とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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第1章 オディオ王国編

第8話 王国史の嘘と頭の悪い言いがかりを掛けられた件

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着々と水面下で進行している俺のオディオ王国脱出計画は細心の注意を払って、アリシア王女と国王達には察知されずに順調に進んでいる。

気づかれていない最大の要因はアリシア王女達が俺を完全に侮っているからだ。

このオディオ王国は魔術選民思想が強く、この世界では魔術の一分野になっている錬金術だが、他の火などの元素を扱う魔術よりも無能扱いされている。だから、その錬金術師である俺の風当たりは当然強い。

国王は駄メン達には担当者を用意していたが、俺には誰もつけず、書庫を解放して座学と実戦訓練後に設けられた各職毎の訓練時間で俺は完全に放置された。

ポニテ少女もサムライというオディオ王国では誰も就いている者がいない希少クラスだったため、俺と同じく実戦訓練後は自習という名目の放置をされている。

彼女はその時間を調べ物に当てるべく、俺が利用している書庫にやってきている。彼女の目的は自身の魔術習得方法と元の世界への帰還方法を見つけることだ。

2週間探し続けているけれども、彼女の成果は芳しくない。両方とも閲覧できる関係書物を総当たりしたが駄目だったのだ。

念のため、俺は立ち入りが禁止されている禁書庫に潜り込んで、元の世界に戻る方法が本当にないのか、一応調べたのだが、なかった。代わりにわかったのは知りたくなかったこの国の黒歴史と現国王のことだった。

この国は先住していた温厚な竜族1体を騙して毒酒飲ませて瀕死にし、生きたままその素材を剥ぎ取って、当時ならず者の平民だった初代国王が『龍殺し』を名乗って王国を建国してできた国だそうだ。

土地を荒らす邪悪な竜から命を賭して初代国王は勇敢な仲間と闘ったという座学で学んだ王国史はなんだったのか……まぁ、元の世界の歴史でもよくあることだ。仕方ないね。

初代国王の仲間で最高位魔術師だった王妃が作った特殊な魔術の呪いで王家に降りかかる不幸を全てその龍族に押し付けて、このオディオ王国は繁栄しているらしい。他の土地が天災にみまわれてもオディオ王国だけ無事だという。

初代国王が捕らえた件の龍族の生死と存在は現在不明。王城を改築した時に捕らえていた場所が王城の図面上から消え、改築前の古い図面は消失してしまったとある。

ちなみに俺がこの事実を知った記録の著者は先代国王、現国王の実弟で、既に故人。

現国王と対極の実直、誠実な国王に相応しい人物だったことが、筆まめなその手記から読み取れる。

その手記によると、自身が兄に暗殺されることをスキルの【予知夢】を通して知ったものの、暗殺方法が多岐に渡って全てを回避することができなかったようだ。

手記の最後はオディオ王国は兄が国王になったら行う勇者召喚が引き金となって滅びると共に、先祖が捕らえていた龍族が解放されるだろうという【予知夢】があったという言葉で締められていた。

なんかフラグっぽいものを感じるけれども、王国から脱出しようという俺には囚われた龍族は全く接点がないから関係ないはずだ。

それ以前に、王城内に未だにその龍族の存在を発見できていない。

隠し部屋で特殊な結界の中にいるのか、創ったスキルの【索敵】と【マップ】の察知範囲内にスキルレベルをあげたから王城全体は収まっているものの、その龍族の存在は全く確認できていない。もしかして既にお亡くなりかな。



「おい、貴様! アリシアを襲ったな!!」

駄メンと脳筋の暴走騒ぎの翌日の朝、俺が朝食を摂った後に遅れて食堂にやって来た駄メンが開口一番そう言い放った。それよりも駄メンよ。王女を呼び捨てとか随分親しくなったんだな。


「はぁ? 何を言っているんだ?」

あまりに頭の悪い発言に思わず、聞き返してしまう。

当然、俺は駄メンが言ったことはしていない。夕食を終えて、日課のスキル作成をして、就寝している。元の世界での生活よりも健康的な生活をしているかもしれない。

「惚けるな!アリシアを無理矢理襲って乱暴をしたんだろうが!!」

脳筋も駄メンの言い分に便乗して怒鳴る。脳筋、お前もか。

「で、それはいつ、どこであっ、証言しているのはお前達と本人以外で誰だ? 俺がやったと言うなら、今すぐここにその証人とアリシア王女も連れて来て物証も用意して証明してみせろ」

「なんでそんなことしなくちゃならないんだよ」

脳筋が悪態をついて言い返してきた。

「言いがかりをつけたのはそっちだ。俺が律儀にそれに付き合う道理はない。言い逃れできない証拠あるならば大人しく罪を認めてもいい。ところで、なんで2人の体からアリシア王女の香水の匂いがしているんだ?」

「なっ!?」
「何を言ってやがる!?」

狼狽える2人。本当である。香水は貴族間被ると不敬になるから、爵位が高い人が使う物は決まっている。特にその匂いがしたら俺は近寄らないようにしているから間違えようがない。

「それから、俺がアリシア王女を襲ったという場所はどこなんだ?」

「アリシアの私室だ」

駄メンが即答した。

「それはいくらなんでも無理があるだろう」

あまりの考えなしな策謀ともいえないお粗末な濡れ衣に俺は嘆息した。

「ああん? なんでだよ!?」

脳筋が凄むが全然怖くない。

「単純な話だ。まず、王女の私室という場所を近衛騎士やこの国の騎士が警備していないはずがない。仮に侵入者がいれば戦力となる勇者にその話がこないはずがない。少なくとも、俺が犯人なら、この食堂に来た時点で拘束されないとおかしいだろう」

「俺達を心配させないためじゃないのか?」

「それこそ何故だ。俺達を心配させることよりも王女の身の安全が軽いはずないだろう。次に、俺はアリシア王女の私室がどこにあるのか知らないし、興味がない。ああ、女性に興味がない訳じゃなくて、アリシア王女は魅力的な女性かもしれないが、俺の好みのではないからだ」

いけ好かない女性ではあるが、不敬になりかねないし、ホモ疑惑は勘弁なので、自己弁護する。実際、俺はスキルでこの王城の構造を把握しているから、アリシア王女の私室が俺の割り当てられた1階の部屋から最も離れている西の尖塔の最上階、5階相当の高さにある部屋であることは知っている。だが、それを馬鹿正直に言うほど俺はお人好しではない。

また、王女の私室まで行くには階段を登って、大廊下を通過して、さらに階段登って屋上の庭園を通過、塔の入り口からまた階段を登っていかなければならない。

ここまで少なくとも、警護している兵士や騎士に最低でも6回は遭遇しないといけない。更に塔の中は侵入者対策のえげつない魔術トラップが多数設置されている。

事故を防ぐため王女は親しい人間には私室に気軽に来れるように西塔の途中の部屋まで転移できる魔導具を渡している。また自分専用の魔導具を肌身離さず身につけている。その転移魔導具は王女の許可がないと使えない代物だから譲渡された人物以外は奪っても使えない。

当然、俺も持っていないから、王女の私室に行くには先に説明した罠満載の道を地道に進まないといけない。

ちなみに、ここまで調べているのは本当の最終手段である王女暗殺のためだ。

あくまで俺はレ○プ派ではなく、和○派である。

「ふっふざけんな!」

激昂した脳筋が拳を振り上げて俺を殴ろうとしてきた。

< System EX Stand by >

不意に俺の脳内に女性の機械音声が流れて、網膜に一瞬、赤文字の英字表記が浮かんで消えた。直後、急激に五感が研ぎ澄まされ、周囲の動きが緩慢になる。

「……」

保険で創っていた致死攻撃に反応する受動系パッシブ特殊身体強化スキルが自動発動したから、あの拳を素でくらうと俺が死ぬ恐れがあるということだ。

流石、脳筋。行動した後の結果を何も考えていない。いや、これもアリシア王女達の狙いかもしれない。どんな形でも目障りな俺が殺せればそれでいいと。

キレて正気を失ったからか、脳筋は無駄に大きく振りかぶって腕の力だけで殴ってきた。昨日の駄メンとやりあった時のものよりも比べものにならない位お粗末な拳だ。

俺は殴りかかってきた脳筋の手首を捉えて、

「ぐがぁッ!?」

脳筋の殴りかかる勢いを利用した【一本背負い】で俺は脳筋を石畳の床に背中から叩きつけた。その余波で脳筋を中心にきれいなひび割れが放射状に床に広がった。

一応、作ったスキルの【手加減】は有効にしていたから、脳筋は死んではいない。

脳筋は体の骨を何本か骨折しているけれども、自業自得だ。どうせ国王と王女がいやいや、回復係のあのロリっ子が回復魔法で治すだろう。

俺が脳筋の腕を離したところで騎士達がやってきて、俺は問答無用で逃げられないように周囲を囲まれてしまった。
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