女神様にスキルを貰って自由に生きていいよと異世界転生させてもらった……けれども、まわりが放っておいてくれません

剣伎 竜星

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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活

第16話 心当たりを総当り。ほうれんそうはどこでも大切なのは変わらない

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家庭教師の授業を開始して、3日が経過した。

レティの実技の訓練は予定通り順調に進んでいる。

レティは俺が用意した全属性の術式を習得した。彼女が最も魔術が行使しやすいと選んだ術式達は実際に【解析】で確認したが魔力の無駄が他のものよりも少なかったもの。

まぁ、それらは全て既存の術式で最も効率と効果が高く、扱いやすかったものを更に魔改造した代物達だ。

それらを使えるのは俺とフレア、俺の弟と妹、俺が勉強を教えた学園の後輩やお世話になったウェルダー公爵家の一部の人達のみ。教授とおそらくレティの試験官に名乗りをあげるだろう学園長には教えていない。

そして、レティの意外な才能も開花した。俺が見たところ、レティの魔力制御の才能は天才魔術師と言われているフレアの上回れる素質がある。

魔術発動時に多くの魔術師が術式に余分に魔力を流してしまうことが多々あるのに比べて、レティは術式に流す魔力は澱みがない上に素早く、ほとんど無駄がない。

これは対人戦で有効な技能で、相手がレティの攻撃性魔術の行使に気がついたときには近距離であれば下手すると対応できずにレティの放った魔術が着弾する。

相手はレテイが使った魔術を認識できても対応時間が極めて限られてやられてしまう可能性が高い。

その一方で、シャルの実技訓練は彼女の魔術回路の調整と魔力量の増加に関しては順調なものの、魔術の発動に関しては成功していない。

2日目、3日目の今日も【魔力循環】で俺がシャルに送った魔力は彼女の体から俺の体に送る段階になって。まるでだ。

残念ながら俺の【解析】もアイザック様との模擬戦を経て、レベルが2から3に上がったけれども、最大まで上げきれていないため万能ではない。

開始当初はモチベーションが高かったシャルも流石に解決が見えない現状に、今日の授業終了後には気落ちしてしまってその表情は暗かった。

ここ3日の【解析】で断片的な情報しか得られていない。しかし、俺はこの事象の原因に心当たりがあり、大方の目星をつけた。そして、またアイザック様に面会の約束をお願いした。


「シャルの魔術行使がやはり難航していると聞いたが、本当かね?」

開口一番、アイザック様は難航していることを問いかけてきた。

「はい。それに間違いはありませんが、ここから先は人払いをお願いします」

否定しても無駄なので、俺はさっさと現状を肯定する。そして、人払いをお願いして、結界魔術の1種である『静音領域サイレントフィールド』を張った。

「むっ、わかった。セバス!」

「はい。既にこの部屋の周囲に配置していた者達は会話が聞こえない位置に行かせました」

俺の『静音領域』に反応して、アイザック様は仔細を聞かずにセバスチャンさんに命じて対応してくれた。

「ありがとうございます。これから僕が口にする事柄は御家、アウロラ公爵家にはご都合が悪い内容で、他言無用のことであると僕は判断しています。

けれども、このことがおそらく、シャル様が魔術を行使することができないことに確実に関連していると僕は考えています」

「ふむ、そのための人払いか……いいだろう。話しを続けたまえ。ディーハルト君」

そう言って、アイザック様は俺に話しを続けるよう促した。

「ありがとうございます。単刀直入に申し上げますが、御家の秘術の1つである『黒神蛇亀』ですが、何らかの理由で現在は失伝しており、アイザック様は御使用できないと愚考しますが、いかがでしょうか?」


「っ!……どうしてそう思うのかね?」

一瞬だけだが、アイザック様は驚愕の表情を浮かべ、俺に冷静に理由を問いただしてきた。

「理由はこれまで調べた書物の情報をまとめると『黒神蛇亀』は王国の公爵家で伝わっている秘術の中で必要となる魔力が膨大であることが分かっているからです」

それでも『黒神蛇亀』の行使に必要な消費魔力量は公爵家に伝わっているとされている秘術の中では第2位。最も魔力が必要な秘術は『雷帝白虎』と判明している。

「また、開放していただいた書庫の奥深くにあったアウロラ公爵家当主だったと思われる方が書かれた手記がありました。流石に原本を持ち出すのは憚られたのと、無関係の内容も多かったため、こちらに要約をまとめておきました」

俺はそう答えて、これまで見たこともないほど厳しい表情を俺に向けているセバスチャンを介してアイザック様に要約をまとめたノートを渡した。

「……はっはっはっは。本当に君は良くも悪くも教授あいつの教え子。いや、それ以上なんだね」

「旦那様?」

ノートを一読して閉じ、突然笑い声を上げたアイザック様の反応にセバスチャンさんは困惑の声をあげた。

「ああ、セバス。心配しなくて大丈夫だ。ディーハルト君への警戒は解いて構わないよ。寧ろ、ディーハルト君への敵対行為は彼がシャルやレティ達に不逞な行為をしたり、禁止する」

「っ! 畏まりました!!」

シャル様やレティさんに不逞な行為って、俺はそんなことをするつもりはないのだがと俺は内心で嘆息した。

とはいえ、セバスチャンさんがこれまで通りの状態に戻ったのはありがたい。

「ディーハルト君、続けたまえ」

そう言って、アイザック様は俺に話しを促した。

「はい。発見した手記から推察したところ、『黒神蛇亀』の発現、行使には膨大な魔力、少なく見積もってもAランク魔術師50人分が必要です。畏れながら、現在のアイザック様の全魔力を用いても『黒神蛇亀』の術式を発動させることは叶わないと思われます。現在のシャル様の全魔力量でも同様です。

更に、これまでシャル様が魔術行使を試みたときに消費した魔力によって『黒神蛇亀』は顕現には至れていませんが、自我意識をもつレベルまでは発現していると思われます」

「つまり、君はシャルの魔術行使の失敗はその『黒神蛇亀』にあるというのかね?」

「はい。シャル様に魔力がどういったものであるか認識していただくために僕の魔力をお渡しした際に、シャル様の体内に未見の術式を確認できました。

確認できたのが一瞬だったのと、術式が上級魔術の術式を遥かに上回る膨大な文字数だったため、詳細を確認することはできませんでしたが、『黒神蛇亀』の文字列とその発現時の大きさについては確認ができました。

つきましては明日、シャル様本人の合意が得られましたら、先日、僕とアイザック様が模擬戦を行った場所で『黒神蛇亀』の顕現を行いたいと思っています」

術式の配列は英文やプログラム言語同様に一定の法則があるため、それを利用して『黒神蛇亀』の文字を確認できたのだ。

「それは明日でなければならないのかね?」

探る様な視線でアイザック様は問いかけてきた。

「はい。早ければ早い程、シャル様魔術訓練の時間を多く費やせます。シャル様の精神状態を考えても早期解決が望ましいです。

僕の目論見が正しく、『黒神蛇亀』の顕現に成功すればシャル様が魔術を行使できないという現状を打破できます。また、少なくともシャル様が今後、『黒神蛇亀』によって魔術の発動を阻害されない状況に僕がします」

「……いいだろう。私とナターシャ、そして、セバス、マーサ、レティがそれに立ち会うことを条件に許可する。他に私が協力することはあるかな?」

少しの間の後、アイザック様はナターシャ様達と共に立ち会うことを条件に承諾された。もちろん、これは俺の想定内だ。

「ありがとうございます。その条件は大丈夫です。ただ、当日に目にされたことは口外しない様、立ち会う方々に周知してください。そして、場合によってはの戦闘が勃発するかもしれませんので、対軍用の結界魔導具の用意をお願いします」

「わかった。手配しよう。ディーハルト君、シャルのことは任せたぞ」

「はい。シャル様には危険が及ばぬ様、微力を尽くします」

アイザック様の承諾の返事を聞いた俺は明日の準備のためにアイザック様達に見送られて執務室を後にした。
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