長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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最終決戦 ① 神の思惑

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 ――じゃあ、それができればクロノスさんは介入しなくても良くなるんですね?
 ――約束するよ。だって……僕はアリス以外、どうだっていいんだから

「弥生! 聞こえてるか!!」

 キズナの張り上げた声に、我に返る弥生。
 ついうっかり物思いにふけっていたらしい。

「ごめん、プラン見直してて聞いてない!」
「ああ、今の所アーク以外の連中は無事掃討できそうだ! 代わりにパパとママへさっきから連絡できねぇ! 姉貴に何かあった!!」
「了解! 多分アークがなりふり構わなくなったんだと思う、可能なら戦車に乗った夜音ちゃんとぬらりさんを増援に! マリアベルたちが居るから他のは何とかなると思う!!」
「分かった!!」

 第三フェーズを開始してからすでに数時間、弥生の考えていたプランからは大分外れていたが……夜音が見つけた禁忌武装の付喪神化。
 氷雨と焔のアルマジロ、キズナが稼いだ時間のおかげで戦局は何とか持ちこたえている。
 何よりクロウやオルトリンデが裏方として、各所に30年前の経験を生かしたアドバイスを絶えず供給してくれているのも大きい。

「真司、オルちゃんに通信。避難の状況は?」
「オッケー、繋ぐよ」

 アカシアが押している運搬用の馬車の上で弥生が真司に頼む。
 ただ押して歩くだけならもはや搭乗者が要らないという弥生の魔改造の成果で、弥生は積み荷の起動用の信管などを片っ端から設置していた。

「しっかし、このバイクなんなんだろうな?」

 相変わらずこちらの言葉や行動は理解できているらしく、キズナの乗るバイクはまるで生き物の様にレスポンス良くこちらの意図に答えてくれる。
 しかも戦闘用と言うだけあってゆっくりと機能を確認したら、予備のナイフや拳銃、前方に向けて二門の小口径機銃も備えられていて……確かにキズナの戦闘スタイルに合わせた調整がされていた。

 当のバイク、ファングはリアルタイムでエキドナから貰った端末のアカウントと連携して今も戦場の様子を逐一、必要と思われる情報を選別して報告までくれている。

「さあ、桜花さんも知らない型番だって……エキドナさんは何か言ってた?」
「姉貴はなんかこう……不思議そうな顔してただけだな」
「そっかぁ」

 まあ、すべてが終わった後に詳しく調べればいい。
 ファングのおかげでキズナの戦闘力はかなり底上げされている。
 
「姉ちゃん、オル姉とつながったよ……そのまましゃべって」

 折よく、真司とオルトリンデの回線がオンラインとなりファングの件は持ち越しとなった。

『弥生、避難状況ですが現在最後のグループが地下道へ入りました。雪女の雪菜さんが全力で氷の壁を作ってくれています……それと、国内に侵入したディーヴァの数がかなり多いです。蜘蛛の皆さんが頑張ってますが……増援なんて無いですよねぇ?』
「ごめんオルちゃん、もうしばらく持ちこたえて。前線がかなり落ち着いてきたはずだからバステト団長に確認する」
『ああ、ならこっちから連絡します。確か牡丹と楓もレンと一緒でしたよね?』
「うん、どっちかが端末もってるよ」

 オルトリンデの落ち着いた声とは裏腹に、戦闘音はやかましく届いて来た。
 おそらく本格的に戦闘に入ったのだろうという事は嫌でもわかる。

『それと、先ほどアークの居るあたりでかなり大きな爆発が連続しています。弥生、本当に行くんですか?』

 地下道を移動中の弥生達は敵と遭遇しないで済んでいるのでかなり早く到達できる予定だ。
 しかしそれは……本気になったアークと洞爺達の戦闘の真っただ中に飛び込むことを意味する。

「大丈夫、アカシアもあるしキズナもいるから。それよりアリスさんとクロノスさんは?」
『あの二人はあなたと話した後どこかに……何をしようとしています?』

 おそらく突拍子もない事だろう。
 だからこそ今の内に確認しておく必要があった。

「ええとね、どこから話せばいいのやら……オルちゃん、アリスちゃんたちが元の時代と場所に帰ろうとしている事は知っているよね?」
『はい、30年前にもたまたま遭遇したと言ってました。その後建国の手伝いをしていたのですが……いきなり明日帰ると言って、それっきりでした』
「うん、うん……今回もほぼ同じ状況。違うのはこの魔物大発生の真っ最中にそれが起きるよ……大規模に」
『なんですって!?』

 よりによってこんな時に、そんな思いが強いが……オルトリンデは思い出す。
 確かに、30年前にも同じ事があったが本人たちの意図とは関係なくその周期は来ると言っていた。それを逃すと次はいつになるかわからない。

「桜花さんもカタリナさんもアークを倒す時の事故で時間を超えてきた。多分だけど……」

 慎重に言葉を選びながら弥生は続ける。

「私達の集まった原因……根本的にはそれがあると思う。だから、今度はその原因を……元に戻す為のものかもしれない」
『国民を逃がしたのは正解ですね……じゃあ、あの二人は』
「アリスちゃんとクロノスは二次被害が起きない様に飛竜に乗って発動場所に直行、さっさと通り過ぎて閉じてくれる」
『やれやれです。騎士達には上空に魔法陣が見えたら退避するよう伝えます。あの魔法陣めちゃくちゃ目立つので』
「お願い。じゃあ……行くね」
『ええ、そちらは頼みますよ!』

 オルトリンデは通信を切る。
 状況が込み合ってきて頭がパンクしそうだが……それはすべて弥生に投げる事にした。
 左手に紅く光る刃を持つ手斧を、右手に愛用の鞭を……そしてその背に。

「皆さん、絶対……そこから動いてはいけませんよ?」

 とうとう指揮所としていた統括ギルドに到達するディーヴァ。
 数体ではあるがオルトリンデが弥生との会話中に倒した。しかし、その代わりに開いた壁の穴からはさらに十体以上のディーヴァの影がこちらへ向かってきている。

「オルトリンデ監理官……」
 
 不安そうな書記官達の声に、笑顔で頷くオルトリンデ。
 すでに階下へと逃れても地下へは入れない。
 だからオルトリンデは決断する。

「ここを死守します」

 ――がらり

 崩れた壁の中から二人の騎士が立ち上がる。
 食い止めようとしたらディーヴァが数体、壁を壊す為だけに自爆したのに巻き込まれたのだ。
 
「イエスマム、くそ……油断した」
「自爆までしやがるとは思わなかった」

 指揮所の守りを担う二人の近衛騎士を連れて、増援が来るまで戦い抜くという決断を。

「何かあるとうるさい部下がいますので……わかってますね?」
「ええ、イスト! お前はオルトリンデ監理官だ。良いな!」
「了解!」

 イストが崩れた壁から騎士用の盾と不死族の騎士を伴って戻ってくる。
 
「では、いつも通り……仕事の時間です」

 悠然と歩み出る統括ギルドのトップ。
 普段は秘書部と騒いでいる印象が強いが……魔眼を無効化し、魔法を駆使し、鞭を振るう30年前の魔物大発生でアルベルトと並び、前線を駆け抜けた幼女。

「アーマード!」

 大盾を纏い、今再び死力を尽くそうとしていた。

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