私は奴隷。勇者に復讐することにした。

千代杜 長門

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話し合…い?

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  子供用の柔らかい矯正下着を締められ、リボンを編み上げて縛る室内用の踵の低い飾り靴を履かされ、ペチコートと言うスカートを膨らませる薄手の布とズローズという下着を履かされたせいで下半身が真夏の夜を思い出させるほど暑い。

  白と黒でシンプルにまとめられたドレスは上等な絹でできているらしく恐ろしく肌触りがいい。
共布で作られたリボンで髪をひとつに括られ、尻尾もリボンで根元を縛られ、不機嫌そうに垂れている。
  姿見に映る姿は自分ではないようでげんなりとした。

「お姉ちゃんかわいい!」
「……姐さん、なにも下着なんてお貴族様みたいな服、着せなくてもいいじゃないか……それにこのドレス動きにくい、金もいくらかかったんだか……」
「大丈夫、私の私財よ」
「余計大丈夫じゃないから……」

  にんまりと笑う姐さんにため息で返しつつ、ようやく応接室に向かう。
アレッサーナはやはりアンドレーが気になるのかそそくさと離れていった。

「法律の国……か」
「世界最古で最小の国。世界のほとんどの法律の大元と契約を司り、保護する法律の番人。神の使いが未だに直接降りて人々を助ける……なんてね、殆どは奴隷商神官の旦那様からの又聞きだけどね」
「姐さん行ったことないの?」
「旦那様がミーシャの借金が帰ってくるまではここにいるって。それにラタもいたしね。」
「……あんな金額なかなか返せるわけないのにばっかでー」

  幸せそうに微笑む姐さんの言葉に頬を膨らませてみるも照れ隠しなのはお見通しなのか頬をつつかれてぷひゅ、と変な音が漏れた。

「なにすんだ」
「かわいいから仕方ない」
「言葉が通じやしねえ」
「通じてるわ。あえて乗らないだけ」
「余計タチ悪い」

  テンポよく弾むやり取りは適度に緊張を解してくれて、応接室にたどり着く頃には自然な笑顔が浮かばせることが出来た。

「失礼致します」
『入るといい』

   姐さんのノックと声掛けに応える聞き覚えのない「念話」、許可と同時に扉を開け、すかさず法律の国に伝わる礼をとる。

  地面に対して水平になるように左手を上げ、右手は心臓の上に添える。左足を軽く引き、つま先を右足のかかとに付けて腰を折る。

なかなかにバランスをとるのが難しい姿勢だ。

『私たちの国の礼をするなんて、そのように気にせずともよろしいのに……どうぞお顔をお上げください』

  先程の声とはまた違う柔らかな声に顔を上げる。

  部屋には使者様と私とおっちゃんと姐さん。そしておっちゃんの膝の上には何故かご機嫌なラタがいた。
 
「安心しろ、許可はある」
「ねちゃー!!」
『幼子は我らも好ましく思うので同席に問題はありませんよ』

  それでいいのか法律の国。

「……かしこまりました。本日は私事でお呼びだてしてしまい申し訳ございません。此度の訴え主、エルストイ・ミーシャでございます」
「ヒューマ・アイリ・ボハメティでございます。」

  スラリと美しいシルエットが神に祝福されるように陽光を反射している。
  世界最古の神を祀る法の国、そこには神の使いが日々降臨し、交流を深めるという。
眉唾物だと思っていたが、この姿を見るとそれも決して嘘ではないと確信できた。

『お初にお目にかかる。私はアルヴィン。良き隣人の友という名前を尊き主から賜っている』
『同じくお初にお目にかかります。我が名はエラグレース。美しい隣人とその力と言う名前を賜っている。本来なら明日、人間の使者と共に来るはずだったがこの法を使うものに興味があってな。一足先にきてしまった。』

   使者たちは長椅子の前に立ち、優雅な仕草で礼をとる。頭に響く念話は最上の音楽のように心地がいい。
   目の前の2人は数多の女性が嫉妬するであろう長い睫毛に夕日を思わせる美しい橙色の顔、冠のような美しい羽飾りを生やし、白と黒の見事なコントラストに染まった、私と同じ目線の「大柄」な身体。ほっそりとした無駄のないシルエットをもっていた。

  そのあまりの美しさに思わず見蕩れ、ほう、とため息を着いてしまう。

『バーナード、挨拶を』

  アルヴィンと名乗った使者の言葉に従いもうひとりの使者が窓から顔をにゅう、と出した。彼はその身体の大きさ故に応接室には通せなかったのだ。

『こんな所から失礼します。同じく尊き主から名前を賜りましたバーナードと言います。強き熊という意味でございます。まあ私は鳥ですがね。種族はモア、遠き星の記憶の彼方で滅んだ巨大な鳥です。』

  窓から差し込まれた頭は私の頭より大きい。何よりも特徴的なのは私を縦に3人積んでもなお届かない大きな背丈とドラゴンのように逞しく雄々しい脚だ、その蹴爪に砕けぬものはきっと無いと思えてしまう。
  そしてひょろりと長い首に鳥と言うにはあまりにも細く毛のような羽、しかしその毛は硬質で見るからに硬そうだった。

『嗚呼忘れていた……我らの種族はヘビクイワシ、同じく古き星の記憶の彼方で滅んだ鳥の1種だ。世界で一番美しいと評されたこともある』
「とっ…」
『と?』

  ラタがおっちゃんの膝の上から使者様たちを指さす。その身体は心做しかわなわなと震えている。

「とりしゃーー!!!!!!」
『鳥だぞ?』
「ラタ!人様を指でさすんじゃない!」
『人様というか鳥だがな』
「とりしゃー!!」
「ラタ!」

  アンドレーが牢屋に入っているせいで面倒を見てくれる奴らがいないため連れてきたが、ハッキリ言って悪手すぎるだろたぬき親父。

「しゅごーいはねきれー!らちゃもとりしゃなるー!」
「ラタ!しーっしーさなさい!」
『はっはっはっ、気になどしないさ。我等は子供が好きだ。幼子は元気あるべきだ』

   気分が上がりすぎたのか何度も突き上げられる拳が親父の顎を捉えて真っ赤になっている。

「とりしゃ!おっきとりしゃ!みて!おっきぃとりしゃー!!」

  ついには興奮しすぎて先程の私にしたようにおっちゃんの耳をグイグイ引っ張っている。
おっちゃん、ざまぁ。

「…使者様。それでは法律の国までの道のりとこれからのことについてお話しましょう」
『親父殿と幼子はいいのか。置いておいて』
「置いた方が話が進みます」
「おい、うさぎ耳!お前ちょっとは助けろ!」
「とりしゃー!とりしゃー!」
『…いいのか?』
「いいんです」

  閑話休題。
  真面目な話に戻ろうか。
姐さんが興奮するラタを受け取ると、驚いたことにエラグレース様──ヘビクイワシ様の小柄な方(念話から判断して女性)──とバーナード様があやすのを手伝ってくれている。
鋭い爪や嘴を優しく使い、ころころと転がすとラタはきゃあきゃあと高い声を出して喜んだ。

『それでは訴訟相手の確認をする。人神教徒の聖女の人族シューナ、猫獣人リーナー、龍人族 アレッア、同じく龍人族カレッタ、鳥人のターニャ、人族のセーイラ、人族のカサンドラ。そしてガリア王国政府。間違いはないな』
「間違いはありません」
『訴訟内容は法律の国が各国に定めた最低限守るべき人権の侵害、奴隷の権利保護法違反、性行為等年齢規制法違反、ガリア王国規範法違反。細かくは書類に通知されたものだ確認を頼む。』

   亜空間から取り出された書類におっちゃんと目を通す。細かい文字に目眩を覚えながらも一つ一つ確認をする。

『求刑と慰謝料を仮に計算したものだ』
「…っ!?」

  ペラリと見せられた紙にはまさに天文学的数字が書いてある。

「こ、こんなの払えるわけないですよ。いくら勇者でも」
『払えなければ奴隷になればいい。我等はそこまで配慮はしない。罪は罪であり、あくまでも罪をそそぎきれぬものが受けるものが罰であるのだから』
「…そう、ですね」
『それでは日程の確認をするぞ。まず出発は2日後、連れていくのは奴隷商に所属する人間全て。望むものは法律の国で保護。あっているか?』
「はい、間違えはございません。」 
『西の門から出て撹乱を兼ねて山を超えるが女子供が多いように見受けたが、大丈夫か?』
「大丈夫です。ここから3日は晴天が続くし、山の道も乾いている、女子供を中心とした部隊を先行させその歩みに合わせて行軍すれば無駄な脱落者も少なくなると思います」
『そうかでは────』
「こちらは─────」

  話し合いは、飽きてきたラタがアルヴィン様にタックルをかますまで続けられた。
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