私は奴隷。勇者に復讐することにした。

千代杜 長門

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告発

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「ところで、夜の営みを子供に見られたことにも気づかない間抜けたぬきおやじさんよ」
「ミーシャ、大いに語弊があると思うんだがその言葉」
「なにか間違ってんのか?あ?」
「…いいえ、なんにも。」

食事を終わらせみんなが立ち上がろうとする時を狙って私はおっちゃんに声をかけた。
言葉に棘?あるにきまってんだろ。言葉に剣ぐらい生やしたいわ。

「なんかまーちゃってんのかー!あー!」
「ミーシャちゃん、ラタが変な言葉真似するから汚い言葉はおしまい。」
「うぃっす」

姐さんのひんやりした空気に背筋を伸ばしつつ、ラタをオレオに預け席を立ち上がる。

「おっちゃん分かってて私にあの書類見せただろ?」
「ん?なんのことだ。」
「惚けてんじゃねえよたぬき親父が。ここに人神神の教会に金流してるやつがいるんだろ。」

私の言葉に周囲が一斉にざわめく。
昨日任された書類、それらには毎月一定額の横領が隠されていた。
少しずつ教会に金を流すように。

「……今話すことじゃねえだろ。」
「今話さないといつ話すんだよ。これからすぐに奴隷達みんなまとめて法律の国に行くんだろ。教会と繋がってるやつがいたら……教会に消される」
「きゃーぅ!」

静まり返った食堂にラタの無邪気な声だけが響く。
そのままじろりとその場の全員を睨めつけると一人の男が目に付いた。
顔や手に火傷を残した人の良い顔をした40をすぎた優男。

「久しぶりじゃないか、トカゲ先生」

私の声掛けに、周囲がざわめく。まさか、信じられない、そんな囁きがそこかしこで交わされる。

「久しぶりだね、ミーシャ。このタイミングで僕に声をかけるなんて、何か言いたいことでもあるんじゃないのかい?」
「さあてね、私はいつも通り顔色の悪いあんたを心配して声掛けたんじゃないか。なあ、トカゲ先生、いや元人神教会の司祭、アンドレー・テッド・ターナー」

人神教会。それは聖女の所属する世界最大の宗教。
世界中に教会を持ち、その信者は数え切れない。
奴隷の解放を謳いつつも人族至上主義。
その反面、人族以外の奴隷はやむなしという歪みをもつ巨大な組織。
組織に逆らう者には暗殺部隊を送り付けるという噂もまことしやかに流れる。

 アンドレーはこの街の司祭をしていたが、盗みを働いた獣人の子供に、肩入れをしたせいで犯罪奴隷になり、そこをおっちゃんに拾われたという異色の経歴を持つ人神教徒だ。
そして私たちに読み書きや計算を、人間としての生き方を教えてくれた恩師でもあった。

「あんたは人神教の人間にしてはまともなやつだと思ってたよ。アンドレー。…人は嘘をつくのが上手いが書類は嘘をつくのが下手、あんたが教えてくれたことだ。」
「まだ疑いの段階なんだろう?疑いのうちは口に出すな。これも僕の教えだ。」
「書類は嘘が下手と言ったのはあんただ。証拠は書類に全部書いてある。」

 書類はアンドレーが横領の犯人だと如実に表していた。
冷え込んだ空気が食堂を支配する。
そんな空気を察したのかさっきまで機嫌よくはしゃいでいたラタがぐずりはじめた。
 
「ぐす…みちゃのッね、ねぇねがあんちゃんいじめてる…ぅ」
 「なあ、どうしてだ。あんたなら……オレオを助けて奴隷落ちするようなあんたならこんなことしないと信じてたのに。」
「僕から言えることは何も無いよ。穢れた血、エルストイのミーシャ」
「ふざけるな!」

穢れた血、常日頃かけられていたなんてことの無い蔑称だったが、私の視界は赤く染まり、拳に痛みが走った。
火がついたように泣き出すラタの声を聞きながら呆然と握りしめた拳を見つめる。
殴ったんだ。私が、トカゲ先生を。
獣人の血が混じり、大人並みの力を発揮した私の拳。
それでも彼は僅かに赤くなった頬を撫でただけで笑顔を崩さなかった。

「……ミーシャ、そろそろラタが見てるからやめろ。教育に悪い。」
「……お前の方が余程教育に悪いものを見せつけてんじゃねえかたぬき親父」
「うるせー。まだあいつには早いんだよ。こういうことは。……アンドレー、お前にも改めて話を聞かせてもらおう。」
「分かりました。」

おっちゃんの言葉に意外なほど大人しくアンドレーは立ち上がる。

「上の階の外から鍵のかかる部屋ですね。鍵はアイリさんがお持ちでしょうか。アレッサーナ、案内してくれるかい?不安ならアドリアナも連れて。アイリさんも御手数ですが着いてきて頂いてもいいですか?」
「…はい。アンドレーさん」
「…………ううん、アイリ姉さんも居るし私だけで大丈夫。行きましょ、トカゲ先生」
「いい子だねアドリアナ。」

不安を隠さない周囲の視線に怯えながらもアドリアナはアンドレーの手を引いて食堂の外へ向かった。

「さ、みんな。食事の時間は終わりだ、今日の仕事を終わらせてくれ」

 おっちゃんの言葉にようやく周りが動き出す。まだざわめきは止まらない。
時折侮蔑を含んだ視線が投げかけられるがそちらを見ずに席に戻りすっかり冷めたスープを飲んだ。

「ミーシャ!」

 扉で立ち止まったアンドレーの呼び掛けに視線が集まる。

(僕は人神教徒だ)

口の動きでそれだけを伝えるとアンドレーは今度こそ部屋の外へ歩いていった。

「……アンドレーの…先生のバカ」

信頼していたのに。ギリ、と奥歯が軋むほど噛み締めた。握りしめた拳に爪が食い込む。

「ミーシャ。」
「なんだよ。」  

おっちゃんが私を呼ぶもおっちゃんを振り返ることが出来ない。

「お前は今日書類仕事の前に法律の国の使者様との面談な」
「…あいよ」

おっちゃんの言葉に了承の意味を込めて頷く。

「みちゃのねぇね…」
「怖い思いさせてすまないね」

オレオに抱かれたまま涙目のラタにもちもちとした手でぽかぽかと叩かれた。

「みちゃのねぇね、あんちゃーいじめちゃ、め!」

何度も何度もぽかぽかと叩かれる。力加減のできない手は地味に痛い。
見かねたオレオがそっと遠ざけてくれた。

「ごめん。こいつ…トカゲ先生にお菓子もらったり、遊んでもらったり仲良しだったんだ。こら、やめろって」
「…そうか、ごめんね。止めなくていい。気が済むまでやればいいさ」

頭を撫でようとしても首を振って拒否される。そしてそのまま視線を合わせようと屈んだ私の耳を思い切り引っ張った。

「あんちゃーいじめちゃめーなのー!うわぁぁぁぁんっ」

興奮して再び泣き出したラタに耳を強く引っ張られ、強い痛みが走る。
何度でも言うがエルフと獣人の耳は敏感なのだ。頭がもげそうなほど痛い。かなり痛い。

「いたっいたたっ耳は痛い!耳はダメだってラタ!ごめんごめん!」
「だめなのー!!!!」
「ごめんって!もうしない!」
「あんちゃーいじめない?」
「いじめません」
「ほんと?」
「本当」
「ほんとのほんと?」
「ほんとのほんと。」
「ほんとのほんとのほんと?」
「ほんとのほんとのほんと。」

繰り返し繰り返しいじめないと誓ってやっと離してもらえた。

「……幼子怖い」
「それじゃ、ラタも落ち着いたことだし法律の国の使者様に見られても恥ずかしくない程度にお着替え、しましょう?」
「え?アレッサーナ、私はこのままでも全然構わないんだけど」
「アイリ姉に、お姉ちゃんにきちんとした格好をさせるように言われてるから」
「…はい」
「アイリ姉も後で来るってー」
「はい」

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