」
「…おっちゃんに似なくてよかったね。姐さん」
「ふふ、残念でもあるけどね。それでは皆さんご飯にしましょう。お祈りを」

食堂のステンドグラスに朝日が差し込み美しい模様を床に映す。
ラタを膝というか足の間に座らせながら手を祈りの形に組んだ。

「種の神、血族の祖、国の神、全ての神々が今日の糧を我らに与えたもうたことを感謝致します。」
「感謝します」
「ありあとー!」
「そして我らの命の糧となる命に感謝致します」
「感謝致します」
「ありあと!!」

幼児の元気な声に周りから笑い声が漏れる。
和やかな雰囲気のまま食事が始まった。

「らちゃのごあんー!ねぇねあげう、あーん!」
「はいはいありがとー」

丸パンにサラダととろみのついた牛乳のスープが今日のメニュー。
私の熱々のスープにパンを浸して顔にグイグイと押し付けてくるラタに笑顔を返しながらラタ用にぬるく作られたスープに一口大にパンを浸して口元に差し出す。

「はい、お礼にあーん」
「あーん!おいちーね!」
「美味しいねぇ」

にぱー、と無邪気な笑顔を向けられると可愛さのあまり抱きしめたくなる。

「ねぇねおかーり!おかーり!」
「はいはい、あーん」
「ごめんね、あんまり自分の食べられないでしょう?周りの子とも喋れないし」

頬に手を添え困ったように笑う姉さんにこちらも顎から垂れるスープを拭いながら笑顔を返す。

「いいよ姐さん。家族たちの給餌で慣れてるし後で食べれば問題ない」

狼型、鳥型、犬猫、小動物。いろんな種類の神獣聖獣知獣が混じりあっていた私の家族はそれぞれの食事も違うため幼子の世話をする時はそれはそれは大変だった。

「あの頃は自分の食事が取れなくて狼型の家族と魔物の肉を食べたりしてたからなぁ」
「……やっぱり闇討ちしましょう。勇者の首を復讐の神に捧げるのです」
「はいはい姐さん落ち着いてー」

黒いオーラを滲ませながら微笑む姐さんをあしらいつつ食事を進めるとラタに額をべちべちと叩かれた。

「ラタ?」
「ねぇねいたいたい?らちゃのおまじなーのなでなでー!」

口と手をスープでベタベタにしながらニコニコと撫でてるつもりで叩いてくるラタの頬をつまみながらお礼を言う。

「ん、ありがとね。ラタのおまじないで痛くなくなったよ」
「んーたいたいのぴゅーしないの?」
「痛い痛いのぴゅー?」

帰ってきた意味不明な言葉に姐さんを見ても姐さんも首を傾げている。

「う!とちゃ 、よるになーと、おまたはれていたいいたいだから、ままなでなでしてたいたいのぴゅーするんだーよー」

無邪気な言葉に食堂が静まり返る。好奇心に満ちた視線がグサグサと刺さってくる。

「…ほう?おいじじい。」
「い、いやいつ見られたんだろうな!わからないな!」
「……サイッテー」

一瞬でも父親呼びを考えた自分を殴りたいね!
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