エリーと紅い竜

きょん

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第二十九話 大空

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 深紅の炎竜と漆黒の巨竜の戦いは壮絶さを増す一方だった。美しくも歴史ある都の街並みはその姿を無残な物へと変えられてしまったが、それでも二頭のドラゴンの決着はつく気配を見せずにいた。
 激しい取っ組み合いやぶつかり合いを繰り返し、やがて二頭は大きな跳ね橋の閉じられた城門にまで迫った。そこに居ると思われた者たち、さしもの勇敢な兵たちもこれらの戦いには抗うことが出来ずに民衆を避難させると、自身たちの身の安全を確保し、城壁の上からその死闘を見守っていた。気づけば先程までの叫び声や悲鳴は静まり返り、響くのはドラゴンの咆哮や、家屋の壁や石畳が破壊される轟音だけだった。
 そんな異様な雰囲気の中、何が出来るかは分からなくとも、少女に分け与えてもらった魂の煌めきを胸に、エリーはフィオレンティーナの元へと辿り着く。

「姉様!」

 邪竜の後ろ足での一撃を深紅の竜がその腹部へと受けた瞬間、娘は大声を張り上げた。ドラゴンとなったフィオレンティーナの身体は宙を舞い、受け身を取る事も出来ずに地面に叩きつけられ、そして沈み込む。
 エリーが一目散に傍らへと走り寄って見れば、工芸品のように優美だった紅の竜鱗はあちこち剥がれ落ち、その戦況が芳しくない事を如実に語った。
 片やジェラルドはと言えば、筋骨隆々としたその肉体にはほとんど傷も無く、それどころか体のあちこちを脈動させ、更にその存在を強大なものへと変える最中のようにも見えた。

「まだ生きていたか。だが今更お前に何が出来る?」

 自身の勝利を信じて止まない男は、邪悪なドラゴンへと成り果てたその姿で、駆け付けた王妹に嘲りにも似た言葉をぶつける。
 だが、小山のような巨躯に相対してなお姫は臆する事なく、剣の切っ先をかつての師に向けると、その蒼い瞳が紅く染まるかのような怒りを宿して睨み返した。
 妹のそんな立ち振る舞いを、塞がりかけた瞼の隙間から見ていたフィオレンティーナは、身を起こして彼女の側へ顔を寄せた。

「グルルル……」

 エリーに向けてなのか、喉奥から発せられる唸り声。人語とは全く違う、獣の声だったが、何かを訴えるかのようなそれを受け取った彼女は、神妙な顔つきで姉の蒼い瞳を見つめた。
 すると、それを見たジェラルドは一段と強く嘲笑を浮かべると、しゃがれたような耳障りな声色で高らかに吠え叫んだ。

「言葉も言えぬようになる、不完全な術が王家の秘術か! もはや人間としての理性や知性も殆ど残っていないようだな!」

 だが、男の言葉など意にも介さぬかのように、何かを訴えるかのようなフィオレンティーナの瞳を、エリーはじっと見つめる。
 すると、おもむろにその瞳は、墨汁を流したように黒々とした雷雲に未だ覆われている天を見遣った。その女王の仕草は天を仰ぎ、終末への祈りを捧げるかのような所作であった。
 しかし、蒼い瞳で深紅の竜と見つめ合う姫は、姉がその様に引き際を知る人間でない事を良く知っていた。
 そして、時間にして数秒にも満たない思案の後、エリーは目を見開き呟きを漏らす。

「分かったわ」

 言葉など無くとも通じ合えたのかのように、それ以上、何も言う事なくエリーは再びジェラルドの方を向く。

「待たせたわね」
「構わん、なかなかに感動的な姉妹愛を見させてもらったぞ」

 余裕をたっぷりと含ませた態度のジェラルドとは対照的に、エリーの表情は硬いものだった。
 だがその顔には覚悟とも、決心とも取れる強い意志を感じさせる何かがあった。

「では、この戦いも幕引きとしよう!」

 いよいよ迎える決着の時。漆黒の邪竜は言葉を言い終えると、大口を開け、この世のものとは思えないおぞましい咆哮を上げる。
 それに対するは一人と一匹だったが、エリーは、起き上がったものの激しく消耗したフィオレンティーナを庇うかのように、彼女に背を向けたままジェラルドと対峙した。
 すると娘は何を思ったか、構えていた長剣を鞘に収めると、心を落ち着かせるかのように両目をつぶる。

「観念したか! 良いだろう、ひと思いに屠ってやろう!」

 勝利を確信した雄叫びを上げると、ドラゴンは必殺の冷気を放たんとして深い呼吸をする。鼻孔を膨らませ、体内に大量の空気が取り込まれていく。
 それでもエリーは微動だにせず、念じるかのように、その場に佇むだけだった。
 そしていよいよ体内に蓄積された大気を、不可思議な器官によるものか、あるいは術の力によってか、方法は定かでないにしろ、地上の最も寒冷とされる地域で吹き荒れる吹雪を遥かにしのぐ冷気を浴びせ掛けんと、大口を開け広げた。
 だが、目を伏せていた姫は揺れ動く空気の流れの変化を敏感に察知し、それに伴って感じ取った、漆黒の竜に出来た隙を見逃さなかった。
 雷鳴が轟くと同時にエリーは目を見開き、右手を突き出して黒竜を指差した。

「天よ吠えろっ! 召雷!!」

 娘の掛け声の直後、耳をつんざく破裂音を伴って、目も眩む白い雷光がドラゴンに向かって一筋の線を描く。
 破滅と終焉を思わせる陽光すら遮る分厚い黒雲――それは皮肉にも雷撃の標的とされた男が呼び寄せたもの――を味方につけた麗しき水術士は、立ちはだかる邪竜に天の怒りを降り注がせた。

「うぐあああああ!」

 自身の放ったそれを遥かに上回る強大な稲妻に貫かれ、絶叫を上げるジェラルド。強靭な肉体もこの強烈な一撃を受けて無事なわけもなく、光り輝く一閃に貫かれたその身体は内部から焼かれ、凄まじい臭いを辺りにまき散らす。
 硬直した肉体はやがて脱力し、そのまま地へと沈み込む――城壁の上から見守る兵士、頑丈そうな建物に避難したものの、野次馬根性を抑えきれずに覗き見る民衆、そしてエリーとその背後に居る深紅の竜は、そうなる事を切に望んだ。
 だが、事はそう簡単には終わらなかった。体の穴という穴から血液を垂れ流し、鱗の下からは煙を上げ、さらには神経を切り裂かれたのように全身の筋肉を細かく痙攣させながらも、なお漆黒のドラゴンは自身の足で大地に踏みとどまっていた。

「……味な真似をするではないか」

 しゃがれた声を出したジェラルドは、血涙を流す双眸でエリーを睨みつけた。

「大した術ではあったが私は耐えた。あれ程の術、お前程度の力では二回は使えまい」

 敵の言う通り、実際エリーは酷い疲労とめまいに襲われていた。如何に既にあった雷雲を利用したとはいえ、はるか上空にその術力を干渉させて、それほど大きくない目標を貫くのは並大抵の事ではない。さらに言えばもう一度同じことを――その命を賭せば可能かもしれないとしても――したところで、この歪んだ野望に狂った魔獣を倒せる保証も無かった。

「……とんだ化け物ね」

 口では悪態をつきながらも、顔を引きつらせたエリーはおぼつかない足取りで後ずさりする。彼女は逃げ出す力も殆ど残っておらず、せいぜい自分が囮になって傷ついた背後の姉を逃がすくらいの策しか思いつかなかった。

「さあ、今度こそ終いにしようではないか」

 その言葉の後、再び激烈な冷気が姫を襲おうとした。だがその瞬間、エリーの両足は不意に地を離れる。背後のドラゴンは劣勢の姫の窮地を救わんと、その身体を力強く抱え、猛烈な速度で地上を離れていくのだった。
 一対の翼を激しく羽ばたかせながら、雷雲の中目掛けて飛び進んで行く紅いドラゴン。それをジェラルドが見すみす見逃すわけもなく、自身の背に残された三枚の翼を駆使してその後を追った。



 速度で遥かに勝るフィオレンティーナは、抱えていた妹の身体を一瞬だけ宙に放り出すと、その満身創痍の身からは想像出来ない軽やかな身のこなしで、彼女を自身の背に乗せ直した。これには、さしもの冷静沈着なエリーも肝を冷やしたが、一度大きく息を吐くと強烈な向かい風に負けないように両の足で姉の背を挟んだ。

「どうする気なの! まさか逃げるわけじゃないでしょうね!」

 嵐のような風切り音の中、娘は大声で姉に尋ねると、蒼い瞳のドラゴンは笑うかのように目を細める。それが何を画策しているのか妹には分からないまま、一人と一匹は雷雲の中に飛び込んでいった。
 水滴が石の礫の様に降り注ぎ、エリーは思わず身を伏せて、竜の背に生えた金色のたてがみに顔を埋めた。雷鳴が響き渡り、稲光がすぐ傍らでほとばしる、まさに世の終焉のような光景が彼女らを取り囲んでいる。
 けれどもフィオレンティーナはお構いなしに羽ばたき続け、その凄まじい飛行力でついに黒雲を突き抜ける。
 一瞬にして雨は止み、雲海を眼下にその景色は穏やかそのものだった。
 どこまでも続く空、降り注ぐ陽光。地上よりも遥かに低い気温さえなければ、ここをとこしえの楽園と評したくなるほどの穏やかな光景が二人の蒼い瞳に映っていた。
 やがて速度を落としたドラゴンは、太陽を背に極低速度で円を描くような滑空へと動きを変える。そして背に乗せた姫の方に顔を向けると、小さく唸り声を上げ、それと同時に自身の喉元、つまりは竜の弱点とされる部位を手の指で指し示す。

「それは分かるけど……」

 思わず否定的な台詞を吐くエリーだったが、そんな彼女にフィオレンティーナは片目をつむり、口元を僅かに上げた。

――姉様が何とかしてやるよ。

 それは威厳ある女王ではなく、妹を想う姉としての彼女の言葉が聞こえたかのようであった。
 直後、姉妹の眼下に、彼女らを屠る事に文字通り血眼になった黒竜が雷雲を突き破ってその姿を現す。
 負の感情の権化となったジェラルドを視界に捉えたフィオレンティーナは、この時を待っていたかのように猛々しい咆哮を上げた。滑空状態から一転、高度差を利用した加速は、その姿を流星のように思わせるかのような速度で、両者の間合いを一瞬にして縮める。

「来い! 臆する事など、この私には絶無なのだ!」

 どこまでも傲慢な男は、深紅の竜が放つ渾身の一撃を避けようともせずに正面から立ち向かう。
 それを見透かしていたのか、女王は僅かに笑みを浮かべた直後、その頭を下方へと傾げる。そして、背に受けていた、地上のものよりも数段と眩い陽光が邪悪なドラゴンの双眸を灼いた。
 ジェラルドがその視力を一瞬失った瞬間、フィオレンティーナは彼の腹部へと掬い上げるかのような体当たりを加えた。邪竜の体は仰け反ると、失速したまま落下を始める。

――今だ!

 フィオレンティーナが、体当たりによって自身もバランスを崩してきりもみ状態になる寸前、そう言うかのように咆哮を響かせ、それを受けたエリーは急所を無防備に晒す黒竜目掛けて、その身を宙へと投げ出す。そして、煌めく刃の一撃を、一筋の雷光のように怨敵の喉元へと突き立てた。
 エリーが手にした長剣は、比較的柔らかな部位とはいえ、巨躯に比例した強靭さを誇るドラゴンの体表を何とか切り裂き、その刀身の半分近くを突き刺す事が出来た。
 だがそれでも、歪な魂の集合体とも言える化物を即座に絶命させる事は難しく、噴き出すどす黒い血液を浴びながらも彼女は刃を更に押し込もうと必死に奮闘する。
 しかし次の瞬間、雄叫びを上げて剣に力を込める娘に、鋭利な爪の斬撃が襲い来る。翼を一つ失っているジェラルドは体勢を容易に整える事が出来なかったが、四肢をばたつかせると、悪あがきのような一撃を放つ。
 エリーは寸での所でその攻撃を避けたが、鋼よりも強靭な金属で作られた鎧の肩当てが、ドラゴンの一撃でまるで紙を切るかのように切り飛ばされ、木の葉のように舞いながら雲の中へと消えていった。
 気付けば周囲は再び、あの地獄のような、まるでこの死闘を象徴するかのような壮絶な様相を呈していた。そして暴風が吹き荒れる中、未だ足元の邪竜はその息の根を止めずに、狂った殺意を姫へと向け続けていた。
 降り注ぐ雨粒は肌を刺す針の如き痛みを感じさせたが、エリーは意に介する暇もないかのように、剣の柄を握ったまま、続けざまに襲い来る爪の斬撃を避け続ける。
 だがやがて、寒さと疲労から鉛の様に重くなった筋肉は彼女の意志をくみ取らず、軽合金の鎧を切り裂くドラゴンの一撃によって、エリーは深い傷を負う。

(仇は討てないようね……)

 折れかけた心。不意に彼女の、柄を握り締めていた手から力が抜けそうになる。
 しかしその瞬間、咆哮と共に閃光の如く紅い竜が邪竜の背後へと回り込み、動きを封じるかのように首根っこに牙を突き立てた。
 雷鳴を切り裂く絶叫、一瞬止んだ姫への攻撃。これが彼女たちに与えられた最後の機会だった。
 残された全ての力――それはエリー本人のものだけではなく、少女から譲り受けた魂の欠片も――を振り絞り、意識を集中させる。

「天よ! 世の理を歪め、邪なる野望に狂った悪しき者に裁きの鉄槌を!」

 周囲に迸る稲光。長剣の柄から手を離し、その身を宙へと投げ出したエリーは再びその右手をジェラルドへと突き出した。

「召雷!」

 妹の動きに合わせて、身を蹴り出したフィオレンティーナ。更に体勢を崩された邪竜は身を翻す事も出来ず、眩いばかりの雷撃をその身に浴びた。
 一本の槍の様に降り注いだ雷は、喉元に突き刺さる長剣に吸い込まれ、ドラゴンの体内へと強烈な電撃を流し込んだ。
 猛烈な風切り音でさえかき消せない、断末魔の大絶叫が響き渡ると、漆黒の竜、ジェラルドは大海に飲まれた藻屑の様に、その巨体を黒雲の中へと消す。
 そしてエリーも徐々に意識を失うと、速度を速めながら地上へと落ちていった。



 力無く落ちていく姫の身体はあっという間に雲を通り抜けたが、地上目前でその身は深紅の竜によって捉えられた。
 フィオレンティーナは妹の身体を胸元に抱えると、彼女を庇うかのように体を丸め、城壁の外、諸侯たちの軍勢の眼前にその身を叩きつけるかのように着地する。轟音と共に土埃が舞うが、ほぼ同時に少し離れた場所で更に大きな衝突音が鳴り響いた。
 程なくして土埃が収まると、ぐったりとしたエリーを左腕に抱きかかえる、人間の姿に戻ったフィオレンティーナの姿が現れた。彼女の右手には王家の秘術が封じられていた宝玉が握られていたが、それは既に輝きを失い濁った蒼色へと色を変えている。
 そしてそれは、戦場を駆ける一陣の風によって、砂塵の如く崩れ去った。
 フィオレンティーナは手の内にあった感応石の残骸を一瞥すると、衝突音のした方角、ジェラルドが落下したと思われる方に顔を向ける。
 もう一つの白い土煙が晴れると、そこにあったのは喉元を剣に貫かれ、苦悶に顔を歪めたまま事切れた人間の男の亡骸だった。
 遂に因縁を断ち切った女王は、勝利を分かち合おうとするかのように妹に声を掛ける。

「セレス! やったぞ!」

 だが氷のように冷たくなった姫は言葉を返す事無く、糸の切れた人形のように姉の腕に抱かれるだけであった。





 人智を超えた死闘を目撃した者たち、それは都に住まう民や兵だけでなく、反旗を翻した諸侯とその軍勢は、自身の君主が誇る威厳に頭を深々と垂れた。同時にジェラルドの行った罪が白日の下に晒されると、彼は大逆者として葬られる事となった。



 数日後、この戦いにおいて最も勇敢だった姫も、民の悲しみと共にその魂を大地へと還そうとしていた。臣下や国民たちと最期の別れを済ませたセレスティーヌを納めた棺は王宮を後にすると、歴代の王やその家族の眠る廟へと安置された。
 しばらくの間、街は色を失ったかのようだったが、やがて悲しみから立ち直り、普段の活気を取り戻していった。



 こうして日常が戻りつつあったある日、女王フィオレンティーナは従者も連れずに、たった一人で廟を訪れていた。
 大理石で出来た建物の内部は、死者に安らかな眠りを与えるかのように静まり返っている。女王の歩く音だけが響き、その残響は広々とした霊廟の隅々まで広がり、やがて消える。
 フィオレンティーナは母の、そして妹の名の刻まれた石棺に、手にした花をそっと供える。そして小さくため息をつくと、おもむろに踵を返して、その場を後にした。



 時が止まったかのように静かな廟から出ると、曇った空から霧雨が降り注いでいる。今の季節には少し早過ぎる、肌にまとわりつく湿った空気が漂い、彼方の空からは遠雷が微かに聞こえた。
 それと同時に廟の陰から、聞き覚えのある、どこか呆れの混ざった娘の声が彼女に向けられた。

「死んでもいないのに弔われるっていうのは、あまり気分の良いものじゃないわね」

 声の主は蒼い双眸でフィオレンティーナを見つめると、肩をすくめながらも、その顔に微笑みを浮かべた。

「そのおかげでお前は自由の身なんだ。あたしと、あのシルヴィという娘に、少しは感謝したらどうだ?」
「感謝してるからこそ、最後にこうして別れの言葉を言いに来たのよ。それにしても、あの娘の遺体を私の身代わりに葬るっていうのは、いささか悪趣味な策ね」

 フィオレンティーナの深紅のドレスとは対照的な、緑色の旅衣に身を包んだエリーは、いつも通りの皮肉めいた物言いで姉に突っかかるような言葉を返した。

「ならば姫の名を騙った罪人として葬った方が良かったか? それに安心しろ、葬儀の後にシルヴィの亡骸は故郷の地に還すように命じておいた。ここにあるのはセレスティーヌの名が刻まれただけの空の棺だ」

 大きくため息をつくと、姉は腕組みをして妹の顔を見つめ返した。

「そう、なら良いのだけど」
「で、もう行くのか?」
「ええ、折角の姉様の好意を無駄にはしたくないし、それに……」

 エリーは一度言葉を切ると、廟を取り囲む柵の向こうで待つ、ミーナとジェフの方に視線を向けた。

「私を想ってくれる仲間が待っているから」
「はっ、お前らしくない事を言うもんだな」

 自分を押し殺して生きて来た妹が見せた表情――そして、その表情を取り戻させた少女たちに、軽い妬みを覚えたかのようにフィオレンティーナは小さく舌打ちをする。
 そして彼女はそっぽを向くかのように明後日の方角を向き、最後に一言だけこう言った。

「じゃあなエリー、元気でやれよ」

 背を向けたまま別れを告げると、姉はそれ以上何も言うことはなかった。

「……ありがとう」

 霧雨に包まれた妹は頬から雫を滴らせると、呟くように感謝を述べ、仲間たちのもとへと駆けて行く。





 そして、彼女は自身の望む場所へと帰って行った。
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