長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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エルフの国からのお見合い ④

「二週間後に南門からですね……エキドナさん、キズナと当日宿直入ってもらえます?」
「いいよー。二週間かぁ……覚悟決めるかぁ」

 微妙にぐったりと椅子にもたれかかるエキドナが悲壮な声を上げる。
 
「いい加減諦めて桜花さんのメンテを受けてくださいよ……当日まで休暇にしておきますから」
「そうだぜ姉貴、出来る限りの備えはいつもしておけって口を酸っぱくして言って来るだろう?」

 お腹やらいろんな所が破損中のエキドナさん、せっかくまともな整備を受けられる機会なのに乗り気ではないのだ。

「だってさぁ……なんかめちゃくちゃ弄られそうで怖いんだもん」
「だからってこのままだと半年持たないですよ……内部バッテリーだってもう30パーセント切ってるんですから」
「ううう……分かった」

 エキドナの戦闘力は弥生達の陣営にとってアーク対策に欠かせない。それ以前にその痛々しい身体は見てて心苦しい所もある。ここ数日特にエキドナはじっとしていることも多くなり毎日消耗していることが同居している真司や文香もわかっていた。

「みんな心配してますから……ねえキズナ」
「そうだぜ、またあのアークが来たら姉貴を盾にするんだからしっかり治してくれ」
「妹が冷たいっ!! 肉壁代わりだなんて!!」
「金属製だから鉄壁な?」
「そこじゃねぇよ!?」

 そんな姉妹のやり取りを放置して、弥生は手元の書類に示した警護計画にエキドナとキズナの名前を書き入れる。後は一度王城にケイン王子が訪問のために向かうルートを決めて、警護の衛兵さんたちの配置を考えていけば一旦出来上がりだ……初日分だけだが。

「これでとりあえず良いかな。お昼過ぎにクロウ宰相とオルちゃん来るから配置の確認だね」
「じゃあ俺と姉貴は爆乳眼鏡の所に行くぜ。昼飯は……爺さん達に買ってきてもらうよう伝えとくぜ」
「うん、おねがいするね~」
「食堂が無事だったら良いんだけどな……あの定食マジで美味いから」
「オルちゃんが三日くらいで直るって。すごいよね建築ギルドの職人さん」

 先日の洞爺とレンのタックルで統括ギルドに大きな穴が出来上がったのだが、よりによって統括ギルドの職員がおなかを満たす食堂が全壊してしまった。
 そのせいでお弁当組はともかく食堂組は昼休憩にどこかへ食べに行くしかない。
 しかし、中にはお昼の間業務にあたる受付の皆さんもいるため臨時の出前班が結成された。その筆頭が洞爺と邪竜族のレンである……まあ当然だった。

「なんかもう無心で外壁のレンガ組んでたよね。あれが休日にも関わらず働いていた者たちの顔だ……面構えが違う。とかテロップで流れてそうだねぇ」
「まったく、レンちゃんと洞爺お爺ちゃんは反省してもらわないと」
「宰相の自宅を発破処理した奴が何言ってんだよ……」
「……きっと不可抗力だったんだね!!」
「手のひらクルクルだねぇ、あっはっは」

 じとぉ、と重さを持った視線に貫かれ顔を逸らす弥生さん。
 やらかし筆頭は彼女である。

「……まったく、常識人はつらいぜ。ほら行くぞ姉貴」
「はいはい、と。うあたっ!?」

 カクン、と膝の力が抜けて転びそうになるエキドナをキズナが腕をつかんで立たせた。
 すまないねえ、とキズナにお礼を言いながらエキドナは弥生に手を振って部屋を出ていく。

「大丈夫かなエキドナさん」

 よたよたとよろけるエキドナを心配しつつ、手元の書類を整理し始めた弥生の耳にドアのノックの音が響く。
 
「はーい?」

 つい今さっきまでいたキズナたちが忘れ物でもしたのだろうかと首をひねるが、それだったらドアをノックしないだろう。性格的に。

「お邪魔しますね」

 キィ……と控えめに開けられたドアの隙間から女性の声が弥生に届く。

「あ、楓さん! いいですよー!」

 部屋の主である弥生の言葉に、楓と呼ばれた女性がバスケットを片手に入ってきた。

「お疲れ様です。弥生ちゃん、さっきキズナちゃんとエキドナちゃんとすれ違ったけど……どこか悪いの? エキドナちゃんふらふらしてたわ」

 心配そうに頬に手を当てる楓、その姿は綺麗な真麻色のカーディガンと白いブラウスに薄水色のフレアスカートでおっとりした印象を受ける。
 
「大丈夫ですよ。今日これから入院です……しっかり治してきてねーって事で」
「そうなのね。ならいいけど……これ、お昼ご飯に作ったの。照り焼きチキンと卵のサンドイッチ。一緒に食べない? 真司君と文香ちゃんにはもう持って行ったから」
「照り焼き! やったぁ!!」
「ふふ、じゃあお茶入れるわね」

 ことん、と来客用のテーブルに籠を乗せて部屋の隅っこに備え付けられている簡易キッチンに向かう楓の腰には、その容姿に似つかわしくない重厚な存在感を放つ刀があった。
 その刀はとある人物が所持しているものとそっくりだ、

「あ、楓さん刀のベルト買ったんですね」
「ええ、さすがに背中とかに背負うのは邪魔なので……作るのもなんか上手くいかなかったから買っちゃった。いいお店教えてくれてありがとうね」
「いえいえ、洞爺お爺ちゃんは命の恩人なので」
「……その恩人がこんな事態になってごめんなさいぃ」

 ずるずると膝から崩れ落ちる楓。

「あ、あはは……怪我人いませんしあの状況じゃ仕方ないですし」

 マリアベルを見た途端、一刻の猶予も無いと短絡的に突っ込んだ洞爺達の代償は大きかった。
 なんでそんなことになったかと言うと……

「私と息子に会わせたくないとか……夫の近年まれに見る阿呆な言い訳聞かされて心が折れそうです」
「いや、その判断は正しいんじゃないかなぁって思ったり……」
「ちゃんとされてる方でしたよ? マリアベルさん、とっても綺麗な方でしたし」
「……それだけならいいんですけどね。うん。とにかく気にしないでください」

 トラウマってどうしようもないからトラウマなのである。

「まさか新居に着く前に謝罪行脚……ついうっかり夫を斬り刻みそうになりました」
「……(怖かったなぁ)」

 まあ、家族の新天地を案内しようとしたらいきなり建物の屋上に降ろされて隣人の竜と夫がこの国で一番重要とされる建物に突っ込んでぶっ壊したのだ。
 その時の事を思い出したのか、楓がかしゃん、かしゃん、と刀を鳴らす。
 
「皆さんが優しい方たちでよかったですよ……もう、洞爺さんったら」

 ちなみに毎晩洞爺の悲鳴が仮住まいの宿から響いていたという衛兵さんの報告は弥生にも届いていた。ご近所迷惑なので何とかしてくれと言う嘆願と共に。

「浩太君は馴染めましたか? 妹の文香と同い年だから困ったら何でも言ってくださいね」

 話題を変えるために弥生は彼女と洞爺の一人息子、浩太君の事を聞いてみた。
 洞爺と違いとても大人しく、のんびり屋の彼は人見知りな所もあるが文香と同じクラスに入って少しづつ友達ができているそうだ。

「そうそう、文香ちゃんが昨日ラミア族……で良いんでしたっけ? 足が蛇の女の子と三人で遊びに来てくれたんですよ。びっくりしました」
「いろんな人が居ますからね。皆いい人たちですから仲良くできると思いますよ~」

 人種や種族が違うくらいでどうのこうの言う人もいない。
 この国に住む上で共通しているのは何かを学んで手に職をつけようとしている人たちばかりだ。

「今度エルフの国の王子様も来ますから……そういえば楓さんって牡丹さんから聞いたんですけどすごく強いとか?」
「え? あ、まあ……一応当主なので。洞爺さんには何回かに一回勝てるかなぁ程度ですけど」

 それでも十分凄い、と弥生は思うのだが本人はあっけらかんとしている。

「ちょっとアルバイトしてみませんか?」

 ちょうど洞爺と組んでもらう相手が決まらなかったのでこれ幸いと楓をスカウトするのだが……ちょっとした騒動が巻き起こるのはまた別の話。

「はい?」

 キョトンとする楓の腰に携えられた刀がしゃりん、と不気味に音を立てた。
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