とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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第4章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール~北方封鎖地編

第97話 脳筋共を手っ取り早く黙らせるために模擬戦することになった件

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「面倒だけれども、折を見てやっとかないといけないのも、とっつぁんが言うの無理はないんだよな」

『わたしが付いていながら、ご面倒をお掛けして申し訳ありません、主さま』

そう言って、ルシィが悲しげに俯いてしまった。

すると同時に、俺達と対峙している冒険者達に周囲から一斉に殺気が叩きつけられた。

「「「!?」」」

震えて気の毒だが、ルシィにこんな表情をさせた元凶である以上、同情はしない。

そんなことよりもルシィのフォローの方が重要だ。

「ああ、ルシィが悪い訳ではないから大丈夫だよ。悪いのは聞き分けることができない人達だから」

俺がそう言って、頭を撫でると、ようやくルシィは顔を上げてくれた。

数多の殺気はルシィのファン達によるものだ。

カイロスから戻ってきてから明らかになったことだが、飛鳥、クロエ、ベルにルシィを加えた4人にはそれぞれに非公式ファンクラブが結成されていて、メルキオールで秩序を構築していた。

そして、そのファンクラブ間は全て同盟関係にあり、ファン同士は元より、クラブ間でも争いは厳禁となっている。

また、彼女等が行く先で不埒な行いをしそうな輩はファンクラブ会員達によって、秘密裏に粛清されていたりする。


閑話休題、これまで俺達はほとんど幸運でランクが上がっていると見られてもおかしくない状況であっため、今後も今回同様に俺達の実力を疑う冒険者アホウが出てこない様にするためにも、とっつぁんが設けたこの訓練場での模擬戦は意味がある。

ちなみに、俺とルシィは対価として、この後、とっつぁんの奢りで冒険者ギルドの食堂で飛鳥とクロエ、ベルも呼んで食事をすることになった。

"宿木亭"のカレーとは別の進化街道を爆進して大人気の冒険者食堂のカレーを堪能できるいい機会だ。5人分の料金値段で大体銀貨1枚分。1万円相当になるので対価としては充分だろう。

そして、当然、俺とルシィは手の内を晒さずに完勝するつもりだ。だから、俺は受付嬢に食ってかかっていた冒険者パーティーとの模擬戦を承諾した。

それから、向こうの冒険者達は俺達に勝利できたらと言う条件付きで、モフモバニーの討伐依頼の受注できることになった。

「おいおい、たった2人で俺達の相手をしようってのかよ」

「私達を舐めすぎ……」

「……」

俺とルシィを指差した剣士と女魔術士が愚痴を言うが、もう1人の女狩人は先ほどの注視から一転、俺達を見て怯え、震えている。

それもそのはず、さっきまで使【鑑定】が使からだ。

俺が彼女の【鑑定】を【封印】で使えないように封じているから当然だ。理由は俺がから彼女は俺とルシィを【鑑定】しようとしていたからだ。

【鑑定】持ちは故意に相手のステータスを【鑑定】をしてはならないことが暗黙の了解である。それを破ったから当然だ。

Cランクの冒険者であれば、このことは常識であり、一言謝罪があれば俺も【封印】まではしなかったが、謝罪もなく敵対関係になった以上、容赦をするつもりはない。

ちなみに、向こうの面子の情報はステータスを含め、【鑑定】で把握済み。

受付嬢に食ってかかっていた冒険者は重戦士で、剣士の男と一緒に敵を食い止め、女魔術士と女狩人の2人が間接攻撃で援護というのが戦術らしい。他にはなにも戦法はない様だ。



そんなこんなで俺とルシィ、対戦相手であるCランク冒険者パーティー阿呆共はとっつぁんの先導で、冒険者ギルドの模擬戦場に到着した。

所謂、闘技場の様な場所で、ここでは致命傷を受けても、控え室に転移するだけで死ぬことがない特殊結界が張られている。この特殊な結界は古代の魔導具で、現存が正確に確認されているのはメルキオールこことバルタザール騎士王国の闘技場にしかないそうだ。


「さて、ここにいるのはCランク冒険者以上だから、細かいことは省き、要点だけを伝える。ここで殺し合っても死ぬことはないから思う存分に殺り合うといい。だが、この場を離れて、ここでの遺恨を持ち込むのはご法度だ。そのことを承知の上で、この魔術誓約書ギアスロールに署名してもらう。双方異議はないな?」

とっつぁんが俺達に問いかけた。

「問題ありません」

「こっちもだ」

俺の返答にルシィが追従して頷き、相手方も同意して、魔術誓約書に署名した。

女狩人だけが震える手で、最後まで署名をすることを渋っていたが、結局、女魔術士によって、強引に署名させられた。

「とっつぁん、あれはいいのか?」

俺は女魔術士の所業をとっつあんに問い質したが、

「どうしても署名をしたくなければペンを投げ捨てればよかったのにそれをしなかった彼女の責任だ。なに、死ぬことはないし、今回のことは犬に噛まれたと思えば大丈夫だろう」

「俺達、犬扱いかよ……なんだったら、犬の着ぐるみでも着るか?」

「おいおい、流石にそれは勘弁してくれ、そんなことをされたら、やられ役のあいつ等が気の毒だろう?」

俺の冗談にとっつぁんは、後半は俺の模擬戦相手達に聞こえない様に小声でそう言って、苦笑いを返してきた。

『……わんわん姿の主さま……』

そして、ルシィはルシィで物思いに耽っていた。

「あ~、ルシィ、これから模擬戦だから、戻ってきなさい」

『! はっ、はい!』

ルシィが慌てた返事を返してきた。まぁ、無理もない。ルールミナスの記憶を継承しているとはいえ、まだ生まれて1年経っていない。精神がまだ未熟な状態であるのも仕方がない。

また、孵化を早めたデメリットがようやく判明した。どうやらルールミナスとしての自我意識は薄く、ルシィの人格にほとんど統合されているらしい。

クロエは酷くこのことを後悔していたが、ルシィが一時的にまだ残っているルールミナスの自我と入れ替わって慰め、新しい自分であるルシィを頼むと言い残したことで、なんとか立ち直った。

ちなみに、クロエが完全にクロノエクソスと同一なのは俺が速成しないで適切な魔力量を供給していたからだった。

「飛鳥が作ってくれた着ぐるみがルシィの分もあるから、帰ったら着てみるか?」

『はい、お願いします』

素直ないい子に順調に育っているルシィは末妹ポジションで、すっかり俺達に馴染んでいる。

「和んでいるところ悪いが、準備はいいか?」

「ああ、大丈夫だ」

『はい』

とっつぁんの問いかけに応えて、俺はルシィと臨戦態勢をとり、手短にルシィに作戦を伝えた。

『お任せください』

ルシィは心強い返事を返してくれた。

「ではこれより、模擬戦を開始す終了条件はどちらかが全滅するまでとする。始め!」

とっつぁんの勇ましい開始の合図の声が模擬戦場に響いた。

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