エリーと紅い竜

きょん

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第十話 会議

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 荷物を持った三人は、改めてセレスティーヌの元を訪れた。

「準備は整ったみたいね。じゃあ一度試しに、私に変装してもらおうかな?」

 相変わらずの自分勝手な調子で会話を進めるセレスティーヌに連れられ、エリーは姫の身代わりとなる準備をしに別室へと姿を消す。

「まったく、お気楽なものだよ……」

 姫の姿が去ると、お付きの騎士であるクレールはため息混じりに愚痴をこぼした。
 その様子を見たミーナはこれを好機と彼に近づき、無垢な少女を精一杯に装いながら質問をする。

「あの、騎士様に聞きたい事があるんですけど……」
「クレール、と名で呼んでくれていいぞ。で、何かな?」

 疲れた表情を一転、青年は余所行きの爽やかな笑顔をミーナに向ける。

「じゃあクレール様、セレスティーヌ様は本当に勝てるのでしょうか? 相手は女王様でしょ? 軍隊だっているだろうし……」
「殿下は必ず勝利されるよ。君たちのような人々の助力を得れば増々その勝利は揺るがないだろうし、それに……」

 少女の質問に答えるクレールだったが、言葉の途中で口ごもり、ミーナの純真さを湛える瞳から視線を逸らした。

「……何にせよ、悪は滅びる定めなのだよ」

 誤魔化すように一度話を締めくくると、その後はクレールが会話の流れを支配した。もっとも、その内容は当たり障りのない事柄ばかりで、ミーナとジェフにとって有益とは言い難い事ばかりであった。
 そして、しばしの後にセレスティーヌと、彼女の身代わりに仕立て上げられたエリーが戻って来た。

「おまたせ~、どうかな?」
「これは上手に似せていますね。殿下の方が華奢ですが、側近の者でもない限り、ぱっと見には分からないでしょう」
「でしょ? 私の目に狂いはなかったわね!」

 盛り上がるセレスティーヌたちを横目に、ミーナとジェフは不安げな表情を浮かべる。
 当のエリーはといえば、久しぶりの化粧に息苦しさを感じながらも、窓に映る自分の姿を見つめていた。
 透き通るような白い肌にそれを包む薄緑のドレス、唇を艶やかに彩る紅と深緑の様な蒼い瞳。
 その姿はかつての貴族として生きていた頃の彼女が蘇ったようであった。

「なかなか似合うでしょ? もっとも、普段着の方が気楽で良いのだけれどもね」

 眉を八の字にしたミーナに気付いたエリーは冗談交じりにそう言った。そしてもう一歩、彼女の傍へと歩み寄ると、その耳元で小さく囁いた。

「大丈夫、上手くやってみせるわ」



 翌朝、三人は朝一番でセレスティーヌの部屋へと赴いていた。昨日とは違い、姫とその護衛の騎士クレールだけでなく、参謀と言われる役目を担うであろう者たちも数人見て取れた。
 もっとも、とても兵法や策略に長けているとは思えないような、田舎の農民の様な面構えの者たちばかりであったので、エリーは眉をひそめたのだったが。

「おはよう、こんな貧相な宿でごめんね? 良く眠れたかしら?」

 寝ぼけ眼を擦るミーナとジェフに呑気な挨拶をするセレスティーヌ。けれども二人とは違って、エリーは凛とした表情で姫に言葉を返す。

「おはようございます殿下、お気遣い感謝申し上げます。お陰で旅の疲れもすっかり癒えましたわ」
「そう! それは良かった! それと……その格好も結構可愛いんじゃない?」

 人を小馬鹿にしたような笑みで見つめる先、そこに立つエリーはといえば普段とは違っておさげ髪を結い、黒縁のなんとも飾り気のない眼鏡を掛けていた。
 すると、その言葉を傍で聞いていたミーナとジェフは一度互いの顔を見合わせ、エリーが装いを豹変させた理由を敏感に察知した。
 そして、セレスティーヌは彼女の耳元に顔を近づけると、他の者には聞こえぬように囁くようにこう言った。

「クレールと貴女のお友達以外は、エリーちゃんの本当の役割は知らないわ。みんなには私の補佐役って伝えてあるから、それらしく振舞ってね」

 言葉を終えた姫は、再び距離を取ると両手を合わせて何とも嬉しそうに微笑んだ。

「さあ、今後の事を話し合いましょう?」

 そして彼女は傍に控える自身の騎士に目配せをする。姫の護衛は主の合図を受け、部屋の中央に置かれたテーブルに地図を広げた。



「今現在、我々の居る街はここだが、これから我々はこの都市へと移動し、ある人物と接触する」

 始まった会議。部屋に居る人間全員が地図を覗き込んでいる中、クレールは指先をある一点へと滑らせた。

「今回の戦いにおいてその人物の援助は必要不可欠だが、接触地点への移動については問題が何点かある。まず一つは山脈越えだ。街道を使えれば良いのだが、あいにくあの狭路には関所がある。それをどう突破するかだ」
「山の中を突っ切れば良いんじゃねーの?」

 皆の真剣な雰囲気をぶち壊すかのように、ジェフが何ともとぼけた声色で発言をする。この言葉を聞いたミーナは苦虫を噛み潰したかのような顔つきで幼馴染を睨みつけた。

「……まあそういう意見もあるだろうが、残念ながらあの切り立った山にはまだ残雪もあるし、獰猛な動物も多数生息している。得策では無いな」

「では正面突破をするおつもりで?」

 呆れたように話すクレールに、次はエリーが伊達眼鏡の位置を直しながら皮肉っぽい言葉を投げ掛ける。

「エ、エリー!」

 これには堪らず悲鳴のような声を上げるミーナだったが、皮肉を吐き捨てた当人はそんな少女にお構いなしと言葉を続けた。

「まず自軍の兵力を教えて頂きたいわ。敵どころか味方の情報も無いままの作戦会議なんて時間の無駄でなくて?」

 矢継ぎ早な言葉で、いささか顔に泥を塗られた青年だったが、気持ちを落ち着かせるかのような深呼吸の後にエリーの問いに冷静に答える。

「昨日志願してきた人数は約五百人だ。今日も志願を受け付けているので、千人弱は集まるだろう」
「それならば数にものを言わせれば、大規模な戦闘を避けて突破出来るかもしれないわ。こんな辺境の関に配備された警備兵の数なんてたかが知れているだろうし、士気も高いとは思えませんわよ? こちらの兵は本来の意味での兵としては、装備も練度も不十分かもしれませんが、それだけ居れば十分突破出来るのではなくって? ……時にクレール卿、兵を率いての戦闘経験はお有りで?」

 それでもエリーの言葉は止まらなかった。痛いところを突かれた騎士は視線を逸らし、弱々しく彼女の言葉に答える。

「いや……、兵を率いた事は無い」

 けれども、そんな彼に対してエリーが続いて掛けた言葉は、意外にも彼への助け舟の様な言葉だった。

「だからこそ、その援助者との接触が必要不可欠という事なのですよね? 現状の兵力、人員で国王軍と戦えば、それは戦争ではなく単なる虐殺になってしまいますわ。無論、殺されるのは私たちですけど」
「あ、ああ……」

 辱めを受ける事を覚悟していたのか、少々間の抜けた返事をするクレール。
 すると、そのやり取りを傍で見ていたセレスティーヌが、唐突に声を上げた。

「素晴らしい洞察力と作戦立案能力ね! 私の目に狂いはなかったわ!」

 無邪気な笑顔と賛辞を述べる姫だったが、彼女の瞳の奥に潜む疑心をエリーは見逃さなかった。

「少々出しゃばった真似をしたようで、こういった場は久しぶりなので熱くなってしまいましたわ」
「いや、エリーさんの様な率直な意見は非常に助かるよ。では彼女の案を採用しよう」

 これ以上、話の流れを奪われたくないクレールは、そう言って会議に一度区切りをつけた。
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