エリーと紅い竜

きょん

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第二十話 黒幕

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 館の端にある一室に通されると、そこにはベッドに伏せるクレールと拘束されたシルヴィ、そしてエリーの叔父であるオリヴィエ公が椅子に掛けていた。ミーナたち三人は促されるままに壁際の長椅子へ腰掛けると、公爵に視線を向けた。

「セレス、待たせてしまったな。彼の意識が戻ったので、少し話をしようではないか」

 叔父はエリーの顔を一度見遣った後、表情を引き締めてシルヴィとクレールの方を向く。

「手紙の内容で、事のあらましは理解しているつもりだが確認させてもらう。シルヴィと言ったな、その方が我が姪にして女王フィオレンティーナの妹、セレスティーヌに成り代わった事、そして内通者の手引きに従い、政権転覆を企てた事に相違は無いな?」
「……はい」

 先程とは打って変わり、しおらしくなったシルヴィは俯いたまま答える。

「では問おう。内通者とは、君たちに協力を申し出た者は誰だ?」
「……」

 二つ目の問いに、反逆を企てた娘は口を開かなかったが、クレールが彼女の代わりに質問に答え始めた。

「名は、分からない……。シルヴィをセレスティーヌ殿下に、仕立て上げてしばらくしてから、立派な書簡を持った男が、我々の前に現れた、そして……」
「そいつの手紙にはこうあったんだ――私を新たな女王にする為に力を貸したい。もしもその気ならモルタラの街にまで来い――とね」

 息も絶え絶えな兄を気遣ってか、シルヴィは続きを奪う様に言葉を発した。

「ねえ、そのモルタラの街って有名なの?」
「いえ、どこにでもある様な地方都市よ。ただし、トゥール川の東に位置しているから、関をいくつか超える必要があるわ」

 ミーナの他愛もない質問に答えるエリーだったが、傍らのオリヴィエ公の表情は険しかった。

「となると東側の有力者か。ジェラルドが糸を引いていてもおかしくはないな」
「それってエリーさんのお師匠さんですよね?」

 師の名を出されたエリーは、言葉の主であるジェフを一度見遣った後、叔父の方を向き直して口を開いた。

「今の情勢が分かりませんが、先生に東側の諸侯と何らかの関係が?」
「ああ。奴が王宮を離れた後、諸侯の、特に東の諸侯らの間を取り持って協商を成立させる事に躍起になっているのは有名だ。私にもその協商に参加するようにと使者が来たよ」

 エリーとオリヴィエ公の会話について行けないミーナとジェフは目を白黒させた後に、恥を忍んで質問を投げ掛けた。

「その、ジェラルドっていう、エリーの先生が今回の騒ぎの黒幕だとして、どんな計画を練ってるのか見当が付かないんですけど……」
「俺もよく分からないです、出来たら説明して欲しいような……」

 消え入るような二人の質問だったが、それに同調するようにクレールとシルヴィも声を上げた。

「これ程騒ぎを起こした身としては恥ずかしい事だが、不勉強な私たちにもご教授願いたい……」
「兄貴と同意見だよ」

 そんな四人を見回した公爵は顎に手をやると、それこそ教師の様に語り始めた。



「ではまずジェラルド・アルフォン・ガルニエについてだ。奴は元宮廷術士長で、この国でも最高位の術士でもあり、セレスティーヌの教師役でもあった。フィオレンティーナ陛下の即位後もしばらくは術士長を務めていたが、ある一件でその地位を退く」
「ある一件?」
「ある地域で農民の反乱があり、もちろん国王軍はそれを制圧する必要があった。だがこの反乱制圧はまともなものでは無く、凄惨な虐殺といっても差し支えなかった。その虐殺の一端にジェラルドへ疑いが掛けられた」

 反乱制圧の言葉にクレールとシルヴィは目を見開き、その体を震わせた。

「疑いが挙がった理由の一つに農民の生き残りの証言がある。惨劇と化した原因は兵士による武力行使ではなく、事もあろうことかドラゴンを鎮圧に使用したことが主だったそうだ。しかも生き残りの証言によれば、二つの足で歩き、武具を使いこなす異形のドラゴンだったらしい。とはいえ、これだけではジェラルドとは何の繋がりも見出せないだろうが、奴には黒い噂が付きまとっていた」
「……魂を扱う禁術」

 エリーは叔父の言葉を聞き、呟くように言った。

「話は早そうだな、セレスの言った通りだ。奴は禁術を用いて魂を移し替える術の研究をしているとの嫌疑が掛けられていた。その術を用いて人間の魂を抜き出し、動物やドラゴンに移し替える事で新たな生物、いや兵器の様な存在を作ろうとしているという話もある」
「でも、噂だけじゃどうしようもないですよ?」
「もちろん、噂だけで告発は出来ん。だが罪を問われたわけでも無いジェラルドは自ら王宮を去ったんだ」
「どうして?」
「嫌疑を掛けられた抗議の意もあるだろうな。奴は反国王派の、東側の諸侯との繋がりが厚い。地盤固めとしては最適な行動だろう。それと同時に、前国王と違って、フィオレンティーナが自身の傀儡にならなかった事も一つの理由であろう。奴の目的は自身の支配権の確立だろうから、禁術を用いて強大な軍事力を形成出来れば、直接的な行動だけでなく、財政面でも大きく寄与出来るはずだ。もちろん、ジェラルド本人の知的興味もあるだろうが……」

 説明を受ける四人は時折疑問をぶつけたが、いよいよ入り組んだ話に言葉を詰まらせた。
 だが事情をよく知るエリーは叔父へ新たな疑問を投げ掛けた。

「ですが、先生が今回の偽セレスティーヌ騒ぎの黒幕と推測するのは早合点ではありませんこと?」
「……セレス、この国には王を退位させられる決まりがある事を忘れてはいないか? 奴は既に諸侯の三分の二の支持を得ている。ここで第二位以下であっても王位継承権を持つ者を擁立できれば、合法的にフィオレンティーナを退位させられる」
「忘れてはいません、それならば尚の事です。それに、確か父上が先生の娘を後妻に取るという話もあったはずですが?」

 姪の質問への答え、それがあまり気分の良いものでは無い事を答える前から示すかのように、公爵は顔をしかめた。

「ああ、確かにジェラルドの娘は前国王の後妻になった。だが子は成していない。正確に言えば、出産の時に母子ともに亡くなった。それ故に奴が政治への影響力を高める手段は、今回の件に絡むか、あるいは実力行使に出るくらいしか残ってはいないだろう」
「……ならば叔父様のご推測には私もおおよそ同意します。しかし問題はどのように証拠を掴むかです」

 気付けばエリーとオリヴィエ公が言葉を交わし、残りの者はただそれを聞いているだけという状態になっていた。それはまるで社会の縮図、一部の者が全体の命運を決めるかの様でもあった。
 しかしそこでシルヴィ、つまりは偽物のセレスティーヌ姫が声を上げた。

「それなら簡単だよ。私が協力者の所まで行って、騒ぎを起こさせればいい。女王を退位させるっていっても、会議みたいなのは必要だろ? その会議みたいな場で、エリーちゃん、もといセレスティーヌ殿下がお出ましになれば良い。偽者を擁立してまで王位を奪うよう奴なら有罪確定、火炙り待ったなしだろ?」
「確かにその通りだけど、かなりの危険が伴う事を承知なの?」

 勇ましい提案を受けた本物のセレスティーヌ、つまりエリーはシルヴィに覚悟を問い返す。

「馬鹿にしないで欲しいね。あんたらの話が本当なら、私らは故郷の仇に利用されてたって事になる。どうせ一度死んだような身だ。真実を知る事が出来て仇を討てるなら、命なんて惜しくないね」
「……わかったわ」

 故郷の、本当に仇をなすべき存在を見つけたシルヴィはその瞳に再び復讐の炎を宿す。それとは対照的に冷静さを保つエリーは静かに叔父を見遣った。

「作戦の方向性は決まったようだな。もう少し話をつめておこう」

 一度頷いたオリヴィエ公はおもむろに立ち上がると、シルヴィの手枷を外した。
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